軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

反撃作戦

「アーデル・トレイサー劇場の誕生だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

博士に劇場建設の話をすると、そんな声を上げながらのけぞり、思いっきりのけぞった反動でもって上半身だけで踊り始めた。

……それは何と表現したら良いのか、こういうオモチャどこかにありそうだなぁと思える光景で、ドン引きしたら良いのかツッコミ入れた方が良いのか判断に迷う。

……迷いはしたがあまりにあまりな光景過ぎて、結局何も出来ず声もかけられずに眺めていると、博士は上半身を強く揺らしてその勢いのまま駆け出して、

「はーははははーはははは~~~!!」

と、笑いながら去っていく。

……まぁ、うん、きっと仕事のために駆け出したのだろう、そう思って放っておくとしよう。

当然ながら博士はドアを開け放った状態で駆け去っていて、仕方ないから自分で閉めるかと立ち上がろうとすると、それを見越していたかのようにライデルがやってきて、ドアを閉めるついでに執務室に入り、いつもの定位置に背筋を伸ばして立つ。

「作戦立案がある程度形になりましたので、報告のために参りました」

それからそう声を上げて、脇に抱えていた書類を机の上にすっと置いてくれる。

それを手に取ったならパラパラとめくって確認をしてみると、結構な文章量と言うか濃密さとなっていて、随分とまぁ仕事が早いなぁ。

……いや、インクの乾き方からするに今さっき用意したという感じではないな、以前からある程度準備は進めていたのか。

書類によるとどうやら三箇所に攻撃を仕掛けるつもりらしい、その三箇所それぞれに二つの方針からの攻撃を行うとかで、その方針とはある程度隠蔽するか、それとも開き直るかの二つ。

どちらにも利がある。完璧ではないとは言え可能な限りの隠蔽を行えば責任追求がされにくくなるだろう、仮にされるとしても時間と手間がかかることは確実でその間にこちらも対策が打てることだろう。

開き直った場合は遠慮が無くなると言うか、とんでもない被害を相手に与えることが出来る、王太子の資金源、軍事力などなど、その力のほとんどを奪い取ることが出来るだろう。

で、どちらにするかだけども……。

「隠蔽で」

「ですよね、開き直ると市民への被害もかなり増えちゃいますし」

そういうことになった。

今回の目的はあくまで反撃、黙ってはいないぞというアピールであって、相手を叩き潰したい訳じゃない。

最終的には叩き潰す相手だろうけども、被害やら今後のことやらの一切を無視して暴走するとなると話が違ってくるし、まだそこまでキレていない、まだまだギリギリそのラインには到達していない……と、思う。

……うん、俺は冷静だ。

「隠蔽で三箇所攻撃として、予算はどのくらいかけましょうか?

予算の限度額ごとに作戦の効果予測も立てておきましたが……」

「無制限で」

俺がそう返すとライデルは目を丸くする。

まさかの青天井は予想していなかったのだろうなぁ。

そんなライデルに笑いそうになりながら言葉を続ける。

「ざっと書類に目を通して思ったことだが、ここが予算の使い所だと思う。

各方面に資金が行き渡るだけでなく、実戦データも取れるのならば今この時期がベストだ、本番前の良い叩き台になるだろう。

……後はまぁぶっちゃけると税収と交易黒字が多すぎてなぁ、そろそろ何かに使わないと変な弊害が出てきそうで怖い、だから使う」

そんな俺の言葉にライデルはこくりと頷いてくれる。

経済学にはそこまで明るくないが、金を集めるだけ集めて使わないというのは大問題になるはずだ。

逆にここで一気に使えば、各方面が潤って技術の蓄積も進んで……俺の最終目標の周知まで出来るのだから問題はないだろう。

工場経営者、技術者、市民達などなど領民達全員に、俺が今後何をするつもりなのか知らせておいて、心の準備をしてもらっておけばいざその時になった際には色々なことが円滑に進むはずだ。

「了解しました。

では隠蔽かつ無制限で三箇所同時攻撃、市民への被害はなるべく減らすという観点からこのような作戦となります」

目標は三箇所、まずは王都……王都? マジで?

どうやら王都に工作員を侵入させて、工場の機械への破壊工作を行うらしい。

戦車を作っているらしい工場機械、それが具体的にどんなものかは分からないが、戦車を作れるレベルなら機械らしい機械になっているはずで、ちょっとした工作で破壊は……まぁ、可能だろうなぁ。

機械を破壊し出来れば資材も、魔法石があれば奪い取っての帰還を目指すようだ。

次に北東王太子領への威嚇飛行。

北東のそこは正確に言うのなら王家直轄領で、実質的に王太子が管理している領土となっている。

南部から向かうには山を越える必要があり、大陸からも遠く、海流の関係で海から近付くのも難しいと天然の要害となっているそこは、王家からすると避難先であり別荘地でもある。

そこに対して可能な限りの数を揃えての大船団での編隊飛行を行い、攻撃しようと思えば出来るのだと、これだけの戦力があるのだと知らしめる。

要は脅しだ、それだけのことをして隠蔽もクソもないとは思うが、紋章を隠し領旗を掲げないことで、うちじゃありませーん、外国のどこかなんじゃないですかー、みたいな言い訳をゴリ押す方針らしい。

そもそもとしてこの国にはまだ航空法がない、飛空艇を取り締まる法律も組織も存在していない。

領の上空を飛ぶだけならば犯罪ではないのだ。

常識とか倫理的にどうなのよ? という問題があるにはあるが、公に責められないというだけでも悪くない作戦と言えるだろう。

そして最後が……。

「……王家直轄の港を破壊? いやまぁ、構わないと言えば構わないが、他に比べると随分過激だな?」

と、言うもので王都南東にある直轄港、そこを使用不可能なまでに破壊するという結構な大規模作戦が提案されていた。

「はい、あの港は私掠船の拠点になっていまして、その私掠船が不穏な動きを見せています。

大陸勢力の船だからと先代様の管理する港の船まで襲おうとしたり、こちらの所有する船に威嚇をしてきたりと、今までにない動きです。

脅しなのか、こちらの動きを見ようとしているのか……いずれにせよ放置するのは危険かと考えますので、先んじての破壊を提案させていただきました」

あー……なるほどねぇ。

私掠船、国公認の海賊で敵国の船なら好き勝手して良いよというだいぶアレな制度のことだったか。

元々は手に負えない海賊対策の一貫として始まったことらしいが、それがまた予想以上の成果を挙げたものだから、今ではちょっとした国家事業になりつつある。

死刑相当の犯罪者を強制的に海賊にしたり、借金などで行き詰まった人々の一発逆転案として海賊になるように誘導したり……まぁ、あまり褒められた制度ではない。

父上なんかは興味津々、我が家でも海賊を雇いたいとか略奪させたいとか、そんなことを言ったりもしていたが、結局国からの許可が出ず頓挫していたんだったなぁ。

「破壊するとしてどうやる? 隠蔽まで考えると相当面倒くさいと思うが?」

俺がそう返すとライデルは、書類をめくるように促してきて……それに従って読み進めてみると『偽装飛空艇計画』との文字が。

どういうことだ? と、詳しく読んでみると、以前王兄が火船戦術をかましてきたあの飛空艇のパーツなんかを既存の飛空艇に張り付けることで王兄の飛空艇であると偽装し、それでもって火船をやり返すと、そういう作戦となっているらしい。

「あの火船のその後の処理は工場関係者に任せていたのですが、燃え残った部分を研究用ということで回収していたようでして……王家の紋章や旗などといった品の一部も保管してあるとのことです。

それらを修復した上で利用し、あくまで王家の飛空艇であるという形で接近、そのまま火船戦術で港の破壊を狙います。

事前に人払いをし、火が燃え移りやすいよう木材などを運び込み、一帯を燃やし尽くすつもりです。

復旧不可能とまではいきませんが十分なダメージになる上に、あの王兄のやらかしをやり返すという、分かりやすいメッセージを送れるという点でも悪くない作戦かと思います」

「なるほどなぁ……。

その港に関しては先々利用するつもりだから完全破壊は困るが、火事くらいならまぁ、問題はないだろうな。

人払いについてはそこまでこだわる必要はないぞ、あの港にいるのは海賊かそれに準ずる連中くらいのはずだ、無理はしないように」

今回の作戦の中で一番明確な被害が出る上に、無関係な者達まで攻撃することになってしまうが……私掠船とその関係者が相手なら胸も痛まない。

むしろ利用するその時のためにも、ゴロツキのような連中は追い払っておく必要があるだろうなぁ。

……その時が来たなら父上と兄上にはその港を制圧してもらうつもりだった。

そこから大陸で運用している兵力を上陸させ、そのまま王都に迫ってもらうつもりだった。

飛空艇がある今、そこまで港にこだわる必要はないのかもしれないが、何しろ父上達は今や特大勢力となっているからなぁ、飛空艇でその全戦力を運びきれるかは不透明なので、やはり港のことも考慮に入れておくべきだろう。

という訳で反撃作戦はこの三作戦で同時に実行することが決まった。

同時にやることで『いやいや、うちがやったのは威嚇飛行だけで他は知らないですよ、全戦力が威嚇してたんで他に回す余裕なんてないッスよ!』みたいな言い訳が出来るし、相手の対応能力を分散させられるし……他をやらかしてからだと無駄に警戒される可能性もあるので同時が最善となるだろう。

「……予算と人員は必要なだけ回す、他に必要なものはあるか?」

「いえ、特にありません、お気遣いだけ頂戴いたします」

俺の言葉にライデルがそう返してきて……これで話し合いは終了、ライデルが中心となって準備を進めていくことになる。

と、言っても威嚇飛行は既存の飛空艇でなんとかなるし、破壊工作も騎士達の準備が整えばそれで済むはず、後は偽装飛空艇さえ完成してしまえば実行可能なはずで……既存の飛空艇に張り付けるくらいなら、そこまでの時間はかからないはずだ。

「10日後には実行可能になるかと」

俺の考えを読んだか、ライデルがそう言ってくる。

10日……10日か、準備して必要な人員を送り込んで、現地であれこれと動き回ることを考えたらかなり早い方だと言えるだろうなぁ。

しかしライデルは出来ないことは言わないはずで、ライデルが10日と言うのなら10日で実行可能になるのだろう。

「分かった、準備が整ったらそのまま始めてくれ。

こちらに許可を取る必要も号令を待つ必要もない、全てをライデルの判断で進めてくれ。

俺は姉上の件に対処しなければならないからなぁ、場合によってはこちらの方が過激なことになりそうだし、状況確認や許可を出す余裕もないかもしれん。

責任は取るからやりたいようにやってくれ」

と、俺がそう言うとライデルは、その言葉を待っていたとばかりになんとも良い笑顔になって、胸に手を当てての一礼を見せてくる。

それから早速準備に取り掛かるのか執務室を出ていって……俺はバトラーを呼び、予算の決済などの準備を進めていく。

それから俺はしばらくの間、予算やら人材の管理で忙しくなることになり……例の伯爵一家も観光を存分に楽しんでいるのか顔を見せることはなく、ただただ事務処理に忙殺される日が続いた。

それはかなりの忙しさで、細かい部分にまで気を回せず……暴走しているだろう博士の状況の確認なども出来ないままとなってしまい、結果として伯爵一家と劇場と反撃作戦の全てが、まさかの同時の10日後に動き出してしまい、更なる忙しさが一団となって押し寄せてくることになってしまうのだった。