軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

202話 番外編ーファルビニアの戦い④

ファルビニアに入った俺たちは、全員バフォメットに変身をして進んでいく。

馬車には、御者兼兵士、俺、カンさんの3人、残りは馬車を囲むように走っている。

タウさんが近くの建物に向かって叫んだ。

「隠れている方がいましたら、出てきてください。僕らはラッシルガルからの救援です。聞こえますか? 聞こえたら顔を出してください。動けないようなら音を立ててください!」

馬車を止めて物音に聞き耳を立てる。

シーン…………

何の音もしない。

「ミレさん、祝福のイヤリングをしていますよね? あの建物に祝福を放って見てもらえますか?」

タウさんに言われてミレさんが建物に近づいた。

「どうやって使うんだ? わからんがとりあえず、祝福!」

ミレさんが建物へ向けて突き出した右手から、光が一直線に飛び出し壁に当たった瞬間に薄く広がるように建物を覆った。

グギャアアア

あ、いたんだ。アンデッド。

「ミレさん、あちらの家にもお願いします。連続使用が可能か、まだ敵が少ないうちに試しましょう」

「オケー」

ミレさんが奥の家に近づき祝福を放つ。

同じように付近の家々に5回続け、6回目には光が出なかった。

「出ないぞ?」

「ふむ。連続使用は5回。あとは使い捨てなのか、補充が可能なのか、ですね」

「補充って、どうするんだ?」

「暫く、嵌めたままにしておいてください。とりあえずこの情報は他のチームにも送っておきます」

「やっかいだな、隠れて出てこないと一軒一軒あたらないとならないぞ」

「えー、この国の家、全部訪ねるのー? 面倒くさーい」

「ふむ……。バフォメットに変身してもらいましたが、一旦解いてもらえますか。月サバ以外の方はスクロールが勿体無いのでそのままで、カオるんと一緒に馬車に待機でお願いします」

「お、おう」

「わかった」

見た目がバフォで誰が誰かわからなかったが、今返事をしたのはおそらくダルガかラッシルガルの人だろう。

馬車へと上がってきた。

「変身を解いて奴らが寄ってくるか試します。変身を解いたら装備を確認してください。バフォは頭、手、足が外れますから。それからカンさん馬車の操作は出来ましたよね。変身を解いて御者を代わってください。ヘリオさんは馬車の中に」

ヘリオさんはダルガの港を出発した時から御者をしてくれていた兵士だ。

タウさんの指示通りに皆が動く。

馬車の中はバフォが7人。俺、ヘリオさん、他ダルガの騎士2名、冒険者1名、ラッシルガルの兵士2名だ。

御者席に変身を解いたカンさんが座った。カンさんは馬車の操作が出来るのか。凄いな。

「馬車は前後の幌も下ろして中が見えないようにしてください。月サバの皆さん、準備はいいですか?」

「おう」

「おけ」

パラさんやミレさん達に囲まれて馬車はゆっくりと進んで行く。

幌の隙間から覗いていると、枯れた畑が続いた先にまた一軒家が見えてきた。

そう思った直後、家から何かが飛び出してきた。

ヴウウウウゥゥ

グールだ。

なるほど、人間の姿だと餌認定なのか。

「やるー」

アネが一言放ち走って行って切り捨てた。

「閑散としている場所は変身無しの方が良いですね。大量に出る場所まではこのままで行きましょう」

そうして俺らは家が密集している方へと進んで行った。もちろん、アンデッドを倒しながら。

いくつかの街らしき場所や、途中の街道にある家や建物のアンデッドを一蹴しながらとどんどん進んで行った。

「一旦ダルガへ集合の時間です。カオるんエリアテレポートで最初の港街までお願いします。その前に」

タウさんはそう言ってミレさんの方を向いた。

「ミレさん、もう一度祝福のイヤリングを使ってみてください。まずは無詠唱で、声に出さず心の中で」

「おう」

ミレさんは短く返事をすると、遠くを見ながら立っている。

「だめだな。何も起こらん」

「じゃあ私が」

リンさんがミレさんの横に立った。

5秒ほど立ったあと、静かに手を突き出した。

「ダメね。無詠唱では使えないのかな。最初はただ心の中での詠唱、次は手を付けてみたけど、どっちもダメだった」

「そうですか、ありがとうございます。ミレさん、今度は詠唱でお願いします。イヤリングに魔力だかが補充されているか調べましょう。射てるだけ射ってみてください」

「おう」

「祝福! 祝福! 祝福! 祝福! 祝福! 祝福……、5発だ」

「充填式でしたか。使い捨てでなくて良かったです。しかも自然回復ですね。時間の検証まではちょっと無理ですがこれだけ解れば良しとしましょう。皆さんお疲れ様でした。戻りましょう。カオるん、お願いします」

ブックマークをしてからダルガへと帰還した。

「うおっ、何だここは」

「港だぞ、ダルガに戻ったのか!」

馬車から降りたバフォ達が驚いていた。

いや俺も、違う意味で驚いたよ。馬車から降りたらそこら中バフォだらけだった。

メサやカルーココへ向かった一団のバフォか。まるでバフォ村のようだ。

どうやら彼らは変身スクロールの時間が切れるまで人に戻れないようだった。

俺たち稀人はステータス画面が見えるので変身解除が出来たのだ。

タウさんはそこに立てられたテントに入って行った。

今回の討伐に参加している5カ国の指揮官やら騎士やらが集まり、情報を纏めるようだ。

俺達はそこらで食事を摂るように言われた。

深夜に近いのにも関わらず港の前は明るく火が焚かれていくつもの屋台が出ていた。

今回の討伐のために屋台を開けてくれたのかと聞いたら、微妙な返事が返ってきた。

「いや、いつもこんなもんさね」

「だな。まぁ今はアンデッドが北の国から来るっつんで夜は9時に閉めろって言われたさ。迷惑なこった」

「そだそだ、俺たちはそっからが稼ぎどきなんにさ」

「アンタらが来るから暫くは開けていいさ言われて、助かったよ」

「あ、金はいらんぞ、アンタらの分はすでに貰ってるさ」

俺のような下っ端には5カ国間の決めがどういうものかは知らんが、屋台で無料で食べられるのは嬉しい。

しかも、新鮮な魚貝だぞ!ありがとう、偉い人達。

「うめぇぇぇ、あ、カンさん、この貝の焼いたやつ、美味いぞ。大振りなのに深い味だ」

「そうですか。僕も一つ貰おうかな。カオるん、あちらの屋台にあった魚介を煮込んだスープも絶品でしたよ」

「カオるん、カニ食ったか? デカイカニあったぞ」

「え? カニもあるんだ?」

「ねぇねぇ、誰か醤油持ってない? 魚にはやっぱ醤油でしょ。カオるんなら持ってるよね?」

持ってるけど、セボンにあったんだから買っておきなさい。俺はアネさんに醤油を渡した。

ハッ!この貝にかけたら絶対美味いヤツだ!!!アネよありがとう。

俺はさっきの焼き貝の屋台へと行き醤油をかけて焼いて貰った。

辺りには暴力的ないい匂いが漂い、ふらふらとバフォ達が寄って来た。慌てて焼き上がったのを貰いカンさん達の所に戻った。

「カオるん、天才だよ」

「いやいや、アネさんこそ」

俺たちが魚介三昧を楽しんでいるとタウさんが戻ってきた。

さっき屋台で買ってアイテムボックスに入れておいた物をタウさんの前に出した。

「ありがとうございます。美味しそうですね」

「おう、美味かったぞー」

「あ、誰かカニ追加で貰ってきてー、カオるんマヨあるよね?」

「タウさん、他はどんな感じだって?」

俺が聞こうと思っていた事をパラさんが先に聞いた。(アネさんにマヨネーズを渡した)

「ええ、進み具合はどこも似たり寄ったりですね。全チームがファルビニア入りまでは進んだようです」

「皆一旦ここまで戻ったのか?」

「そうです。どのチームにもWIZを入れてありますから。それと、こちら側に落ちた稀人にもWIZはいました」

「 LAF(ラインエイジファンタジー) の稀人か?」

「ええ、そうです。別鯖でしたね。同サバは僕らと同じエルアルシア国に落ちただけなのでしょうか、こちらでは同鯖はまだ見つかっていません」

『別鯖』『同鯖』というのはゲームのサーバーの事だ。

俺が始めた頃のLAFは登録者数がかなり多くてサーバーが20くらいあったはずだ。

選んだサーバーでゲームを遊ぶので、友人と一緒に始める者は同じサーバーを選ぶ。

その『サーバー』の事を『鯖』と呼び、別サーバーを『別鯖』と呼んでいる者を多く見かけたものだ。

「カオるんがいた頃は20くらいありましたっけ? その後はユーザーが激減して鯖合併を繰り返して、今は4鯖のみになりました」

「え……、4つか。ずいぶん減ったな」

「終わる終わると言われ続けて4つまで縮小した」

「だねぇ。タウさん、こっちは何鯖だったの?」

「ビーナスのプレイヤーに会いましたよ」

「ビナス鯖かー。マーキュリーは?」

「今のところ見かけてませんね。……もしかすると、ファルビニアにいたのか、それとも別の国か」

ああ、ファルビニアは王族によって奴隷のような管理をされていたんだっけ?

多分、もう。

「明日は出発が早いです。宿は用意してくれているそうです。ほら、あそこの建物。アネさんとリンさんは同室でこれが鍵です。パラさん、ミレさん、ゆうご君が同室、カンさん、カオるん、僕が同室です」

「あ、じゃあ俺もう部屋に戻ってスクに魔法詰めようかな」

「僕も戻ります」

カンさんが俺に付いて戻ろうとするとタウさんも立ち上がった。

「ご馳走様でした。僕も戻ります。皆さんも早々に引き上げてくださいね。おやすみなさい」

「おやすみー」「おやすみ」

3人で部屋に入り、適当にベッドに腰掛けた。

アイテムボックスからブランクスクロールを出して魔法を込め始める。

「僕はちょっとゴルダさんに状況報告してきます」

「やまと屋のリドル君から連絡があったので案山子とスクロールを貰ってきます」

カンさんの言葉に一瞬自分も戻ろうかと思ったが、時間が時間だしマルクはもう寝ているだろう。

騒がしくして逆に起こしてはいけない、今夜は会いにいくのはやめよう。

ふたりがテレポートでいなくなった間もスクロールに魔法を詰め続けた。

朝になり、屋台で朝食を摂った後に集まって、昨日ブクマした場所へとテレポートをした。

朝食を食べた事を後悔するくらい臭かった。

今日は全員、未変身のまま進んでいく。

街中に入ると、ある程度四方に散って誘い出し、倒す。一応ペアで動く。街中にアンデッドがいなくなると案山子を立てて馬車で移動する。

馬車の中でタウさんは地図に印を付けていた。横から覗き込むと、結構進んでいるようだった。

俺に気がついたタウさんが皆にも聞こえるように説明する。

「現在はファルビニアを南北で区切ると中間より少し下のあたりですね。他のチームも同じように進んでいます。僕らの国、エルアルシアは東から北一帯が栄えていて、国の最北東が中心と言っていい。ですが、このファルビニアは北端はそれほど栄えておらず、街も少ないそうです。どちらかと言うとこれから進む先、つまり国のど真ん中が都として栄え、民も多かったそうです」

「つまり…」

「ええ、つまり、アンデッドはかなりの数がいると思われます。ただ、ファルビニアの中央のアンデッドを倒しても、北東の山脈、そこにあると言われている闇の神殿から止めどなく溢れてくるでしょう」

「って事は、神殿を先に叩くって事?」

「ええ、そうすべきでしょうが、神殿に近づけるかどうか、それが今回の討伐の要になります」

そこでタウさんは地図を指差しつつ続けた。

「ここからここのラインまで、各街のアンデッドを殲滅、証の案山子を立てます。ちょうどファルビニア王都をぐるりと囲む形で待機、今回の討伐チームで一斉にアンデッドを攻撃しながら中心へと進む。しかし、山から雪崩れ降りてくるアンデッドも対応しないとならない。僕らは、この地点で馬車を降りて月サバのみで神殿を攻めます」

馬車の中では誰も声を発しない、どころか息も止まっているようだ。

その中でタウさんの声だけが響く。タウさんの声も震えているように聞こえる。

人の上に立つ者は、下の者達の命を預かる事になる。ゲームでは失敗しても実際の身体は誰も死なない。死んでもプレイキャラは神殿で生き返る。

でもここは死んだら終わりだ。

タウさんだって本当はそんな重たい責任は背負いたくないはずだ。

でも、今、誰かがやらなくては。

「この世界って死んでも神殿で生き返らないよね?」

アネさん達も同じ事を考えている。

「神殿で生き返ったら、それはアンデッドの仲間入りだな」

ミレさん。皆わかっている。でも誰も帰ると言わない。

ファルビニアの王都を囲むチームらも大変だ。全員がバフォメット変身で王都を囲んだ場合、アンデッドは怯んで襲ってこないかもしれない。

しかし、ただ囲むだけじゃダメだ。倒さないと。

バフォで威嚇しつつスクロールでファイア連発で殲滅をしていく作戦だそうだが、俺たちが失敗すると背後からアンデッドの群れに襲われ、逆に囲まれる事になる。

かと言って、これ以上こっちに人数は割けない。あちらも王都の広さに比べると少ないくらいの人数だ。

どうする……、いや、どうしようもないか。この人数で、出来るだけの事をするしかない。

「最悪、どうにも出来ない場合は帰還をします。命まではかけません。そこを間違えないように。アジト帰還でも街帰還でもいい。絶対帰還してください。何度も言いますが。これはゲームではない。お願いではなく血盟主としての命令です」

「そうだな。アンデッドからこの国、それからメサ、カルーココ、ラッシルガル、ダルガを守れなかったら今度は『倒す』から『避難救助』へ変更すればいい」

うん、パラさんの言う通りだ。

「慣れ親しんだ街を国を離れたくない、財産を失いたくないという人は好きにすればいい。誰かが犠牲になるのを待って残った人が助かるより、犠牲になる前に全員で助かれよ、と思う」

「驚いた、カオるんでもそんな風に思うんだ」

「カオるんは1人残らず助けたいとか言うかと思いました」

「良かった。カオるんがそんな人で」

え?え、え?どっち?褒めてる?貶してる?あと、俺、全人類を救いたい派じゃないからな。

俺たちはタウさんの指示でファルビニアの国を中央へ向かって進んで行った。

アンデッドの数もだいぶ増えてきている。

「この先は王都へ繋がる道です。皆さん、バフォメットに変身をお願いします。僕らはここで別行動になります。月サバの皆さんは降りてから変身をしてください。誰かが幌を突き破ったりしますから」

「だぁれぇ?」

君だ。アネさん。

タウさんに言われて俺達は馬車を降りた。

あ、そうだ、聞きたい事があったんだ。今更と怒られるだろうか。

「あの、タウさん。変身の事なんだけど」

「何ですか?」

「ええと今更なんだけど、バフォじゃないとマズイ?」

俺のひと言に皆が凍りついたかのように止まった。ミレさんは、馬車から半分降りかけて止まっていた。

「変身待ってください!」

タウさんが馬車の中に向かって叫んだ。

「そうだ、そうですね、カオるん」

「カオるん、よく気がつきましたね。僕は思いつきもしませんでした」

「え、なぁに? カオるんがどうしたの?」

アネさん以外は俺の言いたい事を即理解したようだった。

「試します。すみません、冒険者や兵士の皆さん、ちょっと変身を待ってください」

「俺が試してくる」

パラさんは言うが早く、 DK(デスナイト) に変身をして、王都の方へ走って行った。

そう。今までずっとバフォメットに変身していた。アンデッドがバフォ変身に恐れをなして逃げたからだ。

けれどバフォメットでなくても良いのではないか?

ゾンビやグールより上位のアンデッドなら同じように恐れるかも知れない。

そもそも最初に俺がバフォ変身をしたのは、ゲーム特性でバフォメットになると足が速かったからだ。

ゲームでも『逃げる』重視の変身だった。

しかしデメリットがある。頭、手、足の装備が付けられない、つまり防御力がかなり落ちるのだ。

もしも、他のアンデッド変身でも同じようにゾンビらが逃げるようなら、バフォに拘らなくて良いんじゃないか?

今、パラさんはそれを確かめに走った。 DK(デスナイト) 変身で。

パラさんが戻って来た。

「おう、これも効果ありだ」

「「「「おおおお」」」」

「僕とした事が迂闊でした。こんな基本を忘れているなんて」

「いや、俺らもすっかり思い込んでいたからな」

「そうですね、思い込みって怖いですね」

「カオるん、まるでカオるんじゃないみたいだよ」

ほ……めてない。

「どうしますか、アンデッド系の変身は色々ありますが」

「DKが一番使い勝手がいい。装備は外れない。バフォ程ではないが、足も速い。何より攻撃速度が速い。前衛向きだ」

「ナイトはDK一択だねー」

「ふむ。全員DKにしましょう。もし新手のアンデッドが出現した場合、バラバラの変身だと判りづらくなります。兵士の皆さんも変身スクロールを使用したときに『デスナイト』を選んでください」

「これならアネさんも幌を破かないしなw」

「失礼ねー」

皆がDKへと変身をしていく。

俺も変身をしようとしたらタウさんから待ったがかかった。

「カオるんだけは、ブラックエルダーになってください。カオるんはDKになってもメリットがありません。それにひとりだけブラックエルダーだと判りやすくて守り易い」

「確かにそうだな」

「わかった」

俺はブラックエルダーに変身をした。ブラックエルダーはウィズにメリットのある変身だ。

装備が外れない事はもちろんだが、確か、MPが100くらい増えたはずだ。

この世界でステータスに数字系は表示されないので確認は出来ないのだが、多分そうだった。それとMPの自然回復速度も上がったはずだ。

そして一番の得は、INTがアップしたはず。これもステータスでの確認は出来ないが、検証は出来る。

というのは、召喚魔法で呼べるモンスターの数はINTによって変わり、俺の場合は3匹だ。レベルアップでも俺はINTよりWISに振っていた。

WISはMPの量や魔法の強さに関係してくる。

サモンを5匹連れたINTウィズもいたが、俺はMP重視のWISウィズだったのだ。

「サモン、カスパー!」

俺は召喚魔法を使ってみた。

カスパーが4体出た。

今までは3体が限度だったから、1体増えた、ブラックエルダーの特典は確実に貰えていた。

タウさんは変身の件を他のチームにも知らせていた。

ファルビニアの王都をバフォメットの団体が囲む予定が、DKの団体が取り囲む事になったようだ。

何か……少しだけだがガッカリした。バフォダンス、無いのか。