軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大作戦

――――屋敷の中を進みながら ビフ

ビフとボガーに課された鍛錬はドルイド基準の過酷なものだったが、ただ過酷なだけではなくブライトの知識が加味された先進的なものでもあった。

必要な栄養はしっかり摂らせてもらえていたし、睡眠時間など休憩時間もしっかりと確保されていて、ウォーミングアップやクールダウンもしっかりと行わせている。

また動きに関してもライデル達も習得しているハンドサイン、クリアリング、バックアップなどを叩き込まれていて……それをビフとボガーは仲間達に教えていて、いつの頃からか緑の兄弟達とも同じような鍛錬を行うようになっていた。

そんなビフと緑の兄弟達の動きは屋敷の警備にとっては全くの未知、知るはずのない動きだった。

『常に動け、常にお互いを援護しろ』

『こっちは問題なし』

『制圧完了』

そんな内容のハンドサインを使い十人で無言の連携をしながら隙なく鋭く動き、あっという間に迫って来たかと思ったら一撃で喉を突かれるか胸を殴打されて動けなくなってしまうのだからたまらないだろう。

動けなくなって終わりではなく、腰に下げている短く切りそろえたロープで手足を縛り上げる徹底振りで……襲撃など予想もしていなかった留守役の警備はあっという間に制圧されていった。

逆の立場だったら泣き出していたかもしれないと、そんなことを考えながらビフは動き続ける。

このままなら余裕で目標を達成出来るなと、そんなことを考えていると……玄関近くのサーキュラ―階段から今までの警備とは様子の違う一団が降りてくる。

階段下の広場に広がった数は20人近く、一斉に制圧することは不可能で大声を上げられると厄介だとビフ達は緊張するが……こちらを視認しているはずの20人が声を上げることはない。

と、言うか足音すら殺している、物音を立てないように気をつけているようで……ビフはもしかして目標人物は昼寝でもしていて、起こさないようにしているのでは? と、察する。

こんな非常時にそんな馬鹿な真似、普通ならしないはずだが……それでも怒り散らすような、怒らせると厄介な相手ならばあり得なくはないだろう。

ならばまだまだチャンスはあるとビフ達は構えを取る。

ビフ達の装備はドルイド用の篭手を改良したものと胸当て脛当て、篭手は魔石は込められないが攻撃、防御性能が高く室内戦での取り回しを優先した作りとなっている。

一方相手の一団……スーツ姿の一団の装備は細剣一本、やたらと派手な鞘や柄を見るに儀礼剣なのかもしれない。

数は相手の方が倍以上で不利ではあるが、この装備の差は大きくなんとでもなるはずだと待つのではなく攻めるため動く。

篭手を盾のように構えて一気に駆け出し、スーツ姿の一団に迫り細剣を抜かせることなく五人に篭手が叩き込まれる。

そして悶絶し倒れ伏し、しかし拘束する暇はなくビフ達は次の相手へと襲いかかる。

それを受けてスーツ姿の一団は細剣を抜き放って迎撃をしようとする。

人数差を活かして逆に攻めかかるなり包囲するなりすべきなのだが、咄嗟のことでそこまでは対応しきれていないようだ。

細剣と篭手との相性も最悪だ、刺突を通すか相手の腱を切るかしたいだろうにそれが出来ない、腕の腱に至ってはしっかりと覆われてしまっていて攻撃しようがない。

そして盾のような篭手にまともに受けられたなら細剣では折れてしまう可能性があり、スーツ姿の一団の動きがどうしても鈍ってしまう。

一方ビフ達の動きは鋭いまま、多少の疲労はあれどそれ以上に心が奮い立っていて動きが鈍ることはない。

そのまま決着かと思われる程の勢いの差だったが、更に五人のスーツ姿が倒されたことで一団の動きが変わる。

絶対に負けられないという強い意思が伝わってくる、誇りや意地、そして守るべきものの存在が一団を強くしているらしい。

それと同じものを抱いていたビフ達は、目や表情の動きからそれを読み取って油断出来ない相手なのだと認識を改める。

更には今悶絶している者達も再度立ち上がる可能性があると認識し……ビフ達は容赦せずにその腕や足に一撃を加えたりしながら目の前の一団と向かい合う。

仲間をそうされて目の前の一団が動揺することはない、怒りの表情も見せない。

そんなことよりも敵を倒さなければという覚悟で細剣を構える。

そうしてビフ達と一団が一斉に動く。

一団は常に広がって一対一の戦場を作り上げようとしてくる、細剣での決闘……それが一団のスタイルなのだろう。

細剣の先端を重ねて牽制し合い、一瞬の隙をついて致命的な一撃を撃ち込む。

一方ビフ達は常に連携を心がけている、一対一を良しとしない、常に二人以上で組んで二対三や二対四と、数で不利になるのだとしても連携こそが要とそのスタイルを崩すことはない。

背中合わせになったり、二人で重なるように動いたり……相手を挟むように動いたり。

そうやってもドルイド族には勝てない、圧倒的な身体能力で翻弄されるばかり、それでもなんとかしようと連携を磨いて磨いて磨き上げて……まだまだ鍛錬時間は少ないが、実戦で通用するレベルにはなっていた。

そんな連携力でもってスーツ姿を圧倒しようとする……が、敵は敵で個の武を相当なレベルまで鍛え上げているようで、簡単にはいかない。

跳んで駆けて転がって、致命的な刺突を何度も放ってきて……時には篭手での一撃をうまくいなし、払うことで懐に潜り込もうとしてくる。

ビフ達が知らない動き、想定外の技……力では圧倒しているはずなのに上手くそれを通すことが出来ずに、最初の勢いはどこへ行ったやら、段々と苦戦としか言えない状況になってくる。

目の前の連中くらいの相手ならばあっさり倒せるはずなのに、どうしてかそれが出来ない。

……それをビフ達は嬉しく思い、ニヤリと笑う。

ここでそれを知ることが出来た、新たな戦い方や技を知ることが出来た。

なら俺達は更に成長出来ると気勢を上げて猛然と相手に襲いかかる。

これに怯んでしまった何人かが一撃を受けることになり悶絶、これでビフ達の方が数で有利となると、流れが一気に変わっていった。

数で勝る上に連携して動く一団に対し、一対一想定の細剣使いが出来ることは少ない。

こうなったらもう逃げるか降参をすべきなのだが、それが出来ず……どんどん制圧されていく。

制圧し縛り上げ、細剣は奪うか折るかをし……それを終えたビフ達は階段を静かに上がって二階へと進む。

二階には警備の姿はなく、使用人達の姿があるばかりで、彼らに声を上げられたら面倒だったが……不思議なことに使用人達も声を上げようとしない。

訓練されているらしい先程の一団ならまだしも、ただの使用人までが何故? そんな疑問をビフ達は抱くが、そんなことよりも今はすべきことがあり……動き回り続け使用人達を捕らえていく。

捕らえて拘束し、ついでに軽い質問をし……二階に誰がいるかを把握していく。

南領領主と王女、それぞれ違う部屋で過ごしていて……南領領主は政務中、王女は美容のための昼寝中。

この昼寝の邪魔をしたものはひどい叱責を受けることになり、中には処分されてしまった者もいることから、使用人達は恐怖に震え上がりながらも声を出さずにいたようだ。

先程のスーツの一団は王女直属の護衛で彼らが声を出さなかったのも同じ。

……質問の中でそんな情報を得たビフ達は、納得しながらも呆れて、さっさと仕事を片付けようと動きを加速させていく。

まず狙うは南領領主、使用人に案内をさせノックをさせ……「入れ」との返事があったなら使用人にドアを開けさせ、ビフ達が一気に突入する。

大声を上げられる前に制圧を、全力で駆けて駆けて、

「な、なんだお前―――」

と、そこまで声を上げられはしたが、それ以上は口を塞ぐことで封じて制圧。

猿轡を噛ませた上でビフが腕を首にからませて締め上げ……若く薄い黒髪をきっちりと油で固めた領主の気を失わせる。

これもまたブライトに言われたこと、相手を気絶させたいのなら殴るよりも締め上げること。

下手に殴れば命を奪うことになるかもしれないし、骨折などの重大な結果に繋がる。

それが終わったなら使用人達も縛り上げるか締め上げるかをし……そして王女の部屋に向かう。

(……正直気分は乗らないよねぇ)

と、ボガー。

今更作戦に思うところがあるようだ。

(……今更何を言ってんだよ、ここまでやったんだぞ)

と、ビフ、同じく思うところがないではないが、ここまでやっておいて何を今更とも思ってしまう。

そうやってお互いに苦笑したビフとボガーは、決意を新たにするため頷きあって……気配と音を完全に殺しながら王女の寝室へと侵入していく。

どうやら王女は熟睡しているらしい、騒ぎに気付いた様子はなく盛大な寝息を立てていて……視線を巡らせてみると部屋の中に使用人や侍女の姿はなく一人だけのようで、なんとも立派で大きなベッドの上で肌着姿となっている。

それを見てビフ達は安堵のため息を小さく漏らす。

無理に脱がす必要はないようだと、そんなことをしなくて良かったという安堵で……そんな王女の隣に全裸に剥いた南領領主をそっと寝かせる。

寝かせた上で猿轡などの拘束を解き……それからビフ達は屋敷を後にするための行動を開始する。

拘束した使用人やスーツの一団達は全員屋敷から連れ出し、裏手にある倉庫に押し込む。

それから屋敷のドアを大きく開け開き……門も開いておく。

そうしたならビフとボガー以外は撤退を開始し……ビフとボガーは用意しておいたボロに着替えて顔と体を煤などで汚してから、近くの街へと歩いていく。

そうして前々からそこにいたかのような、住民のような顔で歩いて回り……適当な人間に声をかけたり、聞こえるような大声でもって噂話をしたり始める。

今、領主の屋敷は無人で既に盗みに入ったやつがいるらしい。

なんでも今屋敷で使用人を募集していて、上手くいけば王都で働けるらしい。

屋敷に直接行けば面談してもらえるらしい。

領主と王女は大変仲が良く、いつも二人で過ごしているらしい。

二人が仲良くしている間は、使用人達は屋敷を追い出されて無人となっているとかで……何人も情事を覗き見たやつがいるらしい。

整合性も真実性も何も無いデタラメ話で、それを徹底的に振りまいて……それを耳にしたらしい何人かが屋敷の方へ向かって動いたのを確認したら頷き合い、脱出のために街を後にする。

それからは目立たないよう隠れての徒歩での帰還となり……帰還まで数日かかってしまったがために、ビフ達がブライト達の結婚式に参列は出来なかった。

出来なかったが作戦は見事に成功し、狙い通りの結果となり……結婚式に関する話に負けないくらいに騒がしい噂が南から届いてきて、帰還までの道すがらにそれを耳にすることになったビフ達は、大満足での帰還をすることになる。

皆で笑い合いながら、お互いを褒め合いながら、そしてこれからのことを想像し、なんとも楽しい気分になりながら……。

そうやってビフ達は数日経っても尚、結婚式ムード覚めやらぬホームタウンへと無事帰還することに成功するのだった。