軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

229 王宮からの追放

「────駄目だ。お前の同行は許可できない」

クレイス王国の『謁見の間』に鎮座する玉座に向かい、直立するリンネブルグ王女。

一方、娘である王女を前にして、玉座に重々しく座る人物からはいつになく厳しい声が響く。

「……それは、どうしてですか? お父様には、私がまだ子供に見えているからですか? それとも────」

「弁えろ、リーン。今回の人選は国王である 己(おれ) の判断のみならず、各国の首脳を交えた会議で厳正な審議を経て決定した事だ。自分の我が儘で曲げていいことではないことぐらい、お前ならわかるはずだろう」

「はい。でも……そもそも、厳正な審議とはなんでしょう? 私を遠征の戦闘要員に組み入れないことに、私情が全く介入していないとお父様は胸を張って言い切れますか?」

「…………。逆に問おう。お前はどうして、そこまで出ていきたい?」

「単に、嫌なんです。もし、ここで退いたり逃げたりしたら……これから先、私は胸を張って生きることができなくなると思うんです」

「随分と私的な理由だな? そんな理屈が通ると思うか」

「……思いません。でも、『常に未来の自分に後悔させないように生きろ』。人生ではそれが最も大事なことだ、と。お父様はいつも私におっしゃっていませんでしたか?」

「…………」

王女の指摘に、王は苦い表情の上にさらに眉間に深い皺を浮かべた。

「……わかっています。お父様がそのように遠征への参加に反対されるのは、私にその力がないと思われているためなのだと。お兄様にも逃亡を命令されました。最初は、私もその判断が正しいのだろうと思いました。でも……相手はあのエルフでしょう? この先、必死に身を隠して逃げたとしても私だけのうのうと逃げおおせるとは思えません。なら────」

「リーン。もういい。決定は受け入れろ。これは王としての命令だ」

「申し訳ありませんが、嫌です。従えば、私は後で必ず後悔します。なぜあの時、自分は自分にできることを精一杯しなかったのだろう、と」

「……そうか。あくまでも、お前は自分の意思を曲げるつもりはない、と。そういうことだな?」

「はい」

「だが、王家に名を連ねる者が、王の命に従わない。その意味もわかっているな?」

「………………はい。もちろんです」

沈黙して俯いた王女に、玉座に座る王は深いため息をついた。

「わかった、もういい。そこまで子供だとは思わなかった。お前の好きにするがいい」

「お父様?」

「お前はこれより、ただの『冒険者』を名乗れば良い。であれば、お前が自分の思うままに振る舞っても何も問題はあるまい」

「では────?」

「その代わり。お前は本日この時を以て、この 王宮(いえ) には居場所はないものと思え。我々王家とは何の縁もゆかりもない、一般の身分になるわけだからな」

「────父上。それは流石に」

二人の対話に傍でじっと耳を傾けていたレイン王子が、諌めるような声で割り込んだ。

「止めるな、レイン。これがそいつの意思であり、王である己の決定だ」

「しかし────」

「お兄様。お父様は何もおかしなことは言っていません。道理に反しているのは私の方ですから」

「そうだ、リーン。ルールに従わない者は 王宮(ここ) には留まれない。わかるな?」

「はい、陛下。寛大なご判断、ありがとうございます」

王女は丁寧な口調で王に一礼すると、口の端を硬く結び踵を返して謁見の間を去っていく。

一部始終を沈黙しつつ見守っていたレイン王子は小さく首を振る。

「……父上。おっしゃる理屈はわかります。ですが……本当に宜しいのですか?」

「俺たち王家の者はこういう立場である以上、何よりも道理を通さねばならない。あいつもそれが理解できぬなら、王族を名乗る資格はない」

「しかし、あのやり方では」

「わかっている。少し頭を冷やして帰ってくればそれでいい。さもなくば────」

「さもなくば?」

「……そうなったらその時、考える」

重い沈黙の中、王子は玉座に座る父に向き直る。

「父上。私からも一つ、お尋ねしたいことが」

「……なんだ?」

『謁見の間』を覆う沈んだ空気が張り詰め、眉間に深い皺を寄せた王がため息まじりに口を開く。

「母上の件です」

「…………そうか。お前はあいつの……レオーネの何が知りたい?」

「単刀直入に伺います。母上はまだ、生きているのですよね?」

「どうして、そう思う?」

「────まず、一つ目の根拠としては、当時、母様が亡くなった際の記録がどころどころ不明瞭です。疫病で死んだと言う割には、周辺地域ではそのような病の流行の記録はありませんし、何より母様は亡くなる直前までは健康そのものでした。それまで病気ひとつしたことがない人が、あのように突然命を落とす流行り病など、どんな文献を調べても見つかりません。他にも、不自然な点がいくつか」

「そうだな。確かに、あいつが流行り病程度で死ぬなど考えにくい。もう少し、マシな嘘をつくべきだった」

「では、やはり」

玉座の上でうな垂れる王は、じっと自分の足元に視線を注ぐ。

「…………お前はいつから、気づいていた?」

「国葬の一年後には。何かがおかしいのでは、と違和感を覚えました」

「そうか。そんなに早くにか」

「しかしながら、確証は持てませんでした。そもそも父上始め、母上の最期を看取った【癒聖】セインや、病気の治療に当たった【魔聖】オーケン。彼ら以外にも【六聖】の面々が結託し、そのような嘘をつく理屈は思い当たりませんでしたから。その為、それ以上の追求はしませんでしたが……」

「今回のエルフ襲撃の件で、少し思うところがあった、か」

「はい。もし仮にの話ですが、何らかの理由で母様が あれら(・・・) ほどの脅威に直面し、可能な限り周囲に被害が及ぶことを避けようとしたのだとすれば……自分を 死んだ(・・・) ことにして、人知れず王都を去るのは一種の合理的選択であったのかもしれない、と」

「ちょうど、今回のノール殿の立場のように……か?」

「はい。状況は違うと思いますが、可能性としてありうるのではと」

王子の言葉に静かに耳を傾けていた王は、玉座の上で深いため息をついた。

「……概ね、お前の想像する通りだ。あいつはあの日、自分の足で王都を出ていった。お前たち二人を己に託してな」

「……どうしてですか? なぜ、母様はそこまでしなければいけなかったのですか?」

「その先は言えない約束になっている」

王は傷だらけの顔に深い皺を刻みながら口を固く結ぶと、椅子に深く腰掛け直す。

「……くれぐれもリーンには、この話は伏せておけ。知れば必ずあいつはレオーネを追う。今の状況では火に油を注ぐようなものだ」

「わかっています」

二人は以後その話題については何も語らず、 表情(かお) にそれぞれの葛藤の色を滲ませながら二ヶ月後に迫る討伐遠征の課題についての議論に移った。