軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚醒

――――王城で

それは王城の中庭にある球戯場で起こった突然のことだった。

一ヶ月以上前から急に自らを鍛え始めた王太子、よく学びよく動き、元々の美しさを更に磨き上げ、輝く白金の髪は更に美しさを増し、藍色の目は力強さを増し、肌すらも輝き、見るもの全てを魅了する美しさを得た王太子が、突然表情を変えて重く力の込められた声を上げた。

「……そうか、そう言うことか。

体を鍛えながらずっと考えていたけどようやく分かってきた、あいつが全部を奪ったからこんなおかしなことになったんだ……。

ストーリー開始前に動き始めたオレが悪かったのかなんてことを思ったりもしたけど、分かってきた……アイツだ、アイツが全部悪いんだ。

アイツがきっと悪魔みたいな存在から力を得たからこうなったんだ。

オレが特別だから……特別なオレという存在が転生してきたから、悪役のあいつにカウンター的な力が与えられたんだ……!」

それはあまりに唐突過ぎる言葉で、周囲の者達は誰もその意味を理解することが出来なかった。

理解は出来ないまま、また王太子が何か思いついてしまったのかと顔色を悪くする者がいれば、それを利用しようとほくそ笑む者もいて……王太子の次の言葉に良くも悪くも注目をする。

「だがアイツは何も分かっちゃいない、中途半端に甘い判断をして敵を殺さずに放置ばかり。

殺した方がポイントが稼げるのにそれすら分かっちゃいないんだ、所詮は作られた存在……。

そしてその全員が一度に敵対するなんて思ってもいないんだろう……誰か力を持った者がまとめ上げるなんて予想すらしていないんだろう。

おかげで本来仲間にならない奴らを仲間に出来そうだ! 見たことないユニットもいっぱい……これならいける、いけるだけの戦力が揃う!

だから……だからやるんだ、オレが……オレが今ここで、父上がいないうちに……」

王の不在。夏のこの時期、休息を兼ねて王が国内を巡行するのは毎年恒例のことで、これを利用しようとする者はいないこともなかったが少なかった。

それをやれば王だけでなく巡行を待ち構えている地方領主の怒りを買ってしまい、国内全てが敵になることもあるからと、誰もが自重をしていたのだ。

自領を中々離れられない地方の領主にとって国王の巡行は、中央に直接意見を伝える大事な機会であり、国王に同行する中央貴族達と様々な縁を結ぶという意味でも貴重な機会であり、それを邪魔するなどあってはならないことだった。

しかし王太子はこれを利用することを思いつき……実際に行動を起こし始めてしまう。

王太子の指示により開発された戦車、それに王家の紋章を刻み旗を掲げ周辺への威圧を開始、王太子の指揮下に入るように強制し始める。

戦車の戦場における戦力価値は全くの未知数ながら、王家の紋章が刻まれた相手に攻撃する勇気は王都周辺の貴族にはなく、ただただ頭を垂れて言葉を従うことしか出来ない。

トラクターという戦車のような農具を使うことを強制され、農作物の増産とそれによる兵糧確保を確約され……初夏とは言え、今からでは時間的に厳しいものがあるという意見は一切が封殺され、畑を増やせば収穫量を増やせるだろうと耳を貸さない。

軍によって威圧され、そうまで言われてしまっては従うしかなく、周辺の者達は王太子に言われるままにトラクターの運用を始めた。

一度も戦闘をすることがないままで戦力としての価値は不確かな戦車だったが、行軍速度はかなりのもので、魔法石さえあれば休憩の必要なく飼葉や水も必要なく、常に一定速度で進めるというのも大きな意味があり、行軍管理において素人同然だった王太子であっても、周辺への進軍が可能だったということは大きかった。

あっという間……本当にあっという間に東部一帯を支配下に置いて、大きな勢力圏を作り出すことになる。

線路が必要ないどころか未整備の悪路でも走行可能、物資の運搬は苦手としているが、王太子の言を信じるのであればかなりの戦闘も可能で……その動きを目の当たりにした者の中には未来が来たと信じる者もいて、王太子の勢力は強大となっていく。

そんな王太子の側には複数の貴族の姿があった。

情勢不利となり領地経営に失敗し、代官に全てを押し付けて逃げ出してきたエリアン公爵。

その配下のような動きをしていたマケライ男爵ラミール。

決闘賠償をとりあえずの一段落をさせて一時的に自由の身となるなり逃げ出して王都に来たオーザド伯。

そして王太子派ということで活動していた何人かの貴族達。

その誰も彼もが忠誠を誓っている訳ではなく、ただただ王太子を利用しているだけだったが、確かに側にいて協力はしていた。

また王太子の姉である王女やそれと懇意にしていたという南西地方の領主も間接的にではあるが協力的な態度を示していて……これにより王太子は勢い付いていくことになる。

一方で王太子から距離を取る勢力もいた。

宰相、リュード軍務伯、グレイ侯爵クラーク……などなど。

王太子の動きを見てすぐさま正気の沙汰ではないと判断し、全力で距離を取りながらも妨害などはせず、趨勢を見極めるために自領や親戚の領地などで何もせずに静観。

そうした勢力が活発に動いていれば王もすぐにその状況に気付けたのかもしれないが、休暇の巡行中ということもあってすぐには気付けず、気付いた頃には距離が離れてしまっていてすぐに対処するには難しい距離となっていた。

それでもと踵を返して戻る勇気が王にあれば良かったのだが……あの王太子が勢力を築きつつある王都に帰る勇気は、王にはなかった。

本当に自分の息子なのかと疑いたくなる性格と言動、それでも愛してはいたが、ここまでされてはその愛も揺らいでしまうというもので……せっかくの巡行だからと親しい者達全てを連れてきていたことも、王の決断を鈍らせていた。

……このまま戻らなくても良いのでは? それよりも国のため未来のため目標を完遂した方が良いのでは?

空気が綺麗で予想以上の発展をしていて、街並みからも未来を感じ取れるここで暮らした方が自分にとっても良いのでは?

幸いにしてここはカーター子爵領、伝統と王家を重んじる領主が治める土地。

ここであれば自分と自分が愛する者達の平穏は約束されていて……結局王は勇気を振り絞ることが出来なかった。

そうして王太子の動きは更に活発化していく。

王国東部を掌握し、自分が最良と思う政策を推し進め……かなり雑ではあるが勢力を築き上げていった。

全てはウィルバートフォース伯ブライトに対抗するため、勝利するため……その全てを奪うため。

そうやって活発に王太子が動く中、王不在となった王都ではいくつもの火種が燃え上がりつつあった。

王が健在であればその火種に対応出来ていたかもしれない、燃え上がる前になんとか出来ていたかもしれない。

しかしその王は不在で、王太子はそちらに全く意識を向けないままで……いくつもの火種はじわじわと燃え上がり、大きくなっていってしまうのだった。

――――執務室で二人の騎士からの報告を受けながら ブライト

サー・マイクロフトとデイム・ジョージナ。

その二人はただ領地に来るだけでなく、ついでとばかりに一仕事をこなしてくれたそうだ。

賠償として手に入れた品々の運搬と護衛、それをわざわざ買って出てくれたとかで、こちらが用意した鎧を着込み、飛空艇に乗り込んで東部に向かい……見事その全てを無事に回収。

あちらに派遣していた人材全てと一緒に無事に帰還してくれた。

サー・マイクロフトは30代くらいのなんとも地味な男性だった。

市販の黒色のスーツを着て腰に量産品の剣を下げていて、騎士らしくオールバックにした茶色の髪に太い眉、茶色の瞳はやや横長で、がっしりしたアゴが特徴的ではあるが……地味だった。

そこらの騎士に交ざって並んだら中々見分けがつかないといった印象で、しかしアレス男爵とあれだけやり合えたのだから、それなりの腕前ではあるはずだ。

人物としては中々の好人物、真面目で実直……なんだってこんな人がオーザド伯の下にいたのか? なんてことを思ってしまうが、真面目だからこそ自分の利益を優先出来なかったと言うか、主人を捨てて他に身を寄せるということが出来なかったのかもしれない。

デイム・ジョージナは……噂通りの美貌を持った女性だった。

特注したのかその体に合わせた男物に見える紺色のスーツを着て、飾り付きの鞘に入った細剣を腰に下げていて、歳は18だそうだがパッと見は20半ばに見える、髪の色は……どう表現するのが良いかは分からないが、多分白銀と言うのが一番良いのだろう、光をよく反射しているのか動く度、呼吸する度キラキラと煌めいて思わず視線を向けたくなってしまう。

滑らかなウェーブのかかったその髪は長く……一方で眉毛は短く太くつり上がっていて特徴的で、大きな瞳との対比と言ったら良いのか、大きな差があるからこそ目を引く。

白金といった感じの色の瞳は力強く……鼻筋は高く真っ直ぐ、そして唇は厚めで、とにかく美人と言うか、力強い色気を持った人だった。

それでいて鍛えているからか体はがっしりとしていて……そりゃぁ話題になるよなぁといった感じだ。

あえて悪い言い方をすると濃ゆい顔で、ちょっと濃すぎて個人的な好みではないのだけど、だからと言ってその美しさを否定することは誰にも出来ないだろうなぁ。

そんな二人による報告を執務室で受けた俺は、まずは頷き礼を言って……それから二人に今後どうしたいかという希望を聞いてみることにした。

景品のような形でその身柄を得はしたが、だからといって生き方まで強制する気はさらさらなかったからだ。

「二人とも望む道を自由に選ぶと良い。

私の騎士にならなくとも、道はいくらでもある……私の希望としてはマイクロフトには海軍か空軍を任せ、ジョージナには姉上の護衛を任せたいのだが、他に希望があるならそちらを優先しよう」

海軍は新たに得た領地……遠方にもある観光島を守るために設立しようとしている戦力で、空軍は飛空艇運用を軸とした戦力。

どちらも今後のことを考えると必須で、ライデル、アレス男爵は手元に置いておきたいからと、どちらかをマイクロフトに任せたいと考えていた。

ジョージナはバルトロの進言通り姉上の護衛を任せたいが……今まで色々と振り回されてきた身なのだから、やりたいことがあるならそちらを優先してくれても良いと思っている。

そんな俺に対しての二人の答えは、

「このマイクロフトは、伯爵のお言葉に従います、自分だけでなく家族まで温かく迎え入れてくださっただけでなく、立派な屋敷と信じられない厚遇を頂いたのですから、命を賭してでもその御恩に報いましょう」

「騎士としてこのジョージナ、レディを守れること真に光栄で、異論はございません。

伯爵からの御恩とそのお言葉に応えるためにも、見事役目を果たしてごらんにいれましょう」

というものだった。

……言ってしまうとそこまでの厚遇はしてないんだけどなぁ。

屋敷もライデルやアレス男爵に用意したものに比べれば質素、既に完成していた物を買い上げて用意しただけに過ぎないし、給金なども他の騎士と同じ程度。

本当の厚遇はこれからと言うか、二人の働きを見てから今後の待遇を考えようと思っていたのだが……うぅん、オーザドの下ではどんな冷遇を受けていたやらなぁ。

「……ところで伯爵、ご報告が」

「王都での動きについて、お話ししたいことが」

あれこれと考えていると二人が同時にそんなことを言ってきて……飛空艇での任務ついでに仕入れたというとんでもない情報を話してくれる。

直接その目で確認した訳でも、しっかりとした裏取りをした訳でもないが、その情報は噂となって東部を駆け巡っていたらしい。

誰もがそれが真実であると確信していて、まだこちらには届いてはいないが新聞記事にもなっていて……その噂と記事の規模から、まず間違いないだろうとのことだ。

そしてその情報とは最近になって動き出した王と王太子についてで……それを聞いた俺は、頭を抱えることになってしまう。

いや、嬉しいよ? 言っちゃうと俺の目的のためにはありがたいと言うか、色々楽になったと言うか、色々やりやすくなったようでありがたいんだけど……仮にも、仮にも一国の王と王太子がそれはどうなんだ!?

そんなことをして今後どうするつもりなんだ? それぞれの企みと言うか目的が上手く果たされたとして、その先に良い未来が待っているのか?? この国が良くなるってビジョンがちゃんとあるのか??

復讐にこだわっている俺でもその後のことはちゃんと考えているぞ? そのための準備をしているぞ? その準備のための足踏みもちゃんと受け入れているぞ?? お前達はどうなんだ? そこら辺ちゃんと考えているのか!?

……と、そんなことを叫びたかったが新人二人の前だからと精一杯に頑張って耐えて耐えて、どうにか言葉を呑み込んだ俺は、苦労しながら笑顔を作り、

「報告ありがとう、助かったよ」

と、そんな言葉を二人の新人騎士達に返すのだった。