軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

炎上

屋敷を離れ発着所に到着すると、職員達が用意してくれたらしい日光浴用のスペースがあり、なんとも言えない気遣いだなぁと呆れながらもそこに腰を下ろす。

ソファのような木造椅子に木造テーブルに、過剰な日を避けるためかパラソルまであって……そこで一端休憩、用意してもらった茶を飲んでから状況を確認していく。

そろそろ三箇所攻撃が始まった頃だろう、事前に潜んでいた工作員達が工場を破壊、北東では威嚇飛行を実行、火船の直撃もそろそろか……。

初の積極的攻撃、完全な受け身だった俺にとっては前世でもしたことのない経験で……忙しい中で忘れていたが、結構な被害が出るかもしれない命令を下したんだよなぁ。

……しかし特に思う所はない、人の命を奪う躊躇とかも一切ない。

そもそも王兄を殺した時も特に何も思わなかったからなぁ……普通はトラウマとかがあるものらしいが、全くもってなし。

うぅーむ、なんだかんだ俺も変人なのかもしれないな。

そして未解決の問題は二人の博士、劇場の設計を終えたらしいアーデル・トレイサー博士と、何かをやらかして逮捕されたらしいパスカル博士。

パスカル博士の件にはフィリップを派遣していて、トレイサー博士の件には俺が対応したら良いから……まぁ、なんとかはなるか。

「ブライト様ぁぁぁぁ~~~~!」

……やっぱりまだここにいたか。

「ブゥーライト様ぁ~~~、改良案出来ましたよぉ~~~」

……はい? もう? いや、確かにあの時、劇場の設計図は置いていったが、あれからあれを書き直していたのか?

奇声を上げながらドタバタとこちらに駆けてくる博士の手には紙の束が握られていて、どうやら本当に書き直していたらしい。

こちらまで駆けてきたならそれをドンッと机の上に置き、確認を早くしろとばかりに紙の束をドンドンと叩いてくる。

仕方なしに手にとって確認していく。

……と、言っても相変わらずその全てが理解しきれる訳ではないんだけども。

博士の頑張りには応えてやる必要があると思うのでしっかりと読み進めていく。

劇場左右、そして奥側手前側に非常口を設置、耐火構造に関する計算に関しては……本当に理解しきれないが、博士なりにしっかりと計算してはいるらしい。

出来るだけ木材や布を減らし、非常口付近からは完全に撤廃、非常口が崩れたりしないように配慮もしているらしい。

……後は消火器でもあれば良いんだろうが……消火器って何が入っていたんだっけなぁ。

仕組みとか使い方は勉強をしたことがあるけども、中身まではなぁ……ああでも、何かの本で肥料とかなんとか見かけたような気もするな。

「博士、消火能力のある肥料って聞いて、何か思いつくものはあるか?

それを勢いよく吹き付ける道具があれば火事を初期段階で鎮圧出来ると思うんだが」

紙の束を読み進めながら俺がそう言うと、博士は「ふぅ~~~ん?」と言いながら首を傾げ、体を傾げ……傾げすぎて転ぶんじゃないかって姿勢で返事をしてくる。

「急に言われても思いつきはしませんなぁ。

ただし肥料と言うことですから、知っている肥料全てを試せばすぐに結果は出せるでしょうなぁ。

……それを吹き付ける、ですか~~。

魔法石を使えばそれも可能でしょうなぁ……しかし水の魔法石ではいけないので?」

「水をかけることで悪化する火災もあるだろうからなぁ……出来れば消火器が望ましいな。

それがあれば飛空艇や家庭などでも使用出来るだろうし、劇場ついでに検討してもらえるか?」

「はぁ~~、確かに油が多いとか金属火災とかでは大変かもですねぇ。

……もぉ~~~、しょうがないですねぇ~~~。

その代わり出来上がったら報酬と新聞の一面記事掲載をお願いしますよぉ~~。

新聞に写真も載せちゃって、この素晴らしい顔を全国に広めてくださいよぉ~~」

「それだけで良いのか? お抱えの芸術家を呼んで肖像画を描かせて、そのうち建設するだろう科学博物館に展示しても良いんだぞ」

「はくぶ……なんですかその素敵な単語はぁぁ~~~。

そしてそこにこの顔がぁぁぁ~~~~~!!」

そう言って博士はそのまま地面に倒れる、元々傾げていた体が転がってそこでイモムシのように悶え始めて……うん、放っておこう。

構うことなく設計図を読み進め……博士の熱意に応えるためにしっかり丁寧に読んでいると、それなりに時間が経ったのだろう、博士はいつの間にか地面で寝ていて、そしてフィリップが側にやってきていた。

パスカル博士の下に向かってそれから何かの問題を解決した……という顔じゃないな、何か残念な報告をしなければいけないことがあるらしい。

「……何があったんだ?」

そう問いかけるとフィリップは、頭痛でもしているのか頭を抑えながら報告をしてくる。

「えっとね……何と言ったら良いのかな、パスカル博士は学校の試運転をしたみたいなんだよ。

子供達にどういう教育をしたら良いのか、すべきなのか……実際にやってみて結果を出そうとしたらしいんだ。

兄貴は通学制っていうのをやろうとしてるんでしょ? でもパスカル博士は全寮制をやりたいらしいんだよね。

ただ子供を寮に押し込めるんじゃなくて、その中で一つのコミュニティを作り出して、学年性別関係なくお互い教え合って支え合って学力を高めて行くって感じらしい。

そうすることで人生に必要な会話能力を確保しつつ人格を育てると同時に飛躍的に学力を高めることが出来るとかなんとか。

……で、それを試したらしい、寮を作ってそこに子供を押し込んで……無理矢理」

「無理矢理!? いや、駄目だろそれは!?」

「うん、駄目、だから逮捕された。

しかも幼い子供まで誘拐しちゃってるから性質が悪い、親から泣きつかれた警邏隊が突入して保護、怪我とかなく無事ではあるけども、それはもう泣いちゃって大変だったみたいだよ。

だからおいらも博士の味方は出来なかったね、一応面会は出来たけど……反省するどころか良いデータが取れたって喜んでるんだもん。

あれは駄目だよ、減刑とかしちゃ駄目、貴族だから出来るんだろうけどあれは駄目かな」

「……うん、駄目だな。

というかどんな形の寮であれ親に黙って押し込んだりはしないだろうし、何のデータにもならないだろ、それは。

流石にそれだと俺も減刑はさせられないな……出来ることは被害者家族に賠償をするくらいだろう。

それぞれ相応の額を支払って……それぞれの家が恩赦を訴えるなら考えるがな、強制も提案もしないつもりだ。

俺が提案するだけでそれは強制みたいなものだからなぁ……支払いも学校関連の企業を通して行おう」

「うんうん、それでこそ兄貴だよね。

……でさ、こんな変人ばっか集めてるのはどういうアレなの? 変人が集まる領なの? 変人ばっかり産まれる領なの? ただの偶然? 意図的?」

と、フィリップはそう言って未だに寝ている博士を半目で見る。

「いや、誤解だ、意図して集めた訳じゃない、ほとんどがこの領生まれじゃないし、結果としてこうなっただけなんだ。

……つまりだ、そこにいる博士も他の博士達も、王都や他の領で重用されなかったんだよ。

それどころか門前払い、どんなに素晴らしい発明をしても実験を成功させても、論文を書いても人格に問題ありと相手にされなかったんだ。

……で、俺は優秀であればそれで良しと考えている、変な人格も個性と考えて受け入れている。

得てして天才とはそういうものだと考えてのことだったが……まぁ、うん、こういうこともあるんだろうな」

「……それだと兄貴にも結構責任あるね。ちゃんと賠償するんだよ? 全く……。

何事にも原因があって結果があるんだからさ、おかしな原因作っちゃ駄目だよ」

そうフィリップに説教をされた俺は、その通りだと反論せずに受け入れ……それから様々な報告が連続して届くことになり、そこからは事後処理に忙殺されることになるのだった。

数日後。

「……いやまぁ、原因があって結果があるとは分かっていたんだが、まさかこうなるとはなぁ」

執務室で届いた新聞を確認していくと、どの新聞も一面は変態伯爵と王太子に関する記事。

二面以降はそれに対する報復に関する記事で……様々なことが積み重なった結果、大炎上となってしまっていた。

ここまでするつもりはなかった、ここまでになるとは思っていなかった。

いや、冷静に考えてみるとどれもタイミング最悪で、後からならいくらでも「そらそうなるよ」と言える訳だけども……本当に予想外だった、何か他の変な力が働いているんじゃないかってくらいに予想外だった。

「……ま、うん、おいらにとっても予想外だったね。

燃え広がっての炎上、だっけ? 兄貴にしては上手い例えだったけど、これどんどん燃え広がり続けてんじゃん、大火事じゃん、どうするの、これ」

と、フィリップ。

その手にも新聞があって……報道は日を重ねるごとに加熱し続けている。

王太子が婚姻を強制した、それだけでも大問題なのにその相手は大陸の貴族でド変態、そんなド変態に家族を奪われそうになった俺が激怒し報復に威嚇飛行を行い、同日王都では反乱が発生し正体不明の犯人が王太子所有の工場を破壊、更には王族までが不信感を示したのか王族用の飛空艇で火船攻撃を実行。

結果、王都周辺は大損害の大混乱、王城もそれはもうどえらい騒ぎになっているらしい。

「……相応に騒ぎになってくれたら良いとは思っていたが、ここまで燃え上がるとはなぁ。

普通に王族なり王城の連中なりが報道を規制すると思っていたんだが……間に合わなかったのか、何もしなかったのか、何があったやらなぁ」

「さーてねぇ。

しかしこれ、もうこのまま王太子にトドメ刺せるんじゃないかって一撃になったよね? ライデルさんはここまで考えて案を出したの?」

俺の言葉にフィリップがそう続き、話を振られたライデルは困り果てたと眉尻を下げた顔になりながら言葉を返す。

「まさか、ちょっとした反撃をしてウィルバートフォース家の立場を示すだけで良かったのですが……ここまでのことになるとは予想外でした。

しかしここまでの事態となると黙っていない者も多いはず、更なる追撃など望まない方が良いでしょうね」

「まぁ、そうだろうなぁ。

……今のこの加熱具合だと下手なことをした瞬間、こちらまで燃え上がる可能性がある。

今の所はこれだけの侮辱をされても威嚇飛行だけで留めた紳士として評価されているからなぁ」

そう俺が返すとフィリップもライデルも頷いてくれる。

今回のこれはこの国にとっての初めてとなる報道が絡む騒動となる。

どこもかしこも対処が遅れて、新聞各社も自主規制をする気など一切なくアクセル全開、恐らくはこのまま行く所まで行くのだろう。

誰もが話題に飽きて新聞が売れなくなれば他の話題に移るのかもしれないが、どこの新聞社も過去最高売上を記録してしまっているらしいからなぁ……当分はこの話題が続くことだろう。

……ちなみに今回の反撃作戦に参加した者達は全員無事に帰還している。

口止め料を含めた大量の報酬を払っていて……それでも羽目を外すことなく大人しく過ごしてくれている。

今はその時ではない、今変に騒げばそこからバレるかもしれないと分かってくれているらしく、改めて我が領の騎士達のレベルの高さを実感する。

そんな騎士達の中にはパスカル博士の教え子もいて……ある意味ではパスカル博士のおかげでもあるので、その辺りのフォローも上手くやらないとだなぁ。

そういう感じで何もかもが上手くいっているのだが、新聞記者の暴走だけが予想外で……どうしてこうなったやらなぁ。

と、そんな事を考えているとノックがあり、返事をするとバトラーが入ってくる。

「リュード軍務伯より急ぎのお手紙です」

「……軍務伯かぁ」

思わずそんな声が漏れる、まぁこの事態でまともに動けるのは彼くらいだろうなぁ。

……そして俺になんとかしろとでも言うつもりなのだろうかと、手紙を受け取り中身を確認してみると、やはりそういった内容だった。

「……せめて具体的にどうしろと書いてくれんかなぁ」

軍務伯の手紙は至って冷静かつ下手に出ているものだった。

今回の件は王太子が悪い、それは分かっているがこれはやり過ぎ、お願いだからこの状況を収拾するために動いて欲しい。

そうしてくれたなら軍務伯として大きな借りであると認識し、今後何かあれば何があろうとも協力する。

と、大雑把に要約するとそんな感じだ。

……しかしどうやって収拾したら良いかが分からないのにそう言われても困ってしまう。

しょうがないかと意を決し、ペンを握り返事を書き始める。

するとフィリップがすっと近寄ってきて……俺の手元を眺めながら口を開く。

「んで、結局どうするの? どういう返事出すの?」

そのまま見ていれば質問などしなくても分かるだろうに……まぁ、良いかとペンを動かしながら説明をしてやる。

「軍務伯のご懸念はよく分かりました。

私の責任が及ぶ範囲で手を尽くしますが、どう解決するべきなのかは私ごときには分からず結果がどうなるかはお約束できません、この度の事態に関しましては軍務伯や王都法院の尽力に期待するばかりです。

……と、大体そんな内容の手紙を返すつもりだ」

「……マジで? そんなこと言っちゃって良いの? 手を尽くすたって現状何をしたら良いかも分かんないんでしょ?」

「問題ない、ちゃんと書いてあるだろ、私の責任が及ぶ範囲で、と。

たかが伯爵にそこまでの責任はない、あってもせいぜい領内の新聞社に意向を示すことくらいだ。

……が、同時に報道の自由の守護者たることも領主の責任だと私は考えている。

よって新聞社に意向を示すことはしない。

それに忘れているかもしれないが、今回の件は既に地方法院に訴え出ている、つまり管轄は地方法院にあって私にはない。

こうした観点からも私に出来ることはない。

……だが私に許された権限の範疇で最善を尽くすことは約束するつもりだ、前向きに検討しながら高度の―――」

「要約して」

「あれこれと言い訳をして安全な立場を確保した上で放置決め込んで、炎上している連中の様子を眺めて楽しむ」

「……マジで?」

「いやだって、こっちとしては何も困らないしな。

この件に関しては燃えてくれた方が王太子の力を削ぐことになるのだろうし、放置が一番だろう」

俺がそう言い切るとフィリップは半目になりながらもニヤつき、ライデルはため息を吐き出しながらも嬉しそうに笑い、バトラーは一切動揺せず表情に出さず、ただただ俺が書き上げた手紙を受け取って退室して……そうして俺はしばらくの間、この騒動を眺めるだけの外野となるのだった。