作品タイトル不明
26. 魔法帝、荒稼ぎする
「ろいど、そのてがみは?」
「ん? ……ああ、これは招待状だ」
お前には関係のない話だと告げられて、レティシアは机の上に無造作に置かれていた『招待状』を、身を乗り出して覗き込んだ。
三日後に王宮で舞踏会が開かれるらしい。
「さすがにまだ連れていけないからな。大きくなるまで、もう少しの我慢だ」
王国中の高位貴族達がこぞって集まる舞踏会。
出席は必須のため、ロイドは一人参加をするらしい。
舞踏会、ねぇ。
レティシアは招待状をしばらく眺めた。
ダンスはそう得意ではないが、最低限踊ることくらいはできる。
ロイドは本当に一人でいくのだろうか。壁越しの懺悔が蘇る。
……ロイドの想い人も、ここに来るのだろうか。
気になって仕方なく、レティシアはそわそわと落ち着きを失くしていく。
「あり、ありえった」
そこで困った時のアリエッタ。
退室するなり招待状の内容をこっそりアリエッタに告げ、どうにかして参加できないか聞いてみた。
「これ、こっそりさんかしたい」
「こっそりですか? セシリオ辺境伯家としてではなく?」
「こどもはさんかできない。でもおとなになれば、できる」
魔力量が増えてきたため、大人と子どもの行き来を、意図的に調整できるようになってきた。
アリエッタと一緒に、たまに練習もしている。
たぶん、大丈夫なはず。
「……理由を、伺っても?」
「きになることがある」
舞踏会に、ロイドが一人で参加する。
レティシアには、ロイドに内緒で確認したいことがあった。
アリエッタはしばらくレティシアの顔を見つめ、それから小さく頷いた。
「私の実家にお願いすれば、参加できるかもしれません。でもあいにく貧乏男爵家なので、自信はないです。ドレスは私のものだと少し小さいので、買ったほうが良さそうですね」
「うん、おねがい。おかねはじゅんびする」
かくして、レティシアは資金調達に乗り出した。
アテはある。売る物はまだない。
つまりこれから金になる物を作るのだ。
この国が、喉から手が出るほど欲しいもの。
それを売って、国王から金を踏んだくればいいのだ。
《ぎにゃあああああああ》
(うるさい、大人しくしろ。お前の魔力が魔石となり、そして主たる私の糧となるのだ)
《もうほんと、お前は聖獣をもっと敬ったほうがいい!》
(黙れ、さっさと魔力を出せ)
《ぎにゃああああッ》
魔法陣の起動用に準備した魔石は、すべてなくなったと聞いている。
魔石が市場に出回ることは滅多になく、かといって魔獣の死体から見つかることは稀なため、さぞかし頭を抱えていることだろう。
つまり今手持ちで売れる、最も高い素材は『魔石』である!
慰謝料代わりに、せいぜい高価買取りしてもらおうか。
悪女じみた笑みを浮かべながら、レティシアが小瓶に手をかざすと、コトン、コトンと音を立てて小さな魔石が落ちてくる。
(あまり大きすぎると、流通経路を調べられてしまうからな。適度に、だ)
小指の爪ほどの小さな魔石を、二、三個。
これなら誰にも疑われない。
翌朝、レティシアはアリエッタに魔石を手渡した。
「ほうせきしょうに、うりにいこう」
「これ、本当に売れるんですか……?」
「うん。おおきいとこ。これをどれすのおかねにする」
どうみても宝石には見えない石が?
アリエッタは首を傾げながら、それでも「分かりました」と受け取った。
赴いたのは、王都で一番大きい宝石商。
初見であれば入店を断られてしまいそうな、立派な門構えの店だった。
「あの、石を売りたいんですが……」
カウンターに座っていた店番の男が、ギロリとアリエッタを睨みつける。
ひぇ、と小さく声を漏らすが、レティシアに「だいじょうぶ」と励まされ、アリエッタはやっとの思いで手に持っていた布袋をカウンターに置いた。
「なんだ、嬢ちゃん。宝石か? 最近は質の悪い宝石が出回ってるから、モノによっては買い取り拒否させてもらうからな?」
「あ、ハイ……」
ちらりと一瞥し、店番の男が舌打ち混じりで威嚇する。
それなりの貴族なら丁寧に対応するところだが、小さな宝石を直接持ち込むような、弱小貴族の、それも子どもを連れた若い娘である。
断る前提だろう、男は気だるげに布袋へ手を伸ばした。
「……ん?」
触れた瞬間、目の色が変わる。
魔石を扱ったことがない、モノを知らぬ奴だと困るな。
そんなレティシアの懸念を払拭するように、男は布袋に触れた瞬間、姿勢を正した。
「嬢ちゃん、この袋は実家にあったものか?」
「ええっ、袋!? そうですが……?」
触れただけで、気付いた。
この男、相当出来る。
店選びは正解だった。後でアリエッタをたくさん褒めてやらなければ。
レティシアは様子の変わった男を前に、してやったりとほくそ笑む。
魔力測定器を包む、『防護布』。
魔法国では、魔法師団のローブでふんだんに使われている素材だが、一着作るのにも膨大な魔力を織り込まねばならず、他国では魔石同様、製造する術はない。
たまに出回るものを高額で買い取りする……と言った具合に、その稀少性から大変重宝される布だった。
指先で触れただけで気付くとは。なかなかのものだ。
とすれば中に入っている物が何なのか、予想がつくはず。
「専門の者を呼んできますので、少々お待ちください」
「まて、だめだ」
顔色を失くした男が布袋を手にしたまま席を立ち、奥に下がろうとしたところでレティシアが声を掛けた。
「おいてって。なかみをいれかえるやつ、いる」
こちらが女、子どもなのをよいことに、見えないところで中身を抜き取ったり、すり替える者がいる。
目の前の男がそうだとは限らないが、そんな報告を魔法国で受けたことがある。
少しでも可能性があるなら、お互い注意するに越したことはない。
レティシアの静止に男が固まり、……それから古い呼び鈴を棚から取り、勢いよく鳴らした。
「……失礼しました。改めて、査定いたします」
奥から店主らしき初老の男が現れる。
真っ直ぐに自分を見上げた幼女を目に留め、慇懃に礼をした。