軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 俺はカエルをパリイする

俺は目の前の黒いカエルの巨大な爪を弾きながら意外に思っていた。

このカエル、そんなに手応えがない──と。

いや、攻撃を弾くたびに、黒い剣の持ち手に激しい衝撃が伝わるし、一撃一撃はそれなりに強烈なのだが……でも、そんなに苦労するほどではない。

昨日のゴブリンと比べると、だいたい同じか、それよりちょっと力が弱いぐらいだ。

だとすれば、このカエルは魔物としては、かなり弱い部類に入るのだろう。

いや……「最弱の魔物」と呼ばれるゴブリンよりも力が弱めなぐらいなのだ、魔物ですらないのかもしれない。

──ならば、何とかなるかもしれない。

ろくな攻撃手段の無い俺一人で討伐することは難しいが、リーンやイネスが追いついてくるのを待ちさえすれば、きっと倒せる。

よし、ならば時間稼ぎだ──。

俺も体力にだけは少し自信がある。

そう思って俺が剣を構えたところ、目の前のカエルの身体が突然大きく膨らんだ。

何かがおかしい、と思った瞬間、カエルの口が大きく開き、喉の奥に何か黒いものが渦巻いているのが見えた。

俺が疑問に思う間も無く、カエルはその黒い霧の塊を勢いよく吐き出した。

避けようと思えば避けられた。

だが俺が避けたら必ず後ろの少年に当たる。

俺はその場から動けず、正面から黒い霧をもろに喰らい全身に浴びた。

少し、口の中にも入ってしまった。

すると直後、俺は口から大量の血を噴き出した。

「これは、毒、か──?」

全身が強烈に痛み、眩暈がする。

喰らって分かった。

これは毒。

それも、とても強烈な毒だ。

そしてその時、ようやく気がついた。

俺が飛び出して行った時、イネスが何か言いかけていた。きっと、それはこのこと──このカエルは毒を持つ「毒ガエル」なのだという事を警告してくれていたのだ。

攻撃の一撃一撃が大したことがなかったのも肯ける──この生物の最大の武器は見た感じ強力そうな牙や爪ではない。

腹の中に溜め込んだ強力な毒素。

これがこの生き物の、最大の攻撃なのだ、と──。

と、同時に──

全身から血を噴き出しつつ、俺は思った。

──まあ、これなら、やっぱりなんとかなるかもしれないな、と。

かつて、俺が山で一人で生活している時のこと。

俺は母に「絶対に食べてはいけない」と言われていたキノコを誤って口にしてしまったことがあった。

──その名も『竜滅茸』。

竜さえ殺すと伝えられる程の、強烈な毒を持つキノコだ。

その時の俺が、何故そんなものを採って帰ってきたのかは分からない。

その日、とても大量の収穫があり浮かれていて、危険なものが紛れ込んでいたのに気がつかなかったのかもしれない。

ともかく、俺はそれを鍋に入れ、煮込んで夕飯に食べた。

その後しばらくして腹がひどく痛み、俺は大量の血を吐いた。

ようやくその時、食べてはいけないものを食べたのだと知ったのだが、もう手遅れだった。

食べてから随分時間が経っているので、吐こうにも、吐けない。

毒は全身に回っていたようで、身動きもできない。

俺はひたすら、腹に身につけたばかりの【ローヒール】をかけ続けた。

それしか他に方法が思いつかなかったのだ。

すると、じわじわと腹が癒えていく感覚がある──だが、気を抜くと俺はまたすぐに吐血した。

一瞬も気が抜けない状態。

油断すると全身のありとあらゆるところから血が噴き出て、俺は死を覚悟しつつ【ローヒール】を自分に掛け続けた。

それから、昼も夜もなく苦しみ続け、時折水だけは飲み、また血を流しながら地面を転げ回る毎日。

何度も死ぬかと思いながらも俺は意地で生きながらえていた。

何とか、【ローヒール】をかけ続ければ、身体は多少動いた。

だから、非常に苦しくはあったが、日課は欠かさずにやった。

毎日やると決めたのだから、やる。

それも意地だった。

あまり腕に力は入らない。

それでも血を吐きながら、木剣だけは振っていた。

──自分はこのまま死ぬかもしれない。

そう思いながら。

だがそれから、7日ほど経ったある日の朝、俺は異変に気づいた。

──腹が、全く痛くない。

吐血は止まっていた。

そして驚くほどに身体が、軽い。

まあ、それはそうだろう。

一週間もまともに食べていなかったのだから。

俺は栄養のある食事をするため、そのまま狩りに出かけた。

野生の猪ぐらいなら、今の体調でも仕留められるし、腹が減ったし、肉が食いたい。

そう思って森に入っていったのだが、ここでも失敗をしてしまった。

大きな毒蛇に噛まれてしまったのだ。

俺はそこで死を覚悟した。

なんとか毒蛇だけは退治したが、俺はもう死を待つだけだと思い目を瞑って森の中に寝転がった。

でも、おかしなことに──

いつまで経っても毒が効いてくる感じはない。

体のどこも、痛くならない。

俺は不思議に思いつつも起き上がり、その出会った蛇を持ち帰り、料理して食べた。

その蛇は毒があるから食べられない、と聞いていたのだが──本当に腹が減っていたのだ。

その蛇の毒は俺には効いてないようだったし、きっとこの蛇は大した毒はないのだろう。

もしかしたら、実は毒なんかないのかもしれない。

ならば、食べても大丈夫、と。

まだ子供だった俺はそんな風に安易に考えていたのだろう。

だが──俺はその蛇を食べてみて、衝撃を受けた。

……とんでもなく美味かったのだ。

山鶏の肉よりもずっとジューシーで、

今まで食べたどんな茸よりも旨味が濃く、

体全体に染み渡るような甘さがあった。

何より滋養があったのか、俺の身体は驚くほど早く回復した。

そして、その蛇を食べ切った後、俺はまたその蛇を探し始めた。

一度食べると、病みつきになる味なのだ。

それぐらいに、旨い。

そうして俺はどうにかその蛇を再び探し当てたのだが──

再び目にして、疑問に思った。

やはり、それは母から「どんなに飢えていても食べてはいけない」と教わっていたポイズンスパイクという蛇だったのだ。

俺は不思議に思った。

今まで俺は母に教わったことは、ほぼ守ってきた。

その知識は正しかったからだ。

でも、目の前のポイズンスパイクを食べても、俺は何ともなかった。

──何故だ?

疑問に思っているうちに油断し、また蛇に噛まれて、気がついた。

やはりこの蛇に毒がないわけではない──今の俺には「効かない」だけなのだ、と。

どうやら理屈は分からないが、前に食べた『竜滅茸』である程度の毒への耐性がついたようだった。それには、そんなに役に立たないと思っていた【ローヒール】が役に立った。

多少だが、毒を無効化する効果もあるのかもしれない。

それに気がついた時、俺は歓喜した。

もしかしたら、これは新たな【スキル】を得るために使えるのではないか、と。

そうして俺は、毒があると言われていた山の中の動物や植物を片っ端から試していった。

たまに思っていたより毒性の強いものがあって、激しく血を吐いてしまうこともあったが──大抵【ローヒール】で何とかできたし、どれも『竜滅茸』と比べれば大したことはなかった。

結局のところ、期待した【スキル】は全く得られなかったのだが。

その代わり、俺は発見した。

毒のある動植物は「だいたい美味い」ということを。

例外はあるものの、どれも滋養がある感じがする。

きっと毒があるから自分は喰われないと思って、栄養をため込んでいるのだろう。

だから、俺はそれから毒を持つと言われる動植物を好んで食べるようになった。

毒さえ何とかすれば、食材としては相当に良いものなのだ。

何とか出来なかったとしても、俺には毒をじわじわと無効化する【ローヒール】があるから、問題ない。そのうち、多少我慢していれば毒に対する耐性がつくのだし。

そんな経緯もあって、俺は毒を食らうのには慣れている。

自慢ではないが、今の俺は毒には結構強いのだ。

俺の数少ない、取り柄の一つだ。

今、この目の前のカエルが吐き出した黒い霧の塊──これはかなり、強烈な毒だった。

『竜滅茸』に匹敵する程の、強力な毒がある。

身体で受けてみれば、わかる。

だが──

それぐらいならば、今の俺は耐えられるだろう。

──実は『竜滅茸』も、かなり美味かったのだ。

俺はあれから何度も鍋に入れ、味わった。

その度に少し血を吐いたが、それだけだ。

結局大丈夫、とわかっていれば、旨いものの魅力には抗えないのだ。

だから、このカエルの毒程度なら──俺には効かない。

俺は毒の霧を【ローヒール】で解毒し、無効化する。

最初は解毒が間に合わず、多少血が噴き出るが、この程度なら経験上、問題無い。

すぐに傷口は塞がるし、無傷も同然だ。

黒い霧は辺りに散ってしまっているが、どうやら俺の【ローヒール】での無毒化が間に合っているのか、俺のすぐ背後にいる少年も無事のようだ。

──良かった。

そう思いながら、俺はカエルの振り下ろす爪を弾いていく。

俺の持っている黒い剣の方が硬さでは上回っているのだろう。

カエルの爪は弾くたびにどんどん砕けていく。

──本当に凄い剣だ。

重いが、とにかく頑丈だ。

見た目はボロボロだったので価値を侮ってしまったが、本当にいいものを貰ってしまったと思う。

俺はリーンのお父さんに感謝しつつ、カエルの鋭い爪を一本、また一本と砕いていく。

いつの間にか爪が無くなってしまったカエルは、大口を開け、鋭い牙で俺に噛み付こうとしてくる。

だが、それも同じことだ。

攻撃される、弾くを繰り返し、牙も残らず砕いていく。

本当に獰猛なカエルだ。

全ての爪と牙を砕かれたというのに、まだ襲ってこようとする。

だが、もうあきらかに弱っている。

毒を吐くのにも体力を使ったのだろう。

──このままであれば、勝手に倒れてくれるかもしれないな。

そんなふうに思った瞬間──

また、カエルの身体が大きく膨らんだ。

再び大口を開けて、あの毒の塊を吐こうというのだろう。

それも、最初に膨らんだ時よりも、ずっと大きい。

次は、このカエルの生死を賭した一撃──

前よりも強烈な毒の塊が来そうな気がする。

──だが、同じ手は二度は食わない。

俺は剣を構える。

毒ガエルが更に大きく膨らみ、大口を開け毒の霧を吐こうとした、その瞬間を見計らい──。

「パリイ」

俺はカエルの下顎を、思い切り打ち上げた。

カエルの大口が勢いよく閉まり、吐き出されようとしていた大量の毒の塊、そして圧縮された空気が行き場を無くし、奴の身体の中に一気に逆流する。

そして爆発的に奴の身体が膨らみ──

カエルは背中から爆ぜ、肉片となって辺りに飛び散った。

「──酷いな、これは」

人を襲おうとしたカエルとはいえ、あまりにも無惨な死に方だった。

だが、毒と一緒に辺りに散らばるカエルの肉片を見て、俺はあることに気がついた。

そして、一度そんな風に思うと、考えずにはいられなかった。

もしかしたら、このカエル──

──相当、美味しいかもしれない、と。