軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

報道対応

――――王城 軍務伯の執務室で

広くはないが必要最低限の空間はあり、質素ではないが無駄に華美でもなく、軍務伯のための机と、その前に並ぶ部下達の机、そしてそれらを取り囲むように立つ本棚といった部屋で、椅子に深く腰掛けた軍務伯が政務を一段落させた所で部下が声をかける。

「ウィルバートフォース伯は動いてくれますかね?」

「動かんだろう、自分なら動かん。

ああ、事態を悪化させる方向なら動いてくれるかもしれんな」

部下達に出してくれとせがまれて出した手紙、そろそろ届いた頃だろうとなっての部下の発言に軍務伯は淡々とした言葉を返す。

「……では、今回の事態はどのように?」

「廃太子、処刑、新王朝樹立どれでも良い、好きなものを選べ」

好きな選択肢を選べとばかりに提案されたそれらは、とてもではないが部下達の立場では選べるものではなく……部下達はただただ沈黙するばかり。

貴族家の次男三男、あるいは爵位だけ貴族の長男、そういった人物の中から特に有能なものを集めた部下達であったが、決断力に乏しく下で使うのは良いが、何かを任せるには不安が残るという、そんな人物ばかりであった。

それには軍務伯が優秀過ぎて萎縮してしまっているという側面もあったのだが、軍務伯自身は自らを凡人、爵位相応の努力をしただけの凡才と思い込んでいるために、そのことに気付けていなかった。

「個人的に最良だと思っているのが廃太子だ、もうアレは駄目だろうな。

ここまでのことをやらかされたなら、もうアレの掲げる絶対王政など誰もついていかないだろう。

新戦術、工場産業、大いに結構……だがそんなものは臣下にやらせることであり、王太子のやることではない。

王太子がやったとしても何の評価にも繋がらんと何故分からんのだ。

案を出すのは良い、後は適切な臣下に任せてその臣下に褒美を取らせ、そうして忠誠を得るべきなんだがなぁ。

その上での今回のやらかし、目にも当てられん」

「……しかし王都での破壊工作や港への火船攻撃は、どう考えてもウィルバートフォース伯の仕掛けたものですし、殿下ばかりを責められないのでは?」

「馬鹿なことを言うな、そこまでのことをやっても許されるという大義名分を与えたのがその殿下だ。

むしろ伯はよく自重している、この程度で済ませてくれて感謝したい程だ。

攻撃も報道も、もっとやろうと思えばやれたものを伯は牽制程度で済ませてくれたのだ。

責めるなどとんでもない、感謝の言葉を送りたいくらいだ」

「……これ以上の攻撃とは?」

「今までの殿下のやらかし全てを公表した上で、大陸軍を呼び戻しての挟撃、伯の父君は既に大陸で一大勢力を築いており、こちらの王城を攻められるとなったら大陸の勢力も協力を惜しまないことだろう。

場合によっては全くの無関係だった第三国までが参戦してくる可能性がある。

今回殿下は大陸の最大国家であり大陸と言えばこの国と言われるフリュークと通じた訳だが、それだけが大陸国家という訳ではない。

フリュークの下につき抑圧されている小国群、東方壁国、南方教国、最南大藩地国。

そのどれもがいつ動いてもおかしくはない、それだけの理由を殿下が作り出してしまっている。

……特に南方教国は教会との繋がりからウィルバートフォース伯につく可能性は高い、そうなれば聖戦だと便乗参戦も相次ぐだろうしなぁ、こんな城、数日と経たずに落城するだろうな」

「……まさかそんなこと……」

「この情勢では各貴族の援軍も期待出来ん、諸外国に味方はなく、そもそもとして王家ではどうにも出来ぬからとウィルバートフォース家に頼ったという事実を忘れるな。

もちろんウィルバートフォース家の力を削ぐという意図もあった訳だが、それが真逆の結果となって力を増した、増してしまった。

その時点で王家は下手に出るしかなかったというのに殿下はもちろん陛下まであの有り様ではな……。

そもそもとしてフリュークはもう滅亡寸前だ、その貴族と通じて一体何をしようと言うのか」

軍務伯がそう言って大きなため息を吐き出すと、部下の一人がそっと手を上げ、声を上げる。

「どうも殿下が言うには、あのダルデスパン伯爵と御子息は中々の才を持っているとかで、特に軍事において頼りになる人物なのだとか。

それをどうにか手駒とすることで、ウィルバートフォース伯に対抗しようとしたようです」

「……だというのにウィルバートフォース家との婚姻を推し進めようと?

……元々理解出来ない部分が多かった方だが、最近は特にそれが顕著だな。

こんな状況にあって救いなのはウィルバートフォース伯が冷静かつ常識的な人物であることだろう。

……今回どの程度までが彼の仕込みなのかはまだハッキリしないが、それでも致命的な所までは踏み込んできていない。

やろうと思えば出来るが、それでもしっかりと堪えてくれている。

あの威嚇飛行である程度の溜飲は下げてくれたはず、後はこちらから余計な手出しをしなければ大人しくしてくれているだろう」

と、その時だった。

執務室のドアがノックされ、なんとも嫌なタイミングでのそれに軍務伯は眉を釣り上げさせながら返事をする。

「入れ」

すると部下の一人がドアを開け、静かに一礼をしてから入室をし……軍務伯の側までやってきて小さな声での報告をする。

「……殿下が反撃を考えている? 反撃? 八つ当たりの間違いではないのか?」

その報告のあまりの内容に軍務伯がそんな声を上げる。

そして部下達は動揺しざわつき……そのうちの一人が疑問を投げかける。

「反撃って……どんな内容のですか? それ次第でウィルバートフォース伯が更なる報復に出てくるとは考えていないのですか?」

「詳細な内容はまだ不明のようだが……想像はつく。

ウィルバートフォース伯とて汚点はある、それは王都を追放された学者達を抱え込んでいるということだ。

異常異端の学者達、その中には良識を逸した実験を行うものもいるだろう、なんらかの被害が出ている可能性もある。

そんな連中を庇護していることを追求し、被害者がいるのならばその点を突けば一定の傷を負わせることは可能だろう。

特に今回は報道という新しい手段での攻撃を受けた、あの王太子のことだからなぁ、同じ手でやり返さないと気が済まんのだろう。

つまりは報道でウィルバートフォース伯のそういった汚点を突くつもりだろう……が、伯にそこまでの隙があるとは思えん。

仮になんらかの被害が出ていたとしても、十分な補償をした上での解決をしていることだろうよ」

「……それでも痛手となるなら殿下はやるのでしょうね」

「どうだろうな……痛手となるかも怪しい。

ウィルバートフォース伯は報道の扱いについても心得ているように思う。少なくとも慌てふためいている王族よりはマシだろう。

そうなると……逆に利用されるなんてこともあるかもしれん」

軍務伯のその言葉に一同は大きなため息を吐き出す。

それはあるかもしれない、その通りになるかもしれない、そうなったらまた面倒なことになるかもしれないとため息が止まらない。

これから王が帰城し、報道対策を始めるそうだが、それもどこまで上手く行くかは不透明で……しばらくの間は、王族達のフォローで忙しくなるのだろうと、帰宅する暇もなくなってしまうのだろうと思うとため息が出るのも仕方のないことだった。

そうやってたっぷりとため息を吐き出した軍務伯とその部下達は、これ以上の会話をしても得るものはないだろうとの判断をして口を閉ざし……そうして目の前の政務へと取り掛かるのだった。

――――数日後の執務室で ブライト

いつものようにいつもの政務、だが少しだけいつもと違うのは各地の新聞を読むのが楽しくて仕方ないということだろう。

一度火が点いてしまったから各社暴走が止まらずあることないこと……いや、ないことないこと書き殴っての王族バッシングが止まらず、傍観者でいられる立場としては楽しくて仕方ない。

……ただまぁ、ここまであり得ないことを書いてしまっていると、流石に信憑性が下がってしまうというかやり過ぎと言うか、一つ一つの記事の内容も巷の噂未満のクオリティとなってしまっていて……これではそのうち市民も興味を失ってしまうことだろう。

報道各社としてはもっともっと燃やしたいのだろう、燃えれば燃える程新聞が売れるのだから、燃やしたくてたまらないのだろう。

一度経験した爆売れが忘れられずに、あの売上をもう一度と燃料を投下し続けている……が、それが逆に読者の関心を失う結果となってしまっている。

こういった時にこそ冷静に、正しい報道姿勢というものを見せた方が息が長い商いが出来ると思うのだけど、その辺りの勘所はまだどこも分かっていないのかもしれないなぁ。

と、そこでノック。

慌てた様子でバトラーとフィリップが駆け込んでくる。

「兄貴、大変大変! パスカル博士のことがなんか変な形と内容で広まってる!!」

「その件につきまして新聞社より取材をお願いしたいとの連絡が入りました」

二人とも顔が青く、いつになく慌てていて……まぁ、今話題のあの大火事がこちらに来るかもとなったら、そうもなるか。

「分かった、対応しよう。

取材連絡を入れている新聞社以外にも連絡し、全社同時での取材を受ける。

記者会見ってやつだな、新聞記者全員を会場に集めて順番に質問をさせて、聞きたいこと全てに答えてやろう」

俺がそう答えると二人は顔を見合わせ、目をぱちくりとさせてから本当にそれで大丈夫? との疑問を表情で投げかけてくる。

「一社だけの取材を受けてしまえば言っていないことも言ったことにされて、あることないこと書かれての王族の二の舞いだ。

だが全社を集めたなら……売上を競うライバルまみれの場での質疑応答ならば嘘は書けまい。

書いた瞬間、他社からの厳しい指摘を受けることになる、今爆発的に売れている業界だからこそ、他社を蹴落としてでも更に売上を伸ばしたいと考える新聞社は多いはずだ。

そうやって牽制し合わせて……いっそ新聞社同士争うように仕向けられたなら最高だな。

そうなれば勝手に矛先がズレて俺のことなどあっさりと忘れてくれるだろうさ。

……それに賠償はもう済ませてある、元々の目的は市民への教育の普及で後ろ暗いことも何もない。

どれだけの質問を投げかけられたとしても全く問題はない……が、面倒を避けるためと念の為に何人か記者に扮した工作員を潜ませておこう。

そいつらに状況を誘導してもらえば二人が考えている以上に事は簡単に済むはずだ」

疑問に俺がそう応えてやるとフィリップとバトラーは「なるほど」とそう言って頷き合い、落ち着きを取り戻す。

「……いっそ報道の自由を守護する者としてのアピールの場にしても良いかもしれない。

全てに答え、どんな形での報道も許し、王家とは違うとアピールする。

そんな俺を無闇に敵に回したいとは各社も思わないだろう。

……それでも常軌を逸した新聞社に関しては不買と言う形で応える、訴えもしない非難もしない、販売停止もしないが俺は一切買わない、そういう態度で不満を示す」

俺がそう言葉を続けるとバトラーはもう何も言う必要はないと静かに執務室を後にし、フィリップはいつものように本棚に寄りかかってから言葉を返してくる。

「な~るほどねぇ。

兄貴が買わないとなったら領内の皆や、各工場とかでも買わなくなるもんねぇ。

そしたらそこで働いている皆も買わないし……実質的な販売停止処分になる訳か。

でも販売停止をする訳じゃない、下手な商品を作って結果それが売れないのは、作った側の責任だもんねぇ、なるほどなぁ~~。

……ちなみにだけど王家は、記者の何人かを見せしめで逮捕するみたいだよ。

あとは新聞社に情報を流した貴族とかも。

なんとかウィルクスっていう貴族は相当厳しい処分になるみたいだねぇ」

「……ウィルクス? 聞かない名前だなぁ。

どこかに領地を持っているという訳でもなさそうだが……」

「おいらもよく知らない、ただ簡単に調べた感じだと王家と仲良しだった貴族みたいだよ?

王兄のあの修道院にも関わってたみたい? そういう秘密を持った状態であれこれと煽ろうとしているみたいだねぇ。

扇動家っていうのかな、ああいうのは」

「……あの修道院に関わっておいて、それを煽ろうとしているのか? まず自分の身が燃えそうだがなぁ……」

俺がそう呟くとフィリップは肩を竦めて苦笑する。

呆れていると言うか、馬鹿の考えは理解したくないと言うか、そんな態度で……俺も同感だ。

ともあれ今は記者会見の準備に意識を向けるべきで、簡単な練習もする必要がありそうで、それからしばらく俺達は記者会見の準備やら何やらで忙しい日々を過ごすことになるのだった。