軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

SS⑨ 6番目の女神

異世界に転移して3年目の頃、山さん(山川部長)の息子、 颯太(そうた) くんが15歳の時の話です。

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俺は今、王都の神殿に来ている。

地球からこの世界に転移したのがつい昨日の事のように感じるが、あれから3年が経った。

この世界に転移した年は次々と事件に振り回されていったっけ。

一緒に転移した職場の数人と借家に住んでいたら、職場のお局たちに借家を乗っ取られたり。

引っ越そうかと考える間もなく街の近くでゴブリンの氾濫が起こったり。

その混乱の最中に開拓村にいた社員達が脱走事件を起こしたり。

教会の中庭の女神像が実はゲームの倉庫である事が発覚、アイテムや金貨をゲット出来て街の中央に家と店を購入出来た。

やっと生活が落ち着いたと思ったら、今度は隣の国でアンデッドの氾濫が起こり山脈を越えて来たアンデッドの処理に駆り出されて。

そこでバッタリ、昔のゲームの仲間たちと出会い王都へ行った。その王都で職場の仲間たちの家族との再会もあった。

そう、最後はあっちゃんの出産だ。あっちゃんは職場で働いていた仲間でこの世界でも一緒に住んでいる仲間のひとりだ。

あっちゃんはこの異世界に転移する前に妊娠していたので、こちらでの出産になったのだ。

思い起こすと、本当に激しい一年だった。

俺達が住んでいるのは王都からかなり離れたムゥナという街だ。俺たちはそこでやまと屋という弁当屋をやっている。

現在の弁当屋の仲間は、日本の職場からは山さん(一家)、あっちゃん(一家)、ユイちゃん(は昨年結婚したが通いで働いてくれている)、それとキック。

ゲーム仲間ではパラさん(一家)、リンさん(一家)。

そして、この世界、この街で知り合った子供のダン、アリサ、マルク、それと教会やスラムで雇った子供達。

といった大所帯で毎日をゆったりと暮らしている。

ゲーム仲間の他の者達は普段は王都にいる。王都には血盟アジトがあるのだ。

俺は元々ゲーム職業が魔法使いでテレポートが出来るので、ムゥナの街と王都の行き来は簡単だ。

最近はテレポートスクロールも普及し始めて、王都や街の人間の行き来も楽になってきているようだ。

そして俺は今、王都の神殿に来ている。

理由は山さん(職場の部長だった人)の息子の颯太君の15歳の祝いだ。

お祝いに欲しい物はあるかと訊ねたところ、「王都に観光に行きたい」と言われた。

この世界に転移した時、山さんはムゥナの街に、奥さんと颯太君は王都近くの街に落ち、家族が合流出来るまで半年以上かかったのだ。

家族合流後、山さん一家はムゥナの街で俺たちと一緒に暮らしている。

当時の颯太君は12歳で、いきなり知らない世界で母親とふたりで暮らす事になり、異世界を楽しむ余裕などなかった。

父が見つかり、小さな 街(ムゥナ) へと急遽移住をする事になったので、王都を全く見ていなかったそうだ。

大人達が諸々の事情で街と王都を行き来した話を聞くたびに、王都を観光したかったと思っていたそうだ。

それで山さん、颯太君と俺の足にくっついていたマルクを連れてエリアテレポートで王都へとやって来た。

「悪いねぇ、カオくん」

「いや、全然いいっすよ。颯太、王都で行きたいとことかあるんか?」

「はい! ええとまず王都のギルドに行ってみたい! ムゥナのギルドよりずっと大きいって話を聞いたです」

「うん、ギルドか。大丈夫、ブクマあるぞ。他には?」

「あと神殿も見てみたいです! ムゥナは女神像が4つしかないでしょう? 王都は10あるって聞いた! あとね、カオさんのナヒョウエにも行ってみたいかな」

「おう。でもナヒョウエはバナナしか置いてないぞ?」

「……ナヒョウエってゲームのお店だったんでしょ? 見てみたい」

「こら、颯太! 無理言ったらダメだ」

「あはは、大丈夫だよ、山さん。家で普通にしてる会話も子供って意外と聞いてるもんだな。」

「ふひひ」

「わかった。ナヒョウエな。でも他で話したらダメだぞ?」

「うん! やったー」

そう言うわけでまずギルドへ連れて行った。

「さすが王都のギルド、大きいなー。外から見たのだと4階建かな。中もひっろーい。あ、掲示版大きい!」

颯太も15歳、冒険者ギルドでもランクDになってだいぶ経つ。さすがにまだCには成れないが、王都のギルドに興味津々だった。

「凄い、ランクDの依頼が沢山ある。父さん、俺、王都の依頼も受けていいかな。今度みんなと一緒に王都に来たい」

「ダメだ。王都はランクB……せめてCになれてからだ」

「ええー、ちぇっ」

「じゃあ次は神殿に行くぞ」

ちょっと不貞腐れた颯太と、山さん、それと右足に抱きついているマルクを連れて神殿へとテレポートをした。

王都の神殿もムゥナの街とは比べ物にならないくらい大きく広い。

俺たちは長い廊下を歩いて女神像の間へと入っていった。

広い部屋に円を描くように10体の女神像が並んでいる。

資産を守る女神:大きな鞄を肩から斜め掛けしている。

魔法を司る女神:手に本を持っている。

戦いにおける修復を司る女神:剣と金槌を持っている。

薬を授ける女神:手に花と小瓶を持っている。

血盟を司る女神:頭に小さな王冠を乗せている。

王冠を被った女神以外の4体はムゥナの街の神殿(教会の中庭)にもある。倉庫女神、魔法女神、薬の女神、鍛治女神だ。

王都には10体の像があり5体までは判明しているが、残り5体は不明ままだ。

神殿関係者やギルドの者、それとうちの血盟のタウさんらも調べているみたいだが、未だに解明していない。

10体のうち重要なのは5体のみで、残りの5体はダミー、つまりただの像では、とも言われ始めている。

以前に来た時は、左右の壁に5体ずつ女神像が並んでいたのだが、倉庫女神が混み合うため、像の配置を変え今のような円形に並べたそうだ。

倉庫女神は相変わらず人気で、像の前には行列が出来ているが、そのすぐ後ろの小部屋へと行列が続くようになっていた。(『最後尾はこちらです』の札と共に)

颯太はゆっくりと倉庫以外の像を見て回っている。

俺はダミー像(解明されていない女神像)のうちの一体の像の前に立っていた。

実はこいつ、……怪しいんだけど、触っても何も起きないんだよな。

そう、俺が立っている像は、左手に小さな鞄を持っている。いや、鞄というには小さすぎるか。

銀座で高級車から降りたセレブマダムが手に持っている、鞄とは言えないような小さな、いや、デカイ財布のような物を持った女神像だ。

セレブ女神……いや、ご利益が解らぬ。

あれか?セレブマダムが触れると女神像が解放される、とか?王都のセレブマダムと言えば、王妃とか王女か?

しかしコレ、何かどこかで見覚えがあるんだよな。地球での俺にセレブな知り合いはいないし、どこで見たんだ?

俺が考え込んでいると隣に颯太がやってきた。

「カオさん、何を見てるんです? これって何も無い女神像ですよね?」

「うん、そうなんだけどな……。このセレブバッグ、どこかで見覚えが……」

「ふうん。ん……? あ、これ、アレに似てる! 都市伝説の番組で見た壁画の人が持ってる謎鞄!」

「ああ! そうだ、アレか。俺はYoootubeで見たわ! 世界のあちこちで見つかってる古代の壁画のやつだろ? 何故か手に小さいこんな感じのバッグを持ってるんだよな。時代も場所も違うのにそこだけ共通してる謎のバッグな」

「そうですそうです。僕はあれって宇宙人とかのタイムワープの機械が入ってるんじゃないかって思ってます」

「お、偶然だな。俺も宇宙人か神の不思議バッグだと思ってる」

「つまり、地球もこの世界も太古の神は一緒って事かな……」

そう言いながら颯太が女神の左手のバッグに触れると、突然目の眩むような光と声が聞こえた。

---クエストが解放されました---

ふあっ!?

触れたまま颯太がぶるぶるしていたので、思わず手を引き剥がそうとした時に俺も鞄に触れてしまった。

『成人を祝う女神より。鞄の材料を集めよ。シルクスパイダーの糸をひとかせ、ミスリル魔石をみっつ』

ふあああああっっっ???

俺の前面、空中に文字が現れた。

やっぱりただの像ではなかった、怪しいと思ってたんだ。けど、俺が今まで触れた時は何も起こらなかったのに。さっき「クエストが解放」とか何とか聞こえたな。

あ、そうか。成人を祝うってあるから解放の条件は最初に触れるのが15歳とかなんかだったのか?わからんがもう解放したし、いっかー。

「かかかかおさん、何か出たんですけど!」

「うん。だいじょーぶ。俺も出た」

「どうしたんだ!」

俺と颯太が女神像の前で硬直しているので何事かと驚いて山さんが

走り寄ってきた。

「山さん、山さんもちょっと触ってみて。その小さい鞄みたいなところ」

「ん? うん……ええええええええ! 何だこれぇ」

はい、山さんにも出たー。

俺はとりあえず、王都の血盟アジトにいるタウさんへ念話を送った。

すぐにタウさんが飛んできた。タウさんも触って確認をすると少し考えていた。

「成人を祝う女神からのクエスト。態々クエストにするくらいですからただの鞄ではないのでしょうね。もしかするとアイテムボックスのような収納鞄かもしれませんね」

「この世界って確か収納鞄とかあったんじゃなかったか?」

「ええ、あるにはありますが持っている人は少ないらしいです。アーティファクトと言われていますから。それが成人の冒険者が持てるとなれば、狩りも移動もラクになる。僕ら稀人はアイテムボックスがあるから大して気にしませんでしたが、女神像クエストで15歳から収納バッグが持てるとなると、世界は大きく変わるでしょうね」

タウさんから王都のギルドへ連絡をしてもらい、しばし女神像に触れる者が出ないように警備が置かれる事となった。

女神像の間を封鎖してしまうと、倉庫を利用している者達が困る事になるので、この女神像のみの封鎖となった。

封鎖にあたり月の砂漠の面々も女神クエストを受けた(触った)。

ちなみに成人未満(15歳未満)の者に触れさせてみたが、クエストは発生しなかった。

クエストメンバーはタウさん、カンさん、ミレさん、パラさん、ゆうご君、リドル君、アネさん、リンさん、山さん、颯太君、俺カオの11人だ。(マルクは留守番だ)

「シルクスパイダーの糸をひとかせって出てたけど、ひとかせってなぁに?」

アネさんが誰に問うでもなく呑気に口にする。よかったー。俺もわからなかったのだ。人枷、人貸せ、人化せ?

「ああ、糸の数え方みたいですね」

「ひと束でいいのかな」

「たぶん、そうだと思いますよ」

おおう、そうなのか。シルクスパイダーの糸をひと束って事か。

いや、シルクスパイダーってどこにいるんだよ。少なくとも死霊の森ダンジョンにはいなかったぞ?普通の(普通の?)ジャイアントスパイダーだったよな。

「へえ、シルクスパイダーなんてオシャレな蜘蛛いるんだー。どこにいるのー?」

アネ、ナイス。

「ええとですね、ギルドで聞いてきた情報だとここ王都から西に行ったクワモ高原によく出るらしいです」

さすが、ゆうご君はいつも情報収集が早い。まさにゲーマーの鏡のような子だ。

「クワモって今もアンデッド出るのかな」

「出てもワンパンっしょ」

「そだねー」

「一応、颯太くんと山さんはDK、カオるんはブラックエルダーに変身しておいてください」

タウさんから指示された。うん、俺は弱WIZだからな。油断大敵だな。

クワモ高原の以前ブクマした地点までは馬車はボックスにしまって馬ごとエリアテレポートをした。

そこからシルクスパイダーを求めて馬車で移動する。

高原の真ん中を馬車で縦断していると、御者席にいたミレさんが馬車の中へ向かって声を掛けてきた。

「あの、キラリと輝く大きな蜘蛛、もしかしてシルクスパイダーじゃないか?」

馬を止めて全員外へと降りた。誰も鑑定などという便利なスキルは持っていない。

タウさんがギルドで見せてもらった蜘蛛の絵だけが頼りだ。

「ああ、恐らくそうでしょう。あの背中の青銀のテラ光り、シルクスパイダーだと思います」

「どうする? 全員でこのままツッコむか?」

「逃げ足が、確か速かったはずです。このままツッコむと逃げられるかも」

「蜘蛛倒してさー、どうやって糸取るの? ダンジョンじゃないからドロップしないよね? ドロップするの? 糸」

「ああ、そうですね」

「倒すのは悪手ですよ」

「アイツ、あそこで何をしてるんだ? 動かないみたいだけど寝てるのか?」

俺は、高原の広い場所でジッとしている蜘蛛が気になった。

普通サイズの地球の蜘蛛はよく木の枝に蜘蛛の巣を張って、餌が引っかかるのを待つ。

この世界のデカイ蜘蛛、見た感じ1m弱くらいありそうなアイツは、地面でジッとしている。

「ああ、あれ、今食事中みたいですね。……ゴブリンかな、食べられているの」

「確かシルクスパイダーの好物はゴブリンだったかも」

ゴブリンを食うのか。ゴブリンのような臭汚い魔物を食して、何故シルクの糸を出す。解せぬ。

と言うか、今後シルク製品は使いたくないな。シルクの元がゴブリンだと思うと……、あ、食べかけゴブリンの横にグルグル巻きのゴブリンもおる。

もしかしてオヤツか?後で食う用か?

お、いい事考えたぞ。

「なぁ、ゴブリンをその辺で沢山狩ってきてさ、そこら辺に罠を仕掛けないか? ゴブリン並べておくと後で食べる分は、ほら」

「ああ、糸で巻いて保存してますね。なるほど、あの糸を狙うのですね」

「そうそう、スパイダーを殺しちゃったら、また他のスパイダーを探さなくちゃならないけど、アイツ1匹で取れるだけ糸取ろうぜ」

「カオるん、ナイス!」

「珍しくカオるんが賢い!」

おい、こらw

「ではまずゴブリンを狩りましょうか」

「ゴブリンはどこだぁ?」

「ええと、森とか、背の高い草むらに割と良く湧きますね。この辺は丈の低い草なので、あ、ほらあそこら辺とかにいそう」

「えー面倒くさーい。誰か行って来てぇ」

「もう、アネはぁw 私行くよ」

「僕も行きますよ」

「俺も行くぞ、サモン出すからサモンに狩らせて俺らは死体を集めようぜ」

「カオるん、今日は冴えてますね。では、カオるんとカンさんとリンさんの3人で餌集めをお願いします。他はここで待機してシルクスパイダーを見張ってましょう」

俺はカンさんとリンさんと一緒に背の高い草むらの方へと移動した。

うむ、確かに俺がゴブリンをうっかり踏みそう(蹴りそう)な、いい具合の草原だ。(いや、マップをちゃんと見ていれば踏まないぞ?)

「サモンはライカンでいいかな?」

俺はライカンスロープを4体呼び出して、その辺へと散らした。

草むらの中から、ギイイイイとかギャーとか言う断末魔が直ぐに聞こえて来た。

俺たちは聞こえた草の中へと分け入り、倒れているゴブリンを回収して回った。

ライカン達はあっという間に10体ほどのゴブリンの死体を作り上げた。と言うか、ゴブリンって本当にどこにでも繁殖しているんだな。

その後タウさんの指示で、ゴブリンを2体ずつ5箇所に少し距離を置いて放置した。

俺たちは離れた所に馬車を出して、中で休憩をした。

「お、2箇所にもう蜘蛛掛かってるぞ。おお、もう1匹来た。あんな臭いのよく食うよなー」

馬車の幌の隙間から外を除いていたミレさんが感心している。タウさんも後ろから確認をしていた。

「予想どおり、一体は食べているけどもう一体は糸でぐる巻きですね。後ろからそっと近づいてぐる巻きの方を収納して来ましょう」

「お、来た来た。残り3箇所も釣れたぞ」

「んじゃ、俺、盗ってくるわ」

ミレさんが音もなく馬車から飛び降りて蜘蛛に近寄っていった。さすがダークエルフだ、まるで忍者のようだ。

場所を変えて同じように2回ほど繰り返した。結構な数の糸が採れた。

ゴブリンをぐる巻きにしていたシルクスパイダーの糸だが、もっとベタベタに粘ついているのかと思ったが、ゴブリンから剥がし始めるとサラっとしたまるで絹糸のような手触りだった。

『ひとかせ』がどれくらいか不明だったので適当に束にした。

クエストでは糸がひとかせとミスリル魔石がみっつだっけ。

クエストを受けたのは11人だから、糸が11束とミスリル魔石が33個あればいいのか。糸は山盛りある。

「刺繍の糸の束をひとかせとすると、これだけあれば500束はありそう」

リンさんが糸の束を見ながら言った。

そうなのか。俺は刺繍なんてした事がないし、糸を買った事ないからわからんが、主婦が言うのだから間違いないだろう。

次はミスリル魔石を33個か。ところでミスリル魔石って何だ?

ゲームでは普通の魔石しか出てこなかったよな?それとも俺がやめたあとに出て来たのか?

「ミスリル魔石はミスリルスパイダーから入手出来るそうです」

おう、ゆうご君は流石だな。

「ミスリルスパイダーなんているんだー?」

俺の疑問をアネさんが代弁してくれた。

「シルクスパイダーもミスリルスパイダーも、ゲームには出てこなかったよな?」

「だよねー? ジャイアントスパイダーとかグレートスパイダーだけだよね?」

やっぱりそうなんだ?

「この世界特有のモンスターですかね?」

「もしくは、他のゲームに出てきたやつかも知れないですね」

「そんでそのミスリルスパイダーもこの辺にいるの?」

「ええと、ミスリルスパイダーは鉱山に出るそうです」

「鉱山? どの辺にあるんだ?」

「ここから馬車で少し南西に行くとあるそうです」

さっそく俺たちは馬車で鉱山へと移動した。

鉱山の入り口前で馬車を止めて皆は降りて洞窟の中に入る。

念のため馬車に山さんと颯太くんと俺が残された。カンさんも護衛で残ってくれている。

鉱山の洞窟には、タウさん、ミレさん、パラさん、ゆうご君、アネさん、リンさん、リドル君の7人が入っていった。

入ってすぐにリンさんが出てきた。

「どうしたんだ? 何かあったのか?」

慌てて俺が尋ねるとリンさんは苦笑いしながら手を顔の前で横に振った。

「違う違う。大丈夫、忘れ物を取りに……というか、カオるん魔石持ってるでしょ?」

「ああ。もちろん」

持ってるさ。魔石はWIZの命だからな。

「悪いけど100個くらい貸してもらえる?」

「おう、いいぞ」

俺はアイテムボックスから魔石を100個出した。さほど大きくないとは言え魔石100個を手渡すのは出来ないので地面に置いた。

リンさんはそれを拾い自分のアイテムボックスに入れて、また洞窟の中へと戻っていった。

30分経つがまだ誰も出てこない。

まぁ俺よりずっと強いやつらだし、何かあれば帰還スクもあるだろう。心配はいらないと思いつつも、落ち着かない。

「大丈夫ですよ、カオるん。時間がかかっているのはきっと罠を仕掛けて待っているからだと思います」

洞窟の入口前でウロウロしていた俺にカンさんが声をかけた。初めての場所、初めてのモンスターはやはり怖い。何が起こるかわからないからだ。

ゲームの攻略本のようにレベルや特性が予め解るわけではない。

山さんと颯太君も寄って来て心配そうに覗き込んでいると、中からパラさん達が出てきた。

「いやぁ、時間が掛かりそうだから罠だけ仕掛けてきたわ」

「シルクスパイダーのように直ぐ餌に群がればいいのにぃ!」

アネさんもプリプリ怒りながら、俺らの前を通り過ぎて馬車へと向かった。

タウさんらも、全員、洞窟から出てきた。

「時間がかかるって? ミスリルスパイダーはいなかったのか?」

「いや、いましたよ。巣がありましたし」

「たぶん、ミスリル魔石って蜘蛛の尻に付いてた小さい石だと思う」

「ええ。1センチくらいでしょうかね。ただ、ミスリルスパイダーは洞窟内でただの鉱石をミスリルに変えるらしく、ギルドから殺さないように言われているんです」

え?殺しちゃダメって、どうやってミスリル魔石を採ればいいんだ?

「ギルドで魔石を食うから餌で誘き寄せると聞いていたので魔石を10個持ってきたけど、アレ食べ過ぎですよ」

ゆうご君はギルドでミスリル魔石の取り方を聞いてきたらしい。

「ミスリルスパイダーは20〜30センチで意外と小さい魔物なのに、魔石10個をボリボリと一気に貪り喰われました」

「ええ、胴体部分は5センチ程なのにどうなってるのか。それでカオるんから魔石を100個貸して貰ったけど、あれでは足りなそうですね」

「カオるん、魔石の在庫が大丈夫そうならもっと貰える?」

「お、おう。いいぞ。とりあえず千個くらいでいいか?」

「ええ、お願いします」

俺が出した魔石を持ってタウさんとゆうご君はまた洞窟に入っていった。

出てきたタウさんの手には1センチ弱の小さな薄赤い石がいくつか握られていた。

「さっきの100個はもう食べ終わっていましたよ。で、これが代わりに落ちていました。一度アイテムボックスに収納して名称を調べました。これがミスリル魔石です」

「どうやら魔石を食べるとミスリル魔石を排出するみたいだった。お尻から放り(ひねり)出すようにミスリル魔石が出てきたら、先に着いてたのがポロんと落ちたから」

え、それってウンコじゃないのか?

ミスリルスパイダーって魔石を食ってウンコ(ミスリル魔石)を出してるのでは。てことは、普段ウンコを付けたまま?

「ウン…」

「ウンコじゃないですよ。ミスリル魔石です」

タウさんが俺に被せるように言い切った。実はタウさん自身もちょっと思ってたんじゃないか?

俺らは暫く馬車で食事やお茶で時間を潰した。

「さて、じゃあ行きますか」

タウさんのひと言で俺たちは全員洞窟の中へと入った。

女神像のクエストなので、山さんと颯太くんも自分の手で拾った方が良いだろうと(俺もだが)、全員でミスリル魔石を拾いに行った。

洞窟の少し奥、魔石の罠(ばら撒いただけ)まで行くとミスリルスパイダーは見当たらなかった。食べ終わってさっさと退散したようだ。

だが、そこら辺の地面には薄赤いミスリル魔石が一面に転がっていたので、皆で拾いまくった。

ミスリル魔石は124個あった。必要なのは33個なので足りるな。

しかし魔石を1110個でミスリル魔石が124個か。魔石の摂れる狩場が混み合いそうだな。

俺らは神殿へとテレポートをした。テレポート前にタウさんがギルドへ知らせたようで、神殿の女神の間には、ギルド関係者と神殿関係者がいた。

女神像の間は一時的な封鎖をしたようだ。

「まずは、女神クエスト解放をさせた颯太君から、女神へ材料を差し出してみてください」

「は、は、はい。わかりまし、た」

緊張でプルプルとしながら糸と石持った颯太君が女神像(の鞄部分)に触れると、パアンっと一瞬光った。

颯太君の手には糸と石の代わりに、財布サイズの小さな鞄が乗っていた。

「ふわぁぁぁ…、あ、これ! これ、貰えました!」

「おおおおう」「何と」

神殿関係者から感嘆の声が漏れていた。

「では、皆さんも速やかに交換してください」

タウさんの指示で俺たちは一列に並び、どんどんとクエストの報酬と交換していった。

ギルド職員は颯太君と山さんに群がり、鞄の性能を確認していた。タウさんも同じように確認をしたようだった。

「入るのは10種類、各10個までですね」

「うわぁ、凄い凄い! こんな小さいのに全部で100個入るのか」

ゆうご君が女神像に触れて何か確認していた。

「クエストはどうやら一回のみですね」

「お、本当だ。『成人の祝いはすでに差し上げています』って言われたぞ」

「なるほど。15歳以上で一回のみ、100個入る収納鞄を貰えるクエストの女神ですね」

タウさんが俺たちの方へやってきた。

「残った材料ですがどうしましょうか。俺たちで分けますか?」

「貰ってもなぁ。どうせ一回しか受けられないなら要らないアイテムだよなぁ」

「とりあえずミスリル魔石は全部カオさんでいいんじゃないかな?元々魔石のほとんどを出してるから」

「そうだねぇ。ミスリル魔石はカオるんで、糸もカオるんでいっか」

いや、おい、俺はゴミ箱じゃないぞ。くれるなら貰っておくが。

「じゃあ、残りは全部カオるんでいいですね?」

そんな話をしていたら慌てたようにギルドと神殿の関係者が割り込んできた。

「あの! すみません、出来ればこちらに少し融通していただけないでしょうか?もちろん対価はお支払いいたします」

「ああ、そうですね。自分で入手してない材料でもクエストクリア出来るかどうかの確認も必要ですね。クエストを今受けてもらって確認しましょう」

タウさんがそう言うとギルド職員と神殿職員は満面の笑みになった。

が、それぞれ代表がひとりだけと言われてガックリと項垂れる職員が多数いた。

俺はタウさんから渡された材料から2セット分を取り出して渡した。

渡したのはギルドのサブマスターと神殿長だ。(ギルドマスターは所用で来ていなかった)

あれ、この人見た事あるぞ。

この世紀末伝説っぽい見た目、あれだ!アンデッドの氾濫で隣の国に行く時に会ったギルドのサブマスター、あの、名前が難しかった人だ!

「ダウトさん!」

「ダミドだ」

あ…すみません。

「カオるん、王都冒険者ギルドのサブマスターのメルシュバダミッドールさんですよ。偉い人ですから名前を間違えないでください」

「すみません……」

タウさんに怒られてしまった。

ションボリしながらダ、ダメダ……さん?と神殿長が収納鞄を入手しているのを見ていた。

ふたりが貰った鞄を嬉々として弄っているのを横目に俺は女神像の鞄をツンツンと触った。

『鞄の容量を増やしますか?』

「ふわあああああいぃぃぃえ?」

変な叫びを上げてしまい、皆の注目を集めてしまった。

「何だよ、カオるん」

「どうしました?カオるん?」

「あ、いやさ、女神像が鞄のバージョンアップするかって聞いてきたから驚いた」

「はぁ?」

「え?」

「ウソ、ナニソレ」

皆が口々に何かを言いながら女神像に群がり触りまくっている。特に鞄の部分のスペースの取り合いだ。

「何も出ませんが?」

「何も起こらないよ?」

「カオるーん、もう!」

「え、いや…さっき」

俺はもごもごと口籠もりながら女神像の鞄にもう一度触れた。

『鞄の容量を増やしますか?』

「いや、出るって! マジ」

「あ、もしかして材料かも」

ゆうご君が思いついたように言うとタウさんがすかさず俺に手を差し出してきた。

「カオるん、さっきの材料を少しください」

「お、おう」

俺はアイテムボックスからミスリル魔石を10個と糸を10束渡した。

すると、タウさんが持っていた鞄が三回光った。

「収納鞄が三段階バージョンアップしました。カオるん、もっと材料をいただけますか? ミスリル魔石が無くなりました」

俺は残ってたミスリル魔石と、糸を100束ほどをタウさんへ渡した。タウさんの収納鞄は一度光り、その後光る事はなかった。

「収納鞄は五段階までバージョンアップ出来ました。50種類が各10個なので、500個入るようです」

「おおおう!」「それは!」

喜んだのはやはりギルドと神殿関係者だ。

俺たちのアイテムボックスは無尽蔵に入るから、「ほぉ」くらいの感想だった。

とは言えやはりゲーマーとしては貰った鞄をMAXにしたい気持ちはある。

全員分の材料を確保する為に、まずは死霊の森ダンジョンの地下へ、魔石取りに出かける月サバの面々であった。

王都の神殿、6番目の女神像

『成人を祝う女神』

シルクスパイダーの糸をひとかせ、ミスリルスパイダーの魔石3個

成人(15歳)以上なら誰でも可能、ただし一回のみ。

報酬は収納鞄 10種類X10個

バージョンアップを4回行える MAX容量50X10

ギルドでは「収納鞄クエストの材料セット」の売り出しや、「材料集めツアー」なども行うようになったそうだ。

ただひとつの注意点、収納鞄は入れる時は誰でも可能だが、出せるのはクエストを受けた本人のみ、つまり鞄自体の転売は不可能だった。

そう、転売をしても物が取り出せなくなるのだ。窃盗防止の女神さまの愛だなぁとカオは思うのだった。

余談だが、暫く経った頃。

「俺、凄い発見をしちゃったぜ!ふふふ」

王都女神像の鞄クエスト、本人しか使えない(出せない)と言われているが、それは間違いだ!

鞄に名前を書けば、その名前の本人が使えるようになるのだ。

俺は自分が貰った収納鞄(の底)に『マルク』と油性ペンで書いた。

財布のような小さいサイズだが紐を取り付けてマルクに斜めがけさせると、ピッタリなサイズだぁ!

マルクも喜んでるし、俺にはアイテムボックスがあるからな。

それに弁当とオヤツ(バナナ)を入れてピクニックに行ったら、何とマルクがそこからバナナを自分で取り出して食べていたのだ。

で、その話を自慢げにタウさんに話したら大騒ぎになったのだ。

「そんな重要な事はもっと早く言ってください!」

何か怒られた。

盗難防止と思っていた収納鞄が、名前を書く事で持ち主が変更出来ると、大問題らしい。

即、ギルド案件になり、クエスト終了後に鞄に名前を(魔法で)刻んでもらうのが当たり前となった。

俺は慌てて、鞄の内側にも『マルクと俺以外使用禁止、泥棒禁止』と記入した。

よしよし、俺は使えるようにしないとな。弁当を出し入れしないとならないからな。うんうん。