軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルドヴィックとの約束

「久しぶりだな」

そう言ったルドヴィックに促されるままアルバートと共にソファに腰を下ろすとすぐに紅茶とお茶菓子が用意される。漂うのはミラベルの好きなダージリンの香りだ。そこに言葉には表していないルドヴィックの気遣いが透けて見えてミラベルは小さく息を吐いた。

(リカルドとの離婚をルドヴィックがどう思っているかわからなかったけれど、少なくとも私に対して今も悪い印象は持っていないのね)

それだけでもミラベルにとっては大きなことだ。もちろん、ミラベルに対して悪い感情がないからこそ今回出資者に手を挙げてくれたのだろう。

「お久しぶりです。リカルドとの離婚の時は直接お伺いすることができず、手紙での挨拶となってしまい失礼しました」

そう言うとミラベルは頭を下げた。

リカルドと離婚した時、ミラベルはヒュラス家の当主であるルドヴィックに挨拶に行こうかどうかを悩んだ。結婚は家と家の契約。ミラベルはリュミエ家の当主ではないからあえて挨拶に行く必要はないのだが、結婚する時にした約束がミラベルに迷いを与えていた。

「絶対に離婚しないという約束を守れず申し訳ありません」

ミラベルはルドヴィックとそう約束したのだ。それはミラベルを結婚へと縛るためのものではなく、それだけの覚悟があるのかというルドヴィックからの確認だったのだろう。

あの時のミラベルはリカルドと結婚できることに浮かれていた。報われない想いにリカルドが応えてくれたと思っていたからだ。だがルドヴィックはわかっていたのかもしれない。リカルドのマリエッタへの想いが変わったわけではないことを。

そんなことも知らず、「本当にそれでいいのか」と確認された時にミラベルはルドヴィックに宣言したのだ。しかしその約束は破られた。たった五年で。

「離婚はミラベルのせいではないだろう? むしろこちらの方が謝る立場だ」

そう言うと真摯な眼差しでルドヴィックが頭を下げた。

「弟と元妻がすまないことをした」

「それこそルドヴィック卿のせいではないでしょう⁉︎」

ルドヴィックとマリエッタの間にどんな問題があったのかはわからない。しかし、二人が別れた原因の一つにリカルドの存在があるのだろうと思えた。

「……ミラベルは相変わらずだな。昔も今も人の心配ばかりだ」

苦笑しながら向けられた視線には慈しみが感じられる。そして同時に、ルドヴィックもまた今回の双方の離婚騒動に心を痛めていることがわかった。

いくばくかの緊張が漂うその場の空気を緩めるためか、ルドヴィックがティーカップを手に取ると一口紅茶を飲む。そしておもむろに口を開いた。

「出資の件を話し合う前にミラベルへ伝えておきたいことがあるのだが、いいだろうか?」

質問が向けられた先はアルバートだ。

応接室へと入室してから今まで、アルバートはまるでいないかのようにその存在感を消している。話を聞いていないわけではない。ただ自身の存在がミラベルとルドヴィックの話に不要だと判断していたからだ。

「もちろん構いません。事業と関係ない話であれば席を外しましょうか?」

それはアルバートの気遣いなのだろう。

(ヒュラス家は出資者として優良な相手だけれど、アルバートはなぜ自分でこの場を設定したのかしら?)

もちろん、計画の立案者であるミラベルと会いたいと言ったのはルドヴィックだ。出資を受ける側としては相手の望みになるべく応える必要がある。とはいえ、今日この場を設けるまでのやり取りをミラベルに任せることもできたはず。

「いや、アルバート卿にも同席してもらいたい」

アルバートの問いにルドヴィックがそう返した。おそらくかなり個人的な話をするであろうその場に、ルドヴィックはアルバートも一緒にいて欲しいと言う。

「卿の存在はこれからのミラベルの助けとなるのだろう?」

「そうなれればと願っています」

少し困ったような、悩ましげな顔でアルバートが答えた。いつも明瞭な返答をするアルバートにしてみればいささか歯切れが悪い返答ともいえる。

(……私の助け?)

二人の会話が抽象的なためいまいち真意を汲み取りきれないミラベルが内心首を傾げていると、手ずから自身のカップへと紅茶を注いだルドヴィックが再び口を開く。

「少し古い話からになるが……」

落ち着いたルドヴィックの声が、懐かしい話を紡ぎ始めた。