軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

準備

結婚式の準備が整った。

すぐに来るかと思っていた軍務伯や女主人はまだ先触れもなく、かなり余裕をもっての準備完了だ。

招待状も全て送り終えて返事も来始めていて……カーター子爵からも近々軍務伯と共に向かうとの連絡があったので、結婚式を絡めての作戦は上手くいきそうだ。

しかしそれはまだまだ先のことで……それまでは普通の日々を送ることになる。

という訳で今日も今日とて政務に励み……いつもの執務室で作業を進めていると次々に来訪者がやってくる。

ライデル、ルムルア、お祖父様、フィリップ、コーデリアさん。

それぞれに報告があるようで……とりあえず来訪順に報告をしてもらうことになった。

まずはライデル。

「北の関所の封鎖作業が完了しました、また防衛塔も増やしましたので今後一切交流する気はないという良いアピールになることでしょう。

各地の関所の強化改修も進んでいます、特に問題などは起きていない様子で追々報告が上がるかと思います。

そして王兄騒動の捕虜についてなのですが、略奪などを行おうとした者達は処分し、残りは軍務伯来訪の際に押し付けようと思うのですが、問題ないでしょうか?」

「ああ、問題ない。何しろ軍務伯は騎士法廷の主だからな、上手く捌いてくださることだろう。

ついでに交渉のカードにしてやれば良い取引を引き出せそうだしな、それで行こう。

……関所についてもそれで良いが、各地の防衛塔はどうだ? 二度とあの騒動を繰り返させるなとか無茶な命令をしていたと聞いたぞ?」

と、俺が返すとライデルは苦笑しながら一枚の報告書を差し出してくる。

そこに書かれていたのは『魔法火薬とそれを利用した対飛空挺兵器』という文字で、驚きながらそれに目を通していく。

魔法火薬とは、既存の大した爆発も起こせない火薬に魔法石を砕いたものを混ぜたものらしい。

ドルイドの呪い師であるルムルアによると、魔法石を特殊な方法でもって粉末状にして薬にしたりすることはあちらではよくあることのようで……そんなドルイドの知識とこちらで研究を続けていた火薬の知識が混ざり合うことで、魔法火薬と呼ばれる代物が出来上がったらしい。

相変わらず爆発力は弱いままだが、かなりの量を使えばそれなりの爆発を起こすことは可能なんだそうで……それを大砲の様に使って鎖付きのアンカーを発射し、飛空挺の船底などにぶっ刺してから、滑車などを利用してその鎖を引っ張ることで飛空挺を墜落させる……という発想に至ったんだとか。

すぐさま開発し試射実験を行い、何度かの実験を経て見事に成功したがコスパは極悪。

大量の火薬と魔法石を使うため通常兵器としての運用は難しく、飛空挺や大型船などの大物を落としてようやくペイ出来るラインとなるらしい。

……具体的には5発分の魔法火薬で飛空挺一隻分の金額となるとかで、5発以内に落とせなければ大赤字という本当にひどいコスパだ。

しかし今後想定しなければならない火船攻撃を防ぐという意味では有用で……各地の防衛塔に設置予定となっているようだ。

ちなみに鎖を引っ張る際には城門の開閉などに使っている滑車なんかを改良した仕掛けを使うことになっているが、ドルイド達に引っ張らせるための仕掛けなんかも考案されていて、そちらも設置していくことになるようだ。

「……確かに全く無防備のままでは論外だったからな、多少の赤字はしょうがないだろう。

魔法火薬が有用と分かれば研究が進んでもっと良いものが出来上がるかもしれないし、このまま進めてくれ。

ライデル、ルムルア、よくやった、後で褒美を渡そう」

俺がそう言うと二人は頭を下げてそれに応じ……今度はお祖父様が報告を始めてくれる。

「儂の伝手には全て声をかけた、全員ではないがかなりの人数が来てくれるようだ。

……だが、来る理由はお前を見るため、見極めるため……面白がってと様々だ。

油断はせんようにな、そして媚びる必要もないぞ、当日は軽い挨拶で済ませると良い、その中でお前もまた連中を見極め、これと思った人物には後で手紙を送るように。

その場で焦って交流を深めようとするんじゃないぞ。

……参列する時点である程度の意思表示はしてくれているのだからな、だというのに変に迫れば狭量だと見なされかねん」

「はい、その通りにします。

お祖父様のお言葉の通り、王家にも招待状を送りましたが特に反応はないままですね。

謝罪も賠償もなしのまま……軍務伯任せでなんとかなるとでも考えているんでしょうかね」

「……さてな。

今回のことは儂でも驚かされた愚行、正気でない可能性もある相手を推し量ることなど出来んだろうさ。

……ま、ロブル国の姫君と結婚しますと言われて、王家としては腰を抜かしておるだろうよ。

結婚自体は前から決めていたことだが、このタイミングではな……王兄の騒動をきっかけにした外国との接近しようとしているとしか思えず、ただでさえ混乱中の王城が大混乱……なのかもしれんな。

しかもあの招待状……王家にだけあんなものを送るとはなぁ」

と、お祖父様がそう言って含み笑いをした瞬間、その招待状のことを思い出したらしいライデル、ルムルア、フィリップが同時に吹き出す。

王家に送った招待状、それだけは特別製となっている。

他の貴族達には至って普通の、こちらの常識に則ったものを送ったのだけど、王家にだけは前世のものを参考にしたものを送らせてもらった。

まず絵描きを呼んで俺とコーデリアさんのツーショットの絵を描いてもらった。

満面の笑みで寄り添って二人の手でハートマークを……こちらの世界でも同じく愛を示すマークを作っているという絵を。

そんな絵の足元には王家の象徴たる花があり、それを踏みつけているようにも見える足の辺りに、

『私ウィルバートフォース伯ブライトは、ロブル国の姫君コーデリアと結婚します!』

との一文。

そして絵の下に日時などの詳細を書いて、それを大きな封筒に入れて郵送してもらった。

まともに招待する気なんてさらさらなく、本当に来られても気分が悪いだけ……そういう訳でそんな招待状を送ってみたのだけど、それがライデル達には大受けで、送る前にそれを見せてやった時と言ったら、皆で笑い転げて腹を引きつらせ、最後には痛い痛いと泣いていた程だった。

しかし招待状であることに変わりはない、少しだけ斬新なだけでしっかりと招待状だ。

これで王家だけ招待しなかったとかなんとか非難されることはないだろう、逆に招待されたというのに返事もせずに無視をしたとなれば、王家の方が非難されることになるはずだ。

「あたしはあの招待状、大好きです!

凄く素敵な絵で、こんなに幸せだってお伝えすることも出来て、ああいうのもっと広がっても良いと思います!

絵描きさんもお仕事増えて喜ぶと思いますよ!」

と、コーデリアさん。

あの絵を相当気に入ったのか、絵描きに二枚目を依頼して部屋にまで飾っていて姉上や侍女達にも好評らしく、一緒に見たりしているようだ。

「……んくくく、あれは傑作だったよねぇ。

惜しいのはあれを受け取った王家の連中の顔を見れないことかなぁ……絶対面白いのに。

……あ、そうだ、あの絵をさ参列者にあげても良いんじゃない? 記念品みたいな形でさ、そして幸せを呼ぶとか言って家のどこかに飾ってもらうんだよ。

そうしたら王族の連中、どこかに行く度にあの絵を見かけることに……くっふぅ」

フィリップがそう言って口を両手で押さえ込む。

また笑い出してしまいそうで必死に堪えているらしい。

「……いっそ関所に大きなものを飾らせるか、王族避けになるかもしれん」

「あははははははははははは!!!

や、やめてよ、やめ……あはははははははは!!」

俺がそう言うとフィリップへのトドメになったようで以前を超えた爆笑が始まる。

フィリップの笑い声にやられたのだろう、ライデル、ルムルアもそれに続き……お祖父様までが笑いを噛み潰している。

これからフィリップの報告を聞くつもりだったのだけども、これはしばらくは報告を聞けそうにないなぁ。

「い、いや、だ、だいじょぶ……うん、大丈夫。二度目だから……んくっ、慣れてきた」

と、そう言ってフィリップは自分の腹をとんと叩いてから居住まいを正し、報告をし始める。

「えっとね、領内は特に問題ないよ、火船騒動の動揺も広がってない。

やっぱり被害をきっちり抑えたからね、そこが大きかったね。

周囲も特に問題ないかな、例の軍務伯がいるカーターさんとこも落ち着いた様子で、鉄道開発のおかげで少しずつ賑やかになっている感じはあるね。

そんで北は荒れてるみたいだねぇ……今までは兄貴が色々配慮してあげてたからなんとかなってたのが、その配慮がなくなっちゃったからね。

んまー……あれだけのことに加担したらしょうがないよね、それはあっちも分かってて何も言ってきてないんでしょ? いつもなら抗議をしてくるようなのがだんまりってことは、そういうことだよね」

「……そうなるな、正直エリアン公爵に関しては詫びさえあれば許してやっても良いんだが、それすらないからなぁ。

……まぁ、北に関しては放っておく、もう関所も閉鎖したしな、相手をすることもないだろう」

「そうだね、申し訳なさもあって……当分は関わってこないはず。

で、肝心なのは南だね、例の女主人……相変わらず何者か分からない人が滞在中、正体を探ろうにも異様にガード固くて、つまりは相当な偉い人なんだろうね。

こーれだけガードが固いと、王族とかしかないように思えるんだけど、王族ならさっさとアクションしてこいって話だし、よく分かんないね。

んで、その南なんだけど……まぁ、動きが怪しいよね。

金ばらまいてよからぬ連中を集めてるみたいで、海賊みたいなのも何人か出入りしてるみたい。

……もしかしたら結婚式を邪魔しようとしてるのかも? そんなことしたら兄貴を怒らせるだけだと思うんだけど……他に何があるかってタイミングでもあるんだよねぇ」

「ふーむ……?

南のはとにかく金儲けが大好きで、金にならないことはしないはずだが……。

……ああ、王家辺りから依頼されて動いている可能性はあるのか。

これを成したら報酬があるとなれば普段しないようなことをしてもおかしくはないな……。

目的は結婚式か、その関連か……まぁ、海賊如きどうとでもなる。

対策はしておくか、目的がハッキリしない以上は振り回されないようにしておこう」

「うん、了解。

でも一応見回りは増やしておくね、結婚式もしっかり警備するよ。

……幸いっていうかビフとボガーが使い物になってるから、人手はなんとかなるよ」

「ああ、あの二人か、頑張っているらしいとは聞いているな、コーデリアさん達に任せきりだからあまり見かけてはいないが……。

まぁ、そうだな、頑張っているのなら他の孤児院出身者の良い目標となるよう報酬を弾んでおこう」

「……んん、まぁ、うん、そうだね。

頑張ってるのは確かだから喜ぶと思うよ。

……兄貴はさ、孤児院を助けるだけで十分なのに出身者をどんどん雇うよね? なんか理由あったりする?

いや、おいらとしてはうれしーんだけどさ、ちょっと気になって聞きたかったんだ」

「理由と言う程のものでもないがな、チャンスがあれば良いと思っているだけだ。

誰にでも平等なチャンスを……というのは理想論だが、出来るだけそうしたいとは思っている。

もう少し状況が落ち着けば学校を増やして子供達全員に教育を受けさせたいとも考えてもいる。

そうやって皆に働く機会を与えれば犯罪に走る者も減るはずだ……厳しい罰だけで犯罪がなくなれば苦労はしないからな」

前世でも完全に犯罪を無くすことは出来ていなかった、犯罪率だけで言うなら今の領内はかなり低いが……それは騎士という暴力で強引に律しているものだからなぁ、将来のことを考えると少しずつで良いから変えて行く必要がある……はずだ。

「こちらは杭打ち苦行とかないのに犯罪少ないですもんね、旦那様の手腕は凄いと思います。

学校っていうのは皆に色んなことを教えてあげる施設なんですよね、故郷にもそういうの作らないとですね」

杭打ち苦行とは……?

突っ込んで良いのか悪いのか、分からないワードがコーデリアさんの口から出てきて一瞬硬直してしまう。

しかしどうにも不穏なワードで……深堀りするのは今度で良いかな、うん。

「……えぇ、学校はきっと国の将来のためになると思いますので、多少の無理をしてでも広めると良いと思いますよ。

えぇっと、それで……コーデリアさんも何か報告が?」

「ああ、はい、家族から手紙が届きました。

式に参列するそうです……それでその、思ったよりも多くて、こちらの見学も兼ねて50人くらい来るそうなんですが、大丈夫ですか?」

「えぇ、問題ないですよ、席と食事を増やして対応させていただきます。

流石に教会に全員は入れませんが、そこは親族だけと言うことでお願いします」

と、俺がそう言うとコーデリアさんは分かりましたと頷いてくれて……そうして俺達はその日のための準備をしっかりと進めていくのだった。