作品タイトル不明
21. なぜか妙齢の美女がいる。それも、――裸の美女が。
「……ぐ……、……ッ」
思考が追いつくより早く、耐えがたいほどの激痛がレティシアを襲う。
砕けるほどの骨の痛みが体中に走った直後、ぐぐぐ、と四肢が伸びていく。
幼女用の夜着が内側から圧迫され、ついにビリリと縫い目が破けた。
まずい。
ロイドの腕から逃れようともがくが、がっちりとホールドされていて動けない。
まずい、まずい、まずい!
せめて腕から抜け出せれば……もがいた拍子にロイドの胸板を押してしまい、異変に気付いたロイドが瞼を持ち上げる。
「……?」
至近距離で、目が合った。
波打つ黄金の髪に、紫の瞳。
月明かりに照らされたレティシアの肢体が、淡く光をまとい浮かびあがる。
息を呑むほどの美貌をすぐ目の前にして、ロイドはその目を見開いた。
腕の中にいたはずの幼女の代わりに、なぜか妙齢の美女がいる。
それも、――裸の美女が。
二人とも、無言で固まった。
見つめ続けること、一秒。二秒、三秒――!?
理解が追い付かないのだろう。ロイドの腕がわずかに緩む。
その一瞬の隙をつき、レティシアはベッドから転がり落ちるようにして、腕から逃れた。
床に落ちていたロイドのシャツを引っ掴んで羽織るなり、脇目も振らずにそのまま部屋から飛び出していく。
着ていた子ども服はビリビリに破れ、身にまとう服は拾い上げたロイドのシャツだけ。
丈が長く、太もも半ばまでは隠すことができるが、下着すら身に着けていない。
つまり、シャツを着たところで殆ど丸見えだった。
***
残されたロイドは扉の外に消えていった美女の背中を、呆けたように眺める。
いつもなら、可愛く腕にしがみついて眠るはずの小さな幼女は、部屋のどこにも見当たらない。
共寝していたはずなのに腕の中から煙のように掻き消え、なぜか代わりにいた見知らぬ美女が、裸のまま廊下へ消えていくという、――理解不能な光景だった。
「……レティ!?」
呆然と見送ってから、ロイドはハッと我に返る。
いない。レティシアがどこにもいない。
「ここは二階だ。鍵も掛かっているし、三歳児が窓から一人で出ていくのはあり得ない」
そう。手掛かりは裸で逃げていった、謎の美女だけ。
攫われて遠くに売られてしまえば最後、探し出すことは不可能に近い。
「既成事実を作るために、寝室へ忍び込んだ? その手の類であればレティを害する可能性は少ないが……」
血の気が引き、自分のものとは思えないほど手が冷たくなっていく。
それでもロイドは剣を掴み、逃げていった美女を追いかけた。
***
階段の上から近付いてくる足音が聞こえ、逃走中の美女……レティシアは、ドクドクと心臓が破裂しそうに脈打った。
ここで追いつかれるわけにはいかない。
とはいえ慌てて部屋を飛び出したものの、外へ逃げようにも、男物のシャツ一枚という、あんまりな服装である。
かといって着る物を探して自室に戻れば、ロイドと鉢合わせするのは目に見えている。
廊下を駆けながら、必死に頭を回転させた。
選択肢は一つしかない。
階段を一気に駆け降り、屋敷の一角にある専属侍女、アリエッタの部屋へと向かう。
レティシアに何かあればすぐ対応できるようにと、屋敷内に部屋を与えられ、住み込みで働いていたアリエッタ。
部屋の前に到着するなり、魔法でそっと解錠し、音を立てないようアリエッタの部屋に滑り込む。
ロイドがすぐに入ってこられないよう、中からまた鍵をかけ直した。