軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結婚式

こちらの結婚式は、基本的には前世の教会式のものに似ているが、結構違う点がいくつかある。

まず誓う相手が神々であること、なので式場には様々な神像が並べられる。

自分の神、結婚相手の神、参列者の神、地域や季節の神。

それを見て参列者は「風流だなぁ」なんてことを思いながら、神像に挨拶をしてから席につくそうだ。

そして誓いの言葉、これにテンプレみたいなものはなく、新郎と教会代表者が話し合って、新郎新婦に相応しいものを作り上げるそうだ。

誓いのキスもない。

いや、しても構わないのだけどキスだけが誓いの方法ではない、様々な方法で行われて、これという決まった形は存在しない。

その土地や国の風習を尊重しようという考え方からそうなったそうで、有名なのでは大陸のある王家の結婚式では誓いの狩りを行うことになり、披露宴に出すための肉全てを新郎新婦が狩ってきた、なんて話まであったりする。

……で、俺達はどうするか。

あれこれと話し合いはしたのだけど、あんまりに突飛なやり方は俺が受け入れがたいということで俺にとってのテンプレ、前世で良く見た形で行うことになった。

とは言え全てを前世のまま行うことは出来ないので、こちらと前世のミックス結婚式が今日行われる結婚式となる。

という訳で教会の結婚式場に、真っ白なスーツ姿でまず俺が向かう。

扉を開けて中に入ると、まっすぐに伸びる絨毯の左右に神像が並び、神像の隣に何列もの長椅子があり……長椅子には参列者の姿。

前の列から偉い順、軍務伯は最前列、平民は最後列といった形で……そして最奥の誓いの祭壇にはセリーナ司教様がいつもより豪華で荘厳、歩くのにも大変そうな何重にも布を重ねたローブと宝石をたっぷりと絡めた木の枝といった印象の杖を持った姿で待っていて……そこに向かって一人で歩いていく。

腰ベルトには儀礼剣が下げられていて、それがカチャカチャと音を立てる以外は静かな空間となっていて……セリーナ司教様の前に到着したなら跪き、浄化の儀式をまず受ける。

どういう理屈なのかは知らないけども、米と精油を頭や肩にかけられると浄化が完了するらしい。

チャーハン食べたいなぁ、なんてことを考えながらそれを受けたなら、立ち上がって振り返って新婦であるコーデリアさんの到着を待つ。

……そして正面から参列者を見て思う、偉い順に座るのも問題大有りだなと。

左手の椅子には軍務伯を始めとした貴族達が、そして右手の椅子にはドルイド族の王族達がいるのだけど……ドルイド族の後ろの人達は前が見えないんじゃないかな、これ。

特に壁側の人達……ドルイド族の背中だけ見て終わりって人もいるかもしれない。

……まぁ、まぁまぁまぁ、ここまで歩いてくるコーデリアさんの姿は見られるだろうし、披露宴もあるので我慢してもらうしかないか。

なんてことを考えていると騎士達に護衛されたコーデリアさんが到着する。

これも違いの一つか、誓いの場まで案内するのは騎士達で、引き裾を持つのは女官ということになっている。

まぁ、今回はアレス男爵の娘、タニア嬢が持ってくれているので全員騎士という感じではあるが……。

そしてコーデリアさんは、この日のために用意したドルイド風のドレスでの登場となる。

緑の布を基調としつつ、母上の改善案も取り入れて白い部分やベールもあって……そこかしこに宝石が散りばめられ、胸元やイヤリングなども最上品質、目を瞠る程に美しい。

俺の側までやってきたなら俺が手を取り、祭壇の近くにまでエスコートをし……それからベールを取って、お互いの顔を見つめ合う。

結婚式ということでしっかり目の化粧だが、それがまたしっかりとコーデリアさんに合っている。

目元や頬をピンク色に塗っていて、しっかりと分かるレベルなのだけど下品ではなく……うん、綺麗だと素直に思う。

そうやって見つめ合った状態でセリーナ司教様が祈りの言葉を口にし始め……ここからがかなり長いのだが、並ぶ神像全ての神の名前とその役割、今日の結婚式でくださるだろう加護についての話が始まる。

……長いし無駄じゃね? とか思ってはいけない。

これも伝統、伝統に支えられた貴族としては蔑ろにする訳にはいかない。

それにずっとコーデリアさんの顔を見ていれば良いのだから苦はない。

……コーデリアさんも煌めく目でこちらを見つめていて、頬が緩んでとても嬉しそうだ。

神々の紹介が終わったらようやく誓いの言葉。

話し合いに参加したセリーナ司教様は内容を既に知っているが、コーデリアさんはまだ知らない、来賓ももちろん知らない。

なのでしっかりと通る声でハッキリ分かるように声を上げる。

「コーデリアさんへの永遠の愛を誓います、死が二人を分かつまで」

本来誓いの言葉はもっとややこしく長々しいものらしい、貴族であるならば先祖代々の功績なんかを上げて、その血を未来に残すためとか、そんなことを言うらしい。

そんな言葉よりはこちらの方が良いだろうと考え、セリーナ司教様にも賛成してもらえた言葉を口にすると、コーデリアさんは涙を流しながら応えてくれる。

「あたしも誓います、たとえ死が迫って来たとしても永遠に」

それから誓いのキス……まぁ、うん、ここはテンプレ通りということで。

身長差があるが、コーデリアさんが屈んでくれて……キスが終わったならそのまま腕を回してコーデリアさんをお姫様抱っこってやつで抱きかかえる。

これは予定になかったことだ、多分止められるだろうなぁとコーデリアさんにも言っていなかった。

高身長かつ筋肉質で相応の体重があるコーデリアさんだけど、協力してもらえるなら抱えられないことはない。

それなりの負荷がかかるし、大変ではあるけども……全身全霊で挑めばどうとでもなる。

驚きながらも腕を首に回して手伝ってくれるコーデリアさんをしっかり抱えながら絨毯の上を歩き……参列者達による盛大な拍手に見送られながらそのまま式場を出て披露宴会場へ。

途中汗が吹き出し、膝が笑い始めるが、会場の椅子までは根性をひねり出し……コーデリアさんを座らせたらもう限界だと、崩れるように自分の椅子に座る。

するとすぐにシアイア達、何人かの侍女が駆けてきて……コーデリアさんに声をかけてお色直しへ。

というか化粧直しか……誓いの言葉と抱っこで涙が溢れてしまったようで、今のまま披露宴とはいかなかったようだ。

俺の側へはフィリップとライデルが駆けてきてくれて、タオルと水を手渡してくれる。

「ご立派でございました、参列のお歴々はもちろん、庶民や祖霊様にまでその御威光が知れ渡ることでしょう」

と、ライデル。

「お疲れ様ー! 頑張ったと思うけど、あんまり無茶したらダメだよ。

腰やったら大変なんだから、大事だよ、腰は、これからは特に」

と、フィリップ。

すぐさまライデルの平手がペシンッとフィリップの頭を叩き、フィリップはベロを出しながら笑う。

……結婚式の正装でも化粧をしているのはもうこだわりなのか趣味なのかよく分からんなぁ、なんてことを思いながら汗を拭って水を飲んでいると、式場から参列者がぞろぞろとやってくる。

母上や姉上、プルミア、お祖父様などなど身内が最初で、次に軍務伯、カーター子爵などの貴族達、そしてドルイド族に……我が家の関係者や商人、工房や港などの関係者。

貴族以外の参列者の管理に関しては母上達に任せていた関係で何人いるかは把握していないが……いやはや、随分な数となっているなぁ。

そしてコーデリアさんが戻ってくるまでの間は、そういった方々を相手していって……こっちは完全なテンプレ挨拶でこなしていく。

貴族相手におかしなことを言っての無礼は許されないし、向こうも大体がテンプレで済まそうとしてくる。

だからテンプレ、テンプレ、顔を見て爵位などを思い出しながら、相手の名前をしっかりと口にし感謝を口にし……無難に挨拶をこなしていく。

軍務伯も今日はテンプレ対応、まぁ参列してくれただけで十分だし、文句もない。

何人かの貴族関係者は動揺した様子も見せてきた、まるで予定していた何かが起こらなかったと、そんなことを考えているようで……何を予定していたやらなぁ。

また初めて見るドルイド族に動揺している人達もいる。

ドルイド族の立派な姿だけでなく、蛮族らしからぬ礼儀正しい態度にも驚いているようだ。

更に言うなら王族が参列していることにも驚いているようで……コーデリアさんが本当にお姫様なのか、今の今まで疑っていた者も何人かはいたんだろうなぁ。

ある程度の挨拶が終わると、母上やお祖父様が本格的な動きを見せる。

俺のフォローと言うか、俺だけでは手が回らない部分を担当してくれるようで……そうこうしているうちに料理とワインが運ばれてきて、盛大に披露宴が始まっていく。

音楽隊や歌手も手配してあるので、とても賑やかで……賑やかな中、しっかりとお色直しを済ませたコーデリアさんが戻ってくる。

戻ってきて隣の席に座って、こちらを見て涙ぐんで……大慌てでシアイア達はハンカチでそれを拭う。

このままではいけないかなと思った俺は、そんなコーデリアさんに声をかける。

「……参列してくださった皆様に、笑顔を見せましょう。

こんなに幸せなのだと見せてやって、我が家が盤石だと知られれば、おかしな考えを持つ輩も減ることでしょう。

だから笑顔を、コーデリアさんの美しい笑顔を見せてやってください」

するとコーデリアさんは微笑んでくれて……その笑みを皆へと向けてくれる。

すると歓声が上がったりもして……コーデリアさんの可愛さは、貴族達にも通用するレベルであるようだ。

しかも今日は最高の化粧とドレスを身にまとっているからなぁ……お色直しの際にベールや引き裾を外して身軽になっているとは言え、それでも完成度の高いドレス、それを着こなしているだけでも視線を集めてしまうのに、そこに最高に可愛い笑顔。

……何人かが良からぬ視線を向けてくる程度には魅力的であるようだ。

そしてその側で動くフィリップ、良からぬ視線を向けてくる連中のことを警戒しながら、テーブルに置かれたネームプレートを確認し、メモを取っているようだ。

今日くらいは許してやれと思う訳だが……まぁ、うん、俺達のために動いてくれているのだから何も言うまい。

そんな会場……教会側の大広場には教会関係者の警備の姿もあるのだが、アレス男爵率いる騎士警備隊の姿もある。

それだけでなく一応念の為の火船対策と、宣伝を兼ねる形で最新型の飛空挺が周囲を飛び回っていたりもしていて……こんな状況で何かをやらかす馬鹿はいないはずだ。

それでも皆、今日という日を成功させるために動いてくれて……結果として何のトラブルもなく、平穏無事に式を終えることに成功する。

その後の家族だけの挨拶も無事に。

セリーナ司教様への挨拶も完了、着替えなどを済ませて屋敷に戻り……新郎新婦以外を追い出しての夜も無事に。

こちらの世界にはちゃんと出来ているかとか確認するみたいな、アレな慣習はないらしい。

むしろ邪魔しないよう誰も近寄らないのが慣習となっている。

無人となるそこを狙うような輩もいなくはないので、少し離れた所で警備をしていたりするが、声が届かない程度には離れていて……まぁ、うん、それでも特に問題なしの無事に終わった。

抱っこのせいだと思いたい理由で俺の腰は無事ではなかったのだけど、とにかく無事に終わり……そうして俺達は新婚夫婦としての翌日を迎えることになるのだった。