作品タイトル不明
56.恩を売るのだよ
しかし……と私は考える。ルヴィン王子とは言え、一国の王子の行方が分からなくなったのである。多少なりとも国家としてはかなりの大事だ。
それも、ウェイド辺境伯領に出向いてからの行方不明。あらぬ疑いをウェイド辺境伯や私にかけられる事態も容易に想像できる。
困ったな。対応を間違えればかなりの問題になってしまう。
ひとまず私だけでは判断が付かない。急いで戻って報告するとしよう。
転移魔法陣を生成し、私は急いでギルドマスターたちのもとへと戻る。転移陣をくぐると、二人は私の顔をじっと見てくる。
「どうだった?」
私の表情を見てか、ギルドマスターが険しい表情で聞いてきた。
「恐らく、魔族か何かしらの強大な存在が現れたとみていいでしょう。しかし……例の場所には襲われた馬車の痕跡がありました。それも、ルヴィン王子が乗っていた馬車です」
「……ルヴィン王子の身は?」
「……ありませんでした。恐らくは襲われて攫われたか、あるいは……」
私の言葉に、ギルドマスターとウェイド辺境伯は眉間に手を当てて唸った。
「シセ……それはかなりヤバくないか? 少なくともルヴィン王子は俺たちの領地を目的に来ているわけで……」
「それも、シセという問題を抱えて来ているわけだ。王国側からしてみれば、連れ戻そうとして反感を買い、そのまま現地で何かがあったと捉えられかねない。こればかりは頭が痛いな……」
二人は心底悩み果てているという様子であった。それもそうだ。私ですらもう頭が痛いのである。
ギルドマスターは嘆息した後、くいとメガネを上げる。
「生きているのならば、早急に王子の身を奪還するべきだな。こればかりは私たちが王国側にどんなことを言ったとしても、疑いは解消されない。もって……一週間以内には解決しなければ、私たちの首は間違いなく斬られる。いや、待て。あるいは……」
ギルドマスターが考える素振りを見せる。
「魔族と人間は今に至るまで敵対関係だ。そんな存在が、一国の王子の身を確保して、わざわざ殺すとも思えん。なんなら丁重に扱うはずだ。恐らくはそれを脅しに、何かしら要求をしてくるだろう」
確かにそうだ。もし私が魔族側だったとしても、そんな簡単に殺すようなことはしない。
「これは、あえて我々は待機だ。あくまで、魔族側の様子を窺う程度に止めておこう」
にやりと笑うギルドマスター。
「向こうが何かしら王家に要求してくる。そこで、我々が手を挙げて率先して解決に動くのだよ。そうすれば手柄は上げられるし、王家も迂闊に我々に下手な行動は取れなくなる。恩を売るのだよ、恩を」
なるほどな。これはさすがギルドマスターと言ったところだろう。