軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 血塗られた突破と、歓迎の石畳(アプローチ)

「——というわけで、今日の空の防衛システムも正常に稼働してるみたいだ。鳥のフン被害も防げて一安心だな」

ログハウスのサンルーム。

ケントが淹れたてのコーヒーを片手に爽やかに微笑む背後で、ルミナのドローンカメラのコメント欄は、かつてないほどの熱狂と混乱の渦に包まれていた。

『一安心じゃねええええええ!!』

『空挺部隊が一瞬で焼き鳥になったぞ!!』

『地下から来てた暗殺部隊も、地盤改良コンクリートの中で完全硬化して終わった……』

『防空レーザー網に、絶対防御のコンクリート基盤。もうこれ「家」じゃなくて「国家規模の防衛要塞」だろ!』

『ギルド本部がさっき緊急声明出して、「アビスのログハウス周辺は神域に指定する。手を出した者は自己責任」って発表したらしいぞwww』

『国に見捨てられた黒い毒蛇カワイソス(棒読み)』

視聴者たちは、数百人の精鋭を擁するAランクの悪徳クランが、ケントの「ただの外構工事」の前に手も足も出ず壊滅していく様に、特大のカタルシスを感じていた。

しかし、当のケント本人は「最近は庭の手入れも楽しいな」と、完全に日曜大工の延長線上のテンションである。

***

一方、ログハウスのフェンスの外。

クランマスターのガルドは、空と地下の部隊が一瞬で消滅したという絶望的な現実を前に、血の涙を流さんばかりに顔を歪めていた。

「おのれ……おのれェェェッ!! なぜだ! なぜたかが最下層の小屋一つ落とすのに、我がクランの精鋭がここまで……ッ!」

残されたのは、ガルド自身と、数名の側近、そして氷結魔法を得意とする数人の魔術師のみ。数百人いた大部隊は、もはや見る影もない。

ここで撤退すれば、クランは破滅だ。多額の借金をして用意した攻城砲も失い、社会的信用も地に落ちている。

彼に残された道は、前進してルミナとケントの首を獲る以外にないのだ。

「ええい! こうなったら強行突破だ!!」

ガルドは懐から、禍々しい光を放つ宝石を取り出した。

それは、数億円は下らないとされる国宝級の使い捨て魔道具『 絶対防壁(アイギス) の結界石』。

彼はそれを強く握りしめ、残った魔術師たちに怒号を飛ばした。

「氷結魔術師! 全魔力を絞り出して、あのスライムの堀の表面を凍らせろ! 絶対防壁を展開して生垣を抜け、一気にその上を走り抜けるぞ!!」

「ク、クランマスター! スライムを凍らせるには魔力が足りません! 命を削ることになり……っ」

「黙れ! 貴様らの命は、俺がSランクの利権を得るための礎だ! やれェッ!!」

死の恐怖に怯える部下を恫喝し、ガルドは結界石を発動させた。

青白い光のドームが彼らを包み込む。

突撃。

彼らがアビス・トレントの生垣に突っ込んだ瞬間、無数の凶悪な枝が鞭のように結界を叩きすえた。

ガガガガガッ!! と、数億円の結界が悲鳴を上げてヒビ割れていく。

「い、今だ! 凍らせろ!!」

魔術師たちが血を吐きながら魔法を放ち、ハイスライムの水堀の表面に薄い氷の膜を張った。

ガルドと側近たちは、その脆い氷の上を必死の形相で駆け抜ける。

パキッ……メキメキッ!

しかし、ケントが調合したハイスライムの反発力と粘性は異常だった。氷の膜は数歩歩いただけで砕け散り、魔力が尽きた魔術師たちが次々とゼリーの沼へと引きずり込まれていく。

「ひぃぃっ! クランマスター、助け……っ!」

「チィッ、足手まといが!」

ガルドは助けるどころか、沈みゆく部下の頭や肩を文字通り『踏み台』にして蹴り飛び、決死の跳躍を見せた。

ズザーッ!!

泥とスライム液に塗れながら、ガルドと二名の側近だけが、ついに水堀を越えてログハウスの「内側(敷地内)」へと転がり込んだ。

背後では絶対防壁が砕け散り、すべての部下が完全に沈んでいく。

満身創痍。回復薬も魔力も、そして仲間もすべて失った。

だが、ガルドの顔には狂気的な歓喜の笑みが浮かんでいた。

「はぁ……はぁ……! ひははははッ!! 見ろ! 越えたぞ! あの悪魔のような罠の数々を、ついに突破したぞ!!」

ガルドが立ち上がると、目の前には玄関のドアへと続く、綺麗に敷き詰められた『美しい石畳の 道(アプローチ) 』がまっすぐに伸びていた。

もう、魔獣のフェンスも、スライムの堀もない。

ただ、無防備な木の扉が彼らを待っているだけだ。

「ここまで来れば、俺たちの勝ちだ! あのふざけた男の首を刎ね、すべての富を俺の……『黒い毒蛇』のものにしてやる!」

勝利を確信し、世界を手に入れたような高揚感と共に。

ガルドは、その美しい石畳に、力強く一歩を踏み出した。

――カチッ。

微かに、足元の石板が沈み込む音がした。

それが、ケントが「玄関までの歩きやすさ」を追求して設計した、『全自動・動く歩道(無限キャタピラ)』の起動スイッチであることなど、彼らは知る由もなかった。