軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36.ミアの相手はエミリオ!? やめて、それだけは不幸すぎる!

ミアにあれほどきっぱりと拒絶されたというのに──。

ローレンスは、育成授業の場で以前と変わらぬ態度を崩さなかった。

いや、むしろ普段以上に堂々として見えるくらいだ。

声の張り、立ち居振る舞い、誰にでも聞こえるような朗々とした物言い。

「魔力の流れを整えるには、相手との呼吸を合わせることが肝要だ」

実習の説明でそう言い切る姿は、堂々たる王太子そのもの。

周囲の生徒たちも「さすが殿下」と感嘆の眼差しを向けていた。

……でも、わかる。

あれは「僕は動じていない」「自分は何も傷付いていない」という芝居だ。

拳を震わせながらも必死に取り繕っていた昨日の姿を、私は見てしまっている。

普段なら自然体に映るはずの自信も、今日はどこか肩に力が入りすぎていた。

わざとらしいほど堂々とした態度が、むしろ動揺から立ち直れていないことを如実に示していた。

──さすが、外面の良いモラハラ野郎。

まあ……ミアに危害を加えないなら、別にいいわ。

ちらりと彼の横を見ると、ミアも少しぎこちないながらも、ローレンスの普段通りの態度にほっとしているようだった。

……あれに騙されているあたり、まだ甘い。

でもまあ、今はそれで安心できるのなら、それでいいのかもしれない。

休憩時間。

水筒を手にして一息ついていたとき、ふと視線の先にミアとエミリオの姿が映った。

二人は並んで腰掛け、何やら楽しそうに笑い合っている。

エミリオが小さな箱を取り出し、それをミアに手渡すのが見えた。

ミアは驚いたように目を瞬かせ、それから大事そうに胸に抱きしめる。

……なに、それ。

まさか、プレゼント!?

頭の中で、昨日のミアの言葉がよみがえる。

「私は、自分のことだけを見てくれる人と、結婚したいんです」

……まさか。

自分だけを見てくれる相手って──エミリオ!?

そんな、ダメよ!

あんな、産んだ覚えのない長男になるのがわかりきっているダメ男にミアを渡すわけにはいかない!

胸の奥がざわつき、思わず水筒を握る手に力がこもった。

ミアは頬を赤らめて微笑んでいる。

その笑顔が余計に心臓に悪い。

胸の奥を素手で掴まれたように、息が詰まる。

──お願いだから、ミア。よりによってエミリオだけはやめて。

そんなの、あまりにも不幸すぎるわ。

その日の帰り道。

胸のざわめきを抑えきれず、私はエミリオにさりげなく声をかけた。

「そういえば……最近、ミアとよく話しているようね?」

努めて何気ない調子を装う。

けれど、わずかに声が硬くなっていたのを自分でも感じた。

「え? ああ、そのことか!」

エミリオはあっけらかんと笑い、肩をすくめてみせた。

「この間の小鳥を治してもらったお礼だよ。街で評判の菓子店があるだろ? そこに寄って、女の子が好きそうな詰め合わせを買ってきたんだ」

さらに、眉を寄せて続ける。

「あそこ、すぐ売り切れるんだよ! ちょうど入荷の時間に居合わせて、行列に並んで……やっとのことで手に入れたんだ。いやあ、大変だった!」

……なんだ。

そういうことだったの。

胸の奥の重石が、すとんと落ちていくのを感じた。

危うく早とちりするところだったわ。

「そう……お礼、ね」

私は小さく息を吐き、表情を崩さぬまま頷いた。

「まあでも、僕の友達を助けてくれたんだからさ! それくらい当然だろ?」

得意げに笑うエミリオの態度は、いつもと変わらない。

そこに特別な感情は見出せず、私はほっと息をつく。

──まったく、人騒がせなんだから。

翌日。

教室に入った瞬間、目に飛び込んできたのは──またしてもミアとエミリオが親しげに話している姿だった。

机を寄せ合い、何やら紙を広げて熱心に語り合っている。

その表情は真剣でありながら、時折楽しそうに笑い合ってさえいる。

……お礼は、もう済んだはずよね?

だったら、あんなに親しげに話す理由なんて……。

胸の奥がずしりと重くなる。

まさか本当に……「自分のことだけを見てくれる人」って、エミリオのこと?

ダメよ!

そんなの絶対にダメ!

エミリオなんかと関わったら、ミアはきっと不幸になる!

頭の中で警鐘が鳴り響き、心臓まで落ち着かない。

ミアの楽しげな笑顔が、余計に胸をざわつかせた。

私は思わず二人を凝視していた。

何を話しているのか気になって仕方がない。

もしや……やっぱり恋仲に? そんなの許さない、絶対に。

そんなときだった。

ふいにミアとエミリオがこちらに気づき、同時に視線を上げた。

そして──ふたりして、ニヤリと笑った。

……え?

その笑みは、恋人同士のそれとはまるで違う。

甘さも照れもなく、むしろ妙に息の合った、企みを共有する者同士の笑み。

まるで「さあ、始めようか」とでも言いたげな、悪だくみの合図のように思えた。

私は小さく息を呑む。

二人の間に結ばれた何かは、確かにある。

けれど、それが恋愛ではないのは……私にもわかった。

──でも、じゃあいったい何?

胸のざわめきが収まらないまま、私はその場に立ち尽くすしかなかった。