作品タイトル不明
顛末
屋敷に戻ってからの俺は兄上達の提案で、三日間の休暇を取ることになった。
前回はコーデリアさんを守るためだったが、今回は完全な私怨での殺害、まだまだ若い俺には精神負担が大きいと判断したのだろう。
個人的にはそんな必要はないと思ったのだけども、兄上達からの好意は素直に受け取ることにした。
そろそろ休暇を取りたいと元々考えていたというのもあるし、俺が不在の間、兄上に領主代行をお願いしておいた結果、かなりの手腕を見せてくれたようなので今後の参考のために任せてみたいというのもある。
特に拠点整備や軍事訓練、徴兵に関しては圧巻の一言、俺には出来ない発想が多いなんてものではなく、戦地で磨かれたその辣腕を学ぶには良い機会だったからだ。
兄上にとっても俺の内政手腕には見るべき所があったようで、ここでお互いのやり方を学んでおくことは、誰にとっても有意義なことだと言えた。
と、いう訳で領主の仕事は兄上とエドラン殿下、補佐のバトラー達に任せて、俺は新屋敷にてゆったりと日々を過ごしていた。
一日目は何事もなく終わり、二日目も特になし。
流石に噂が出回るのかフィリップが色々と情報を集めてくれたりしていて、三日目にはフィリップが王都に残したという密偵からの報告も入ってくるようになっていた。
……そこで驚いたのは、王都ではまだ王太子の死に関しての情報が広まっていない、ということだった。
王城が隠蔽しているのか、まだそこまで噂が広まっていないのか……しっかりと最期を確認した訳ではないので、なんともモヤモヤとした気分で休暇最終日を過ごすことになってしまった。
……だがまぁ、コーデリアさんや母上や姉上、プルミアとゆっくりとした時間を過ごせはしたので、悪くはなかったのだと思う。
もちろんお祖父様や兄上、エドラン殿下とも改めて交流を深めることが出来た。
エドラン殿下は結局、故国には戻らないようだ。
戻って復興のための指揮を取るべきという義務感もあるようだが、国家を守れなかった手前、そんな生き恥を晒せないという想いもあるようだ。
更に言うのならあの滅びも国民が、臣下が、自分がそれぞれなりに頑張った結果である以上は、苦しくとも受け入れなければならないという悲痛な覚悟もあり……更には俺との約束のことも気にしてくれているらしい。
正直、国のためならそんなこと気にしなくても良いんだが……そこは殿下らしさなのだろうなぁ。
そういう訳で殿下は我が家の客人であり顧問でもあると、そんな扱いをすることになった。
本人は臣下になることを望んでいたが、流石に殿下をその扱いは問題があり、フィリップのこともあって正式に王族として遇する必要があるので尚更だった。
客人で顧問、領地も貸し与えて代官のようなこともしてもらう。
殿下にはそれだけの能力があるし、殿下なりの……他国のやり方も見せてもらいたいからだ。
それほど広い領地は与えられないが、それでも殿下は喜んでくれて、兄上は俺らしい判断だと笑ってくれた。
同時にフィリップが殿下の弟であることも新聞各社から正式に発表されて……俺が政務に復帰してからは、取材陣に追い回されるフィリップの姿を毎日のように見ることになった。
そうやって休暇が開けてから数日が過ぎた頃、セリーナ司教様が先触れを寄越した上でやってきた……つまりは正式な訪問ということだ。
その日は兄上が帰国する日でもあり、正直忙しかったのだが……しかし散々世話になった司教様の正式な訪問だ、断れる訳がない。
俺、コーデリアさん、客人として紹介するためにエドラン殿下、兄上、お祖父様とで司教様を出迎える。
屋敷の前に並んで到着を待っていると、馬車ではなく徒歩の一団が現れる。
司教様と何人かの神官達、その一人は旗を持っていて……縦長の弔旗が風に揺れている。
布は薄く、二色……国旗の色と教会の紋章、どうやら王太子への弔慰を示しているらしい。
司教様が到着したならエドラン殿下を紹介しながらの挨拶をし、それぞれに挨拶を交わしていく。
それから屋敷へと案内し、神官達はバトラーに歓待してもらい、俺達と司教様は客間へ。
司教様は一人だけでついてきてくれて……客間のソファに腰を下ろし、用意した茶を一口飲むと、ゆっくりと口を開く。
「今日は王城で一体何があったのか、お話を聞くために足を運ばせていただきました。
王城では様々な情報が錯綜し、未だに何が真実なのか分かっていないようです。
更には誰が王太子殿下を殺したのかと責任追求で内紛の様相を呈していて、わたくし達はそうした混乱を望んではいません。
……伯爵が現地にいたことは分かっております、どうかこの未熟な身に何があったのかご教示いただけないでしょうか」
混乱した、感情を顔に出さないようにするので精一杯だった。
何がどうしたって? 誰が王太子を殺したかで揉めている??
俺達は襲撃の際、どこの誰であるかを特に隠していない、旗艦レベルの飛空艇は我が領にしかないのだろうし、家紋もしっかりと掲げていた、あれだけ暴れもしたのだからどこの誰が殺したかは明白だろう。
何だったら教会や司教様にはそうすると知らせておいたのだから、誰がも何もないはずなんだが……。
だと言うのに揉めている? 誰かが今回の事件を内紛に利用している、のか?
色々と聞きたいことばかりだったし、動揺もしてしまいそうだったが、どうにか平静を保って……まずは司教様から情報を引き出すことにする。
「……一体全体何がどうしてそんなことに?
正直に言って訳が分からないのですが……」
嘘は言っていない、本音だ。余計なことは言わずにまずは司教様から説明をしてもらうことにする。
司教様には出来るだけ嘘は言いたくないからなぁ……言葉は選ぶ必要がある。
「わたくし達にもよくは分かっていないのです。
ですから事実と確認出来ていることだけを説明させていただきます。
伯爵の襲撃がありましたが、伯爵は王太子殿下を負傷させるだけで殺害せずに撤退、王城の騎士達は殿下が負傷しているとは知らずに、火災が発生していた書庫の消火を優先。
火災が鎮火した後、城内の見回りをしている際に殿下を発見、血まみれの殿下を救助しようとしたそうですが、見えない壁があり近付くことが出来ず救助が難航。
見えない壁を避けて、殿下の周囲の壁を破壊し、救助のための道作りを開始。
その間に殿下に話しかけ、事情を聞こうとしましたがただただうめき声を上げるのみで、会話は不可能。
しかしその声が絶えることはなく、それから丸一日生存していたようです。
そして壁の破壊に成功、そこから騎士や医師達が突入しその場での治療を開始したそうです。
……が、その際に殿下の服などを脱がそうとすると急激に容態が悪化、そのまま死亡されたとのことです」
……ああ、なるほど、そういうことか。
まず王太子はあれからも長時間、遺物による拷問を受けていたようだ。
エドラン殿下や俺の予想に反して遺物の効果は強力で、あの失血でも問題なく生命維持が出来てしまっていたらしい。
仮にそのまま手術などで出血している部位を縫い合わせるなりしたのなら、助かったのかもしれないが……そうとは知らない医師達が体から遺物まみれのベルトを外してしまったのだろう。
あんな不格好なベルトを用意してまで体に貼り付けていたのだから、当然体から離してしまえば遺物は効果を失うのだろう。
遺物による生命維持が途切れたために絶命……その辺りのことを分かっていない王城の連中は、どうして死んだのかすら理解していないのか。
俺の攻撃によるものと思われる負傷が原因と言いたい所だが、ならば何故まともな治療を受けることなく丸一日も生存していたのかという話になり、治療を開始した瞬間死んだことから医療ミスを疑ってしまっているのかもしれない。
……それにしても遺物のことを知っている王族連中なら、すぐに察しても良さそうだが……。
「その際に騎士達が煙のように消える何かを見たとか、手鏡が勝手に光って砕けたなどという証言もありましたが、そうした品々や破片などは見つかっておらず、こちらに関しては真偽が確認出来ていません」
と、司教様が更に言葉を続けてくる。
……なーるほど、遺物が消耗品という予想は合っていたらしい。
体から引き離したことで役目を終えて消滅、消滅してしまったせいでそこに遺物があったと証明出来ていないのか。
これはフィリップの証言と一致するから、間違いないのだろう。
……そして多分だが、司教様もそのことを知っている。
以前大司教様とした会話、あの王太子の発言……教会は俺や王太子のような存在のことを知っていて、恐らくだが遺跡のことも遺物のことも知っている。
知らないはずがない、文化財の宝庫である遺跡を調査していないはずがない。
調査をした上であれらの遺物を遺跡に、あえて残しておいた可能性すらある。
その意図は全く読めないが……あれらを手に入れた人物が何を成すのか、成そうとするのかを観察しようとしていたのかもしれないな。
そうすると……ここで変に誤魔化すのは良くないのだろうな。
「……分かりました、そういうことでしたら自分に分かっている範囲のことを話させていただきます」
そう言って俺はあの時に起きたことを正直に話していく。
突入、遭遇、攻撃、男爵による救助の試み、諦めて撤退し、今があると事細かに。
「余もそれが真実であることを証言しよう、神々を前に誓いを立てても構わない」
俺が説明を終えるとエドラン殿下がそう続いてくれる。
そしてセリーナ司教様は、まっすぐにこちらを見て力強く頷き、込めていた力をいくらか緩めてくれる。
「正直にお話していただけたこと、本当に嬉しい限りです。
……なればこそこちらも正直にお話します。
わたくし達はウィルバートフォース伯爵の敵ではありません、これからも協力関係を維持したいと考えています。
その真摯な態度、敬虔な心構え、教会への献身、世の中への貢献、その全てをわたくし達は評価しています。
だからこそ伯爵の今後に関わる警告をお伝えしたいと思います」
そう言われて俺は居住まいを正し、兄上やコーデリアさん達は緊張した面持ちとなる。
そして俺が頷くと司教様は言葉を続けてくれる。
「王城の混乱を利用している者がいます。
元よりそのつもりだったのでしょう、伯爵が行動を起こすと知り、なんらかの混乱が起きるだろうと待ち構えていたようなのです。
……その名前はグレイ侯クラーク、彼は混乱を利用して王都王城での影響力を高めています。
それが王都の治安のため、平穏のためであればわたくし達も応援出来たのですが、わたくしから見て彼はそういった人物ではありません。
むしろ混乱や混沌を好む性質があると考えます。
……きっと彼はその欲望を満たすために、今回の事態を利用しているのでしょう。
そしていつの日か伯爵と相対し、敵対することでしょう。
……彼には教会が禁忌と定める罪を犯した疑いもあり、こうした点からもわたくし達は手を取り合えるものと考えています」
……なんとまぁ。
一応の親戚がそんなことになっていたとは……。
まぁ、国内貴族のほとんどがどこかで血の繋がっている親戚だから、いちいち気にしてもいられないが……。
そっとお祖父様の様子を伺うが特に気にした様子もない、もしかしたらお祖父様もその辺りのことを知っていたのかもなぁ。
「分かりました、その禁忌や混乱を利用するなど初耳のことばかりですが、我々に原因の一端があるのは事実。
教会の意向に出来る限り沿えるようにしたいと思います。
……とは言え、相手は侯爵です。
いきなり敵対だのといった道は選べないこともご理解ください。
表向きは友好的な態度を示すこともあるでしょう……ですが、根本は違えないとここでお約束します。
私もまた神々の前で誓うことを躊躇わないでしょう」
と、俺がそう言った直後、予想外のことが起きる。
「大陸公爵として、このジェラールも尽力を誓おう」
兄上がそんな宣言をしてしまう。
と言うかいつの間に公爵に? まぁ、兄上の現状なら勝手に名乗ったとしても問題はない訳だけども……。
「このエドランも無位ながら尽力しようではないか、この地の代官として混乱を振りまく者は看過出来ぬ」
更に殿下が続く。
殿下と兄上は俺の背後の左右に立って、腕を組んで胸を張って威風堂々、まるで阿吽像かと思う程の息の合いっぷりと威圧感だ。
「ありがとうございます、頼もしいお味方が伯爵の側にいること嬉しく思います。
ドルイド族だけでなく、大陸公爵に隣国の殿下……伯爵には大きな流れが味方しているのでしょうね」
そう言って司教様は微笑む。
それから司教様は他の細かい話……王都の政治状況などをし始めて、俺達は静かに耳を傾けるのだった。