軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

SS⑩ 7番目の女神

異世界に転移して5年目の頃、ダンが15歳の時の話です。

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俺達が転移したこの世界には魔物がいる、まるでゲームの中のような世界だ。

もちろん冒険者ギルドもある。

俺たちはやまと屋という弁当屋をやっているが、冒険者の登録もして日々少しずつではあるが冒険者のランク上げにも精を出している。

と言うのも、過去にゴブリンの氾濫やアンデッドの氾濫を経験したからだ。

魔物の氾濫はこの世界では割とよく起こるらしい。もちろん氾濫が起こった時は全力で子供達を守るつもりだが、子供自身にも最低限の力を身につけて欲しいのだ。いざという時に、自分の力で自分を守れるように。

うちのやまと屋で働いている者も冒険者登録はしてもらっている。将来、冒険者にならなくても身を守る訓練は常にさせている。

この世界に転移してもう5年が経った。

この世界で初めて一緒に暮らした時は子供だった3人も、今はダンが15歳、アリサが13歳、マルクは7歳くらいになったはずだ。

はずだ、と言うのはスラムや教会の孤児達は自分の年齢を正しく把握しているわけではないからだ。

スラムから来てやまと屋で働いてくれているロムとタビーもダンと同い年くらいだ。

この世界ではあまり誕生日という概念がない。

普通に親の元で育っている子供も「今年何歳」「15だから成人」といったようにアバウトだ。大人もいちいち自分が何歳だとは言わない。

王都の神殿の女神像で収納鞄のクエストを受ける事で『成人』か『未成人』かがハッキリわかるくらいだ。

あのクエストは成人未満は受けられないからな。

地球、いや、日本ではだな、日本は普段からやたらと年齢を気にする国だったからな。

俺は「◯歳」と言わされるのが一番嫌だった。

それは俺自身も年齢を気にしまくりだったからだと、今は思う。

この世界に来てからは、誰が何歳とかは全く意味もなく、誰からも聞かれない事がとても楽だった。ギルドでも年齢を聞かれない。

クエストを受けるのに冒険者ランクは聞かれるが、年齢は聞かれない。それがラクだ。

やまと屋で孤児の子供らと一緒に暮らし始めた頃も、つい年齢の話題を出すのは俺たち稀人組の方だったな。

だが、今日、ダン達は年齢を気にしていた。

王都の神殿の女神像のクエストで、成人になると受けられる収納鞄のクエストを受けたいからだ。

「俺、絶対成人超えてると思うんだ」

「俺もだ! もしかしたら昨年だったかも」

「僕も成人だと思う!」

やまと屋で働いている子供、ダン、ロム、タビーの3人は少し前から暇があると王都の女神像クエストの話をしている。

3人は弁当屋の仕事がない日はギルドの依頼をコツコツとこなして、現在は冒険者ランクがDになっている。

街の外へ行く時は大人が必ず付き添っているが、街の外、門の直ぐ近くの採取などは3人で行っている。

なので、「収納鞄が欲しい」とよく話していた。

このムゥナの街にも女神像はあるが、この街の女神像は、倉庫、鍛治、薬、魔法の4体だけだ。

王都の女神像は、その4体以外に、血盟の女神と収納鞄の女神がある。それともうひとつ、少し前に発覚した『守護の女神』、今のところ10体のうち7体まで解明されていた。

そう。解明された女神像の6体目が『収納鞄』、そして7体目は『ミスリルシャツとズボン』だった。

2年前に『収納鞄』の女神像クエストが解明された時は大騒ぎだった。

誰もが欲しがる収納鞄、見た目は物凄く小さくても100個の収納が可能な鞄だ。

冒険者のみならず、商人や街で働く者の誰もが欲しがった。王都の神殿の女神像は大混乱になった。

その混乱の中、ギルドは同時に他の女神像についても再度調べ始めた。

6体目の女神像が、15歳の成人が触れる事で条件が解放されたのだ。なので、残りの4体の女神像も15歳の少年に触れさせると、何と7体目の女神像が解放された。

『守護の女神より ミスリルの衣の材料を集めよ』と。

どうやら7体目の女神像は装備の下に着込むミスリルシャツとミスリルズボンが報酬だった。

ただ、こちらの女神像は冒険者には人気が出たが、商人や町人でクエストを受ける者は少なかった。

冒険者にしても一度受けてミスリルの上下をゲットすると満足して何度も受ける者はおらず、あっという間に下火になった。

とはいえ、まぁ、常にそこそこ利用者はいるようだが。

実は今回、ダン、ロム、タビーの3人も『収納鞄』のクエストを受けるついでに、『ミスリルの衣上下』も受けてもらう予定だ。

ちなみにミスリルの衣クエストの材料は、

『ミスリルの上衣 ミスリルスパイダーの糸を五かせ、ミスリル魔石を十個』、

『ミスリルの下衣 ミスリルスパイダーの糸を五かせ、ミスリル魔石を十個』だ。

ミスリルの衣を上下作成するには、糸が十かせとミスリル魔石が二十個必要になる。

7体目のクエストが人気がないのは材料に金がかかりすぎるというのもある。魔石が結構必要になるからな。

だが、俺たちは大丈夫。今回は死霊の森地下ダンジョンで魔石は山ほど用意したし、ゴブリンの死体もバッチリ準備してある。

6体目と7体目のクエストの材料が何気に重なっているのもラクだ。

『収納鞄』の材料がシルクスパイダーの糸ひとかせ、ミスリル魔石3個、『ミスリルの衣』上下の材料がミスリルスパイダーの糸十かせ、ミスリル魔石二十。

クワモ高原でシルクの糸を採って、その後近くの鉱山でミスリルの魔石と糸を採ればふたつのクエストの材料集め完了だ。

これは一緒に済ますに限るクエストだな。

という訳で、王都の神殿でダン、ロム、タビーの3人に女神像に触れてもらい、クエストを受けてもらった。

今回の付き添いは俺の他に、山さんとキックに来てもらっている。

実は材料集めに何度か通ってる時に判明したのだが、シルクスパイダーとミスリルスパイダーは大人しい。

人を襲わないのだ。(もちろんこちらが攻撃をすれば反撃してくる)餌を撒くとひたすら黙々と食べて(出すモノを出して)くれる。

大人の冒険者はソロで十分なのだが、成人したばかりの冒険者は付き添いが推奨となっている。別の魔物に出会う可能性もあるからな。

因みに月サバの面々は7体目のクエストにはかなり後ろ向きだった。

俺らはゲーム内で手に入れたミスリルシャツを複数枚持っていたし、何なら強化もしてあるからだ。今更、新たに手に入れてもと言っていた。

ただし、ゲームには無かったミスリルズボンを入手のため、一度は女神クエストを受けたようだ。

俺は鉱山のミスリルスパイダーを餌で釣るのが楽しくて、結構通ってしまった。

ミスリルスパイダーもゴブリンを餌として糸が採れると聞き、俺は洞窟内に魔石とゴブリンをセットしてみた。

するとミスリルスパイダーはゴブリンを糸でぐる巻きにした後に魔石を貪り食い始めた。

魔石に夢中になっている間に、ゴブリンの足に付けておいた細い紐をそっと引っ張り手元まで引き寄せ素早くミスリルの糸を取り外す。

魔石を食べ終わりウンコ(ミスリル魔石)をプリプリと出した後、ゴブリンを探してキョロキョロし出す。

ミスリルの糸を外したゴブリンを近くに転がして、魔石も横に置いておくと忽ちやってきては、まずゴブリンを糸巻きし、そして魔石を貪ると延々と繰り返す。

ゴブリンが減らずにミスリルの糸が採れるこの方法、俺ってば天才じゃないか?

そんな感じでミスリルスパイダー釣りにハマり、ミスリルの衣上下をかなり作ってしまった俺だった。

そう、ミスリルの衣の女神像クエストは回数無制限で受ける事が出来たのだ。残念ながら衣のバージョンアップとかは出来なかった。

クワモ高原でシルクスパイダーの糸を採り終わった俺たちは鉱山の洞窟内に来ていた。そこで餌のセット方法を説明してゴブリンと魔石をダン達に渡した。ダン達はそれぞれセットした後に洞窟の隅に隠れて待っている。

洞窟の奥からチラッと光るモノが目に入った。ミスリルスパイダーのお尻の魔石が光ったのだ。

奥からチラッ、チラッと数体のスパイダーがやってきたようだ。

ダン達は緊張しながらゴブリンの糸巻きが完成するのを待っている。

「魔石を食べ始めるまでは待て、まだ動くなよ」

「わかってる。あ、右のやつ巻き終わった」

「タビー、右の頼む、俺はあっちのやつやる」

「俺はアイツが次のゴブリンに移動したらミスリル魔石を拾う」

子供らは小声でお互い連携を取り合いながら糸と石を集めていった。それを見ているとほんの少しだけ、ジーンとしてしまった。子供はいつの間にか大人に成長しているのだな。

ダン、ロム、タビー。出会った頃は少年だったが、今は身体もだいぶ大きくなって、背などはとっくに俺を追い越していた。

このクエストが終わったら、やまと屋では3人の成人の祝いを行う。

今頃あっちゃんやユイちゃんやリンさんがお祝いの準備をしている頃だ。明日からはキチンと大人として扱わなくてはな。

ダン達の成人の祝いが済み、少ししたある日。

やまと屋の裏庭には洗濯物を干すコーナーを作ってある。

やまと屋は一緒に住む家族が多い、毎日出る洗濯物も半端でない。幸いうちには広い裏庭があり、小さな畑もあるくらいだ。

母家を背に右手側の裏庭の一画には井戸と接して洗濯小屋があり、その前面には物干し台が設置してある。

俺の昔の記憶を元に大工ギルドに注文をして作ってもらったモノだ。

そこにはいつも沢山の洗濯物がはためいている。俺は手が空くと裏庭で洗濯物に風を送っている。生活魔法のひとつだ。

この世界で生活魔法を覚えたが、驚いた事に生活魔法に『風』がなかったのだ。

火、水、と来たら風は必須だよな?

「ふおおおお! ふおおおおお!」と頑張っていたら、風魔法が成功した。

風呂上がりの子供らの髪を乾かすのに便利だぞ。洗濯物も短時間で乾かせる。

今も手が空いたので洗濯物に風を送ろうと裏庭に出てきた。すると物干し台の一画に子供らが集まっていた。

「何だ? オネショでもしたか? 布団干してるのか?」

そう言いながら近づくとそこには物干しに三枚のシャツがぶら下がっていた。ミスリルシャツだ。

シャツの背中に油性ペンで大きく名前が書かれていた。

『ダン』

『ロム』

『タビー』

ああ、そうか。ちびっ子らはミスリルシャツを羨ましそうに見上げていたのだった。

「いいなぁ、僕も早く欲しいな」

「ジョンはいつ? 来年?」

「ううん、次の次の年。次の年はキールとエルダだよ」

出会って5年も経つのだ、この子達も大きくなった。あっという間に俺を超えて行くんだろうな。

「来年、再来年なんてすぐだぞ! ダン達にクエストのやり方、ちゃんと聞いておけよ」

「「「はぁーい!」」」

あれ?そう言えば……。

ゲームのミスリルシャツは中にタグが付いていて『水洗い不可』だったな。これ洗っても大丈夫なのか?

物干しにぶら下がっているミスリルシャツをひっくり返してタグを探すが、見つからなかった。

縮まない事を願うぞ。