軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 本隊の総攻撃と、美しき『からくり庭園』の惨劇

「見えたぞ! あれが配信で映っていたログハウスだ!!」

最下層の瘴気を切り裂き、ついに『黒い毒蛇』の本隊がログハウスの敷地前へと到達した。

数百人の武装した探索者と、最後尾に鎮座する三台の『魔導攻城砲』。

彼らは先遣隊が「ゴミ」として処理された映像を見ていたが、これだけの圧倒的な戦力と重火器があれば、どんな罠が仕掛けられていようと更地にできると信じ切っていた。

「クランマスター! 家の周囲に、黒い木のフェンスと、水路のような堀が作られています!」

「ふん。直前になって慌てて作った泥縄のバリケードか。小賢しい!」

クランマスターのガルドは、傲慢に鼻を鳴らした。

「おい、先頭の突撃部隊! あの小綺麗なフェンスを叩き斬って、水路を越えろ! ログハウスに突入し、女と男を引きずり出せ!」

「「「おおおおおッ!!」」」

数十人の重武装した探索者たちが、雄叫びを上げてログハウスに向かって突進する。

彼らの手には、鋼鉄を両断する大斧や魔剣が握られていた。

だが、彼らが敷地境界線の『アビス・トレント製のフェンス(生垣)』に近づき、武器を振り上げた、その瞬間である。

――バチンッ!! バババババッ!!

突如、大人しく立っていた黒檀風の木製フェンスから、無数の枝が鞭のように弾け飛んだ。

それはただの木の枝ではない。Sランク魔獣アビス・トレントの、魔力を吸って無限に再生し、鋼よりも硬い『必殺の触手』である。

「な、なんだこれ!? ぎゃあっ!!」

「鎧が……! ミスリルの鎧が紙みたいに貫通され……ぐああああっ!」

ケントが「悪意ある魔力や干渉を感知すると追い払う」と設定した通り、武器を構えて殺気立った探索者たちは、フェンスにとって完璧な『害獣』であった。

数十本の枝が容赦なく彼らの手足を絡め取り、武器を弾き飛ばし、あっという間にフェンスの向こう側へと放り投げた。

「ば、馬鹿な! ただの木の柵だぞ!?」

後方で見ていたガルドが驚愕に目を見開く中、フェンスに弾き飛ばされた先頭部隊は、そのままログハウスを囲む『涼しげな水堀』の中へとドボン、ドボンと落下していった。

「ぐはっ……! た、助かった……ただの水か……」

「おい、早く上がって態勢を立て直……ん?」

水堀に落ちた男たちが這い上がろうとした、その時。

彼らは、自分たちの体が『水』ではなく、透明で超高密度の『ゼリー状の何か』に沈み込んでいることに気づいた。

「な、なんだこれ!? 足が……抜けないッ!」

「動けば動くほど、絡みついてきやがる……っ! ひっ、息が……!」

それこそが、ケントが景観を良くするために流し込んだ【ハイスライム】の分離液トラップである。

摩擦係数が完全にゼロに調整され、強烈な弾力を持つその液体の前では、どんな怪力も魔法も意味をなさない。もがけばもがくほど沈み込み、彼らは顔だけを出した状態で、無様な『生きた標本』と化していった。

***

「おっ、庭の『自動防虫ネット』と『ハエ取り紙』が反応してるな」

ログハウスのサンルームの中。

ケントは優雅にコーヒーを啜りながら、庭で繰り広げられている惨劇を、まるで「網戸にぶつかる虫」を見るような平和な目で見つめていた。

「ケ、ケントさん……外で、すごい人数の人たちが叫んでるんですけど……」

「ああ、ルミナちゃんは気にしなくていいよ。最近、最下層も暖かくなってきたから、デカい『害虫』が増えたんだ。外構工事でしっかり対策しておいて良かったよ」

ルミナのドローンカメラが、窓越しに外の様子を映し出す。

『いやいやいや! 害虫の規模が違うから!!』

『黒い毒蛇の突撃部隊が、一瞬で全滅したぞww』

『あの黒いフェンス、アビス・トレントだ! 近づいただけで自動迎撃される!』

『そして堀に落ちたら最後、ハイスライム地獄www』

『おっさん、これ全部「お庭の景観」のために作ったんだぜ……』

『最強のからくり庭園、恐ろしすぎる』

一方、外のガルドは怒りで完全に顔を真っ赤にしていた。

「ええいっ! 忌々しい罠を張り巡らせおって! ならば、家ごと消し飛ばしてやる!!」

ガルドは最後尾の部隊に叫んだ。

「『魔導攻城砲』、前へ!! あのフェンスもろとも、あのログハウスを更地にしろォォッ!!」

ゴロゴロと重い音を立てて、三台の巨大な大砲がフェンスの前に引き出される。

城壁すら一撃で粉砕する、極大の炎熱魔法を放つ攻城兵器。

その砲口が、一斉にログハウスのサンルームに向けられた。

「ケ、ケントさん! 大砲です! あれはヤバいです!!」

「ん? ああ、大きな筒を持ってきたな。……でも、大丈夫だ。この家の庭には、究極の『スプリンクラー』を設置してあるから」

ケントが、手元の小さな木製リモコンのスイッチを『ポチッ』と押した。

その瞬間。

大砲の砲口が真っ赤に光り、極大の炎熱魔法が放たれる――よりも、わずかに早く。

ログハウスの屋根に設置されていた、ミスリル製の『超高圧純水ポンプ』が作動した。

キュィィィィンッ! というモーター音と共に、ポンプから信じられない圧力で圧縮された『純水』が、庭に設置されたスプリンクラーのノズルへと送られる。

ズバァァァァァァァァンッ!!!!!

「「「なっ……!?」」」

ガルドたちの目の前で、庭の地面から『巨大な水の壁』が噴き上がった。

いや、ただの水ではない。

それは、ミスリルポンプの超高圧で射出された、鋼鉄すら切断する『ウォーターカッター』の嵐だった。

アビス防衛戦は、ケントが手を下すまでもなく、彼の「生活を豊かにするためのDIY」によって、傲慢な侵略者たちを完全に蹂躙していくのであった。