軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 大人気VTuberルミナの絶望と、最期の生配信

「ハァッ……! ハァッ……! くっ……!」

禍々しい紫色の水晶が不気味に発光する、広大な地下空間。

熱気と硫黄の混じった重い空気を切り裂きながら、一人の少女が必死に駆け抜けていた。

彼女の名前はルミナ。

銀色の長い髪を振り乱し、所々が破れた探索者用の軽量アーマーを身に纏った彼女は、動画配信サイトでチャンネル登録者数百万人を誇る、超大人気ダンジョン配信者(VTuber)である。

彼女のすぐ斜め後ろには、自動追尾型の小型ドローンカメラがフワフワと浮遊し、彼女の悲惨な現状を全世界に向けて『生配信』し続けていた。

空中に投影された半透明のホログラムウィンドウには、滝のような勢いでリスナーからのコメントが流れ続けている。

『嘘だろ!? なんでBランクダンジョンに転移トラップが!?』

『ルミナちゃん逃げて!!』

『誰か! ギルドの救援はまだなのか!?』

『無理だよ、座標がバグってる。そこ、ダンジョンの『最下層』だぞ……!』

『ああっ、後ろからまた魔物の群れが!』

『もう見てられない……っ!』

ルミナはチラリと背後を振り返り、絶望に顔を歪めた。

「どうして……こんなことに……っ」

事の発端は、数時間前に遡る。

いつも通り、安全が確保された中層(Bランク)エリアで、リスナーと談笑しながらのんびりとした探索配信を行っていたルミナ。

しかし、戦闘中に壁が崩落し、そこにあった『未発見の強制転移トラップ』を踏み抜いてしまったのだ。

転送された先は、人類の生存限界点と呼ばれるダンジョン最下層——通称『アビス』。

SランクやAランクの規格外の魔獣たちがうごめき、これまで数多の高ランク探索者が挑んでは生きて帰ってこなかった、まさに絶対死の領域である。

『ギャアアアアアッ!!』

背後から、耳をつんざくような奇声が響いた。

群れを成して追ってくるのは、Bランク相当の魔獣『ブラッドウルフ』の群れだ。

普段のルミナなら苦戦する相手ではない。しかし、転移のショックでポーションなどの回復アイテムが入ったリュックを紛失してしまっていた。

さらに悪いことに、逃げ回る途中で足を滑らせ、右足首を捻挫している。

魔力もすでに底を突き、得意の光魔法も撃てない状態だった。

「あっ……!」

ガクンッ、と足の痛みが限界に達し、ルミナは硬い岩盤の上に派手に転倒してしまった。

『ルミナちゃん!!』

『立て! 立ってくれ!!』

『嫌だぁぁぁぁっ!』

リスナーたちの悲痛な叫びがコメント欄を埋め尽くす。

ルミナは必死に立ち上がろうとしたが、右足が完全に言うことを聞かない。ズキズキと焼けるような痛みが走り、視界が涙で滲む。

『グルルル……』

ゆっくりと、包囲網を狭めてくるブラッドウルフの群れ。

その数はざっと二十匹以上。飢えた赤い瞳が、倒れ込んだルミナを「餌」として品定めしている。

「あ……ぁ……」

ルミナは悟った。

もう、逃げ場はない。奇跡は起きない。

自分の命は、あと数分でここで終わるのだと。

「……っ」

ルミナは震える両手で地面を突き、なんとか上体を起こした。

そして、自分を映し続けているドローンカメラの方へと、ゆっくりと顔を向けた。

恐怖で顔は青ざめ、涙と泥でぐちゃぐちゃだったが、それでも彼女は『プロの配信者』として、最後にリスナーたちへ微笑みかけようとした。

「みんな……ごめんね」

震える声が、マイクを通して全世界のリスナーの耳に届く。

「これまで……ルミナの配信を見てくれて、本当にありがとう。みんなとコメントでワイワイ話しながらダンジョンに潜るの……すっごく、楽しかったよ」

『やめろ! 諦めるな!!』

『ルミナちゃぁぁぁん!!』

『スパチャ投げるから! いくらでも投げるから生き延びてくれ!!』

「ギルドの人たちも……私のために動いてくれてるみたいだけど、もう間に合わないから……二次被害が出ないように、捜索は打ち切ってください」

ルミナはふっと目を閉じ、頬を伝う涙を拭った。

「お母さん、お父さん。勝手に探索者なんて危険な仕事選んで、ごめんなさい。……でも、私は幸せだったよ」

それが、彼女の最期の言葉になった。

ブラッドウルフの群れが一斉に低く唸り声を上げ、ルミナの華奢な体に向かって、鋭い牙を剥き出しにして飛びかかってくる。

ルミナはギュッと目を閉じ、両腕で頭を抱え込んだ。

(……痛いのは、一瞬だよね……)

リスナーたちの悲鳴。

魔獣たちの咆哮。

すべてがスローモーションのように感じられる。

しかし——。

ドスッ! ドスッ!!

キャンッ!? ギャウウンッ!?

「……え?」

いつまで経っても、ルミナの体に牙が突き立てられることはなかった。

代わりに聞こえてきたのは、魔獣たちの間の抜けた悲鳴と、何か重いものが地面に落ちる音。

ルミナが恐る恐る目を開けると。

つい先ほどまで自分に飛びかかろうとしていたブラッドウルフたちが、ルミナの目の前の地面に「不自然なほど綺麗な四角形」に開いた落とし穴の底で、重なり合って気絶していた。

「……え? お、落とし穴……?」

最下層の魔獣が、古典的すぎる落とし穴に落ちて全滅している。

あまりにも現実離れした光景に、ルミナの思考は完全にフリーズした。

コメント欄も同じだった。

『……は?』

『え? 今、地面がいきなり消えなかった?』

『魔獣が一瞬で穴に落ちたぞwww』

『なにこれ、ドッキリ?』

ポカンとするルミナの鼻腔を、ふわりと『ある香り』がくすぐった。

「……なんだろう、この匂い。お肉の焼ける匂い……? それに、これって……」

信じられないことに。

死の匂いと硫黄の臭いしかしないはずの最下層で、ルミナの鼻を突いたのは——『極上のヒノキの香り』と、『挽きたてのコーヒーの良い匂い』だった。

ルミナは誘われるように、よろめきながら立ち上がり、香りのする方へと視線を向けた。

巨大な紫色の水晶の影。

その奥の岩陰に、ルミナと、そして全世界のリスナーたちの目を疑うような『あり得ない建造物』が姿を現したのだ。

「……えっ……? 嘘、でしょ……?」

そこにあったのは。

暖かな間接照明に照らされた、めちゃくちゃオシャレなウッドデッキ付きの『特大ログハウス』だった。