軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134 真夜中の来訪者

俺たちは急いで身支度を整えると、すぐに宿の外に出た。

リーンが【スキル】で確認した大勢の気配は集落を囲んだまま、全く動く様子はないようだった。

足音もしないし襲ってくる様子はないが、盗賊などではないということだろうか。

宿の外に出ると、村人達も異変を感じたのか、様子を窺いに家の外に出ているのが見える。

「リーン、どっちに向かえばいい?」

「あちらです。人らしい感触はそこだけですので」

「村をとり囲んでいるのは人じゃないのか?」

「……はい。恐らく、そうだと思います」

リーンの案内に従って少し走ると、すぐに村を囲んでいるものの姿が見えてきた。

それを見て、リーンは驚いているようだった。

「……あれはゴーレム。それも、『 始原の人形(オリジン・ドール) 』……!? サレンツァの至宝のはずでは。こんなに一度に動かせるなんて……?」

「ゴーレム?」

集落を囲むようにずらっと夜の砂漠に佇んでいたのは、奇妙な形をした巨大な人形の群れだった。

どれも骨張ってゴツゴツとしていて硬そうな陶器のような質感なのは一緒だが、中には鳥や獣のような動物に近い形をしているものや、大きな竜のような、なんと言っていいかわからない変わった形をしたものもあった。

ゴーレムといえば人の形をしたものだとばかり思っていたが、そういうわけでもないらしい。

「夜分にお騒がせして申し訳ありません、リンネブルグ様」

俺がゴーレムの形に気を取られていると、暗闇の中で誰かがリーンの名を呼んだ。

「強い陽の光は苦手なもので。このような時間のご挨拶となってしまいました。ご容赦いただけますと幸いです」

俺たちが声のした方を見上げると、一際目立つ巨大な竜の形のゴーレムの上に立っている青年が丁寧な口調で挨拶をしていた。

「リーン、知り合いか?」

「……いえ。初対面だと思います」

俺たちが彼への反応に困っていると、青年は竜の人形から飛び降り、俺たちに歩いて近づいてきた。

同時に暗闇から音もなく黒服を纏った二人の人間が現れ、彼の後ろからついてくる。

一人は片腕が無い、背の高い獣人の男性。

もう一人は妙齢の小柄な女性だった。

青年は俺たちのすぐそばまで近づいてくると、リーンに向かって恭しく礼をした。

「お目にかかれて光栄で御座います、リンネブルグ様」

再び名前を呼ばれたリーンだったが、まだ青年を警戒している様子だった。

「……どうして私のことを? 初めてお目にかかると思いますが」

「仰る通りです。私はかつてレイン様より、優秀な妹君のことをよくよく聞き及んでおりましたので。私が一方的に存じ上げているだけになろうかと」

「兄から? ……失礼ですが、どのようなご関係ですか」

「私とレイン様はミスラ留学時代の学友です。当時、とても 仲良く(・・・) させていただきましたもので」

「……そうでしたか。でも、早速ですみませんが、まずこの状況を説明していただいてもよろしいですか? 何故この集落はこんなに沢山のゴーレムで囲まれているのでしょうか────それも、 戦争用(・・・) のゴーレムで」

「……そうでしたね。仰る通り、これにはご説明が必要でしょう。彼らにも分かりやすいように」

青年の視線の先を見ると、異変を嗅ぎつけた村の獣人達がぞろぞろと集まりかけてきていた。

皆、緊張した面持ちで、中には武器を手にしている者もいる。

「申し遅れましたが、 私(わたくし) 、ここサレンヌ地方の地方領主を務めておりますラシードと申します。普段は 政治(まつりごと) が主な職務ですが、この地方一帯の徴税官の長も兼ねておりまして。本日はその 調査(・・) に参りました。あれらは、その 護衛(・・) です」

「護衛……にしては数が多いような気がしますが」

「この国では徴税官は何かと人に恨まれる役目でして、真面目に仕事をこなすにはこれぐらいの数が必要になるのです。と言っても、大方の査定は既に終わった所なので、あとは帰るところだったのですが。せっかくなので、ご挨拶も兼ねて、と」

「……税の調査、ですか?」

「はい。どうやら現在、この村の人々は資産となるものをお持ちのようなので。査定の結果、かなりの資産価値があることが判明しましたので、彼らがこれまで 免除(・・) されていた税を納める義務が出て参ります。そのお知らせを兼ねて、ご挨拶に参りました」

「……つまり、この村にある 対象(もの) に新たに課税をしたい、と?」

「おっしゃる通りです。リンネブルグ様」

笑顔を崩さない青年だったが、対するリーンはずっと緊張した面持ちだった。

「私共の調査の結果、この集落には昨年にはなかった広大な『生産性のある農地』が見受けられました。コレに関しては、サレンツァの商業共同体が定める法により、予想される収益の五割を税として納める取り決めとなっています」

「ご、五割……!?」

「それと、新たに整備された水路がありますね。そちらも課税の対象ですが、何より……『水源』。これが非常に、大きい」

青年は狼狽えている様子のリーンの目を見つめながら、落ち着いた口調で話を続けた。

「ご存知の通り、ここサレンツァ北部地域では水は非常に貴重な資源です。場合によっては黄金をも遥かに凌ぐ価値ともなりましょう。これを見過ごすことは、私の徴税官としての職務を果たしていないことになりますので、残念ながらお目溢しは出来ないのです。ご理解を」

「……ちなみに、課税評価の総額は?」

「これぐらいになります。あくまでも現時点での査定ですが」

青年は何かの書類を取り出してリーンに見せた。

すると、リーンはとても驚いている様子だった。

「────ッ!? そんな……! こんな額、この集落の人々に納められるわけが……!?」

「私どもサレンツァ商会はすぐに税を納められない方に向けて、低金利での貸し付けも行っております。我々は金融商品も商っておりますので、融通は利かせられるつもりです」

「……つまり、税を支払うために借金を背負えと?」

「納められないのなら、そうするのが賢明かと」

青年が言葉を発するのと同時に、集落を取り囲むゴーレム達の首が一斉に動き、リーンを見つめた。

「隣国からいらした方には奇異に映るかもしれませんが……それが、この地でのルールなのですよ。ご理解いただけますと幸いです」

「……待ってください。国は違えど徴税の原則は変わらないはず。徴税の権限は庇護の義務と一体では? 貴方がたはこれまで、この地にどのような庇護を? 私の目には何も見えてこなかったのですが」

「……これはこれは手厳しい。これまで、私どもはこの地に武力による安寧を継続して提供してきたつもりです。目立たずとも、彼らが外敵に脅かされず安心して生活を送れるよう、常に守護していたのです」

「……その外敵はどこに?」

「……至る所に。たった今、目に見えないとしても、可能性としては常にあります。外敵が発生しないよう務めることも我々統治者の務めですし、平穏の維持にも大きな 経費(コスト) が掛かるのです。それはレイン様の妹君である貴女ならば、よくお分かりでしょう」

「……それは。そうなのですが」

先ほどから、俺は話について行けていないが、なんだか、リーンが言い負かされている感じだった。

所々意味がよくわからないが、要するに、彼は見えない外敵からこの集落を守ってあげるために金がかかっているので、その代金を支払ってくれ、と言っているらしい。

なるほど。

ということは────?

「……なるほど? つまり、彼らが自分の身さえ自分で守れるようになったら、その高い税金も支払わなくていい、ということになるんだな?」

俺は自分の頼りない理解を整理しようと、青年に質問してみたのだが。

饒舌だった青年は急に推し黙り、じっと俺の顔を見た。

「……面白い考え方をなさいますね、そちらの方。クレイス王国からおいでになった方とお見受けしますが」

「ああ。ノールという。よろしく」

俺が簡単に挨拶をすると、青年はまた俺の顔をじっと見た。

青年の首の動きと合わせて、大小様々なゴーレムの首が一斉に俺に向く。

……なんなんだ、一体。

「なるほど。確かに、そういう考え方もあるかもしれません。それも一応、理には適っていると言えましょう。ですが……そうなると、貴方たちが我がサレンツァ家と剣を交えることにもなりかねない、とはお考えにはならないのですか?」

「……なんでそうなる? 敵になる理由もないし、お互い仲良くすればいいだけの話だろう」

「この地を国家の庇護の枠組みから外し、独立の道を歩ませる……とも聞こえるのですが」

「……よくわからないが、それで何か問題があるのか?」

「……なるほど。どうやら貴方はご自分にそれだけの力がある、とお考えのようですね。面白い」

青年は何かを納得したように微笑み、深く頷いた。

彼は今、何を納得したのだろう。

俺は本当によくわかっていないから聞いただけなのだが……?

「シャウザ。その者の『 査定(・・) 』を」

「わかりました」

返事と同時に、片腕の無い背の高い獣人の姿が消えた。

「【パリイ】」

気がついた時には獣人の男は俺の背後に立ち、短刀を振るっていた。

俺が短刀を『黒い剣』で弾くと、暗闇に大きな火花が散り、辺りを照らした。

「ノール先生!?」

「……どういうことだ、これは」

暗闇に紛れていたせいか、黒い服の獣人の男の動きが全く見えなかった。

その上、とてつもなく重く鋭い一撃。

咄嗟に打ち払うことはできたが、『黒い剣』を持つ腕がまだ震えている。

「シャウザ。どうだった? 彼は」

「……今のやり取りだけでは、わかりません」

「わからない?」

「はい。少なくとも、簡単には量れないとしか」

「……そうか。今ので 量れない(・・・・) 、か。面白い」

獣人の男を俺にけしかけた青年は、肩を震わせて小さく笑った。

先程のリーンに向けていた笑顔とは違う、薄気味悪い笑顔だった。

「……やはり、その男、口だけではないようですね。リンネブルグ様、どのような経緯でそのような人材を?」

「その前に、刃を向けた理由を」

「ああ……なるほど、理由ですか? 概ね、個人的な興味からですが……もし、ご不快に思われましたらお詫びいたします」

「興味?」

「はい。あのような大言を吐く男に実際、どれ程の『価値』があるのかと。私も商人の端くれでして、つい、気になってしまいまして」

「……つい、であのようなことを?」

今のやり取りで、周囲の獣人達がざわついている。

リーンが剣の柄に手を掛けると更に場の緊張が高まった。

「……ラシード様。今のお言葉の真意を掴みかねるのですが。もしや、その価値とやらを測るために、私達と正面から剣を交えることをお望みなのでしょうか?」

「いえいえ、滅相もない。我々は暴力を好みません……しかし、困りましたね。そちらの方もリンネブルグ様も、我が国のやり方にご不満がおありのご様子」

「……あんな言い分であれば、当然です」

「ですので、こちらから一つ、提案をさせていただきたいのですが」

「……提案?」

柔らかな物腰を崩さない青年にほんの少し、リーンの緊張が緩んだ。青年はそれを見透かしたかのように笑みを浮かべ、話を続ける。

「ここから中央に向かう途中に『時忘れの都』という街があるのをご存知でしょうか」

「はい、名前だけは」

「その地は私が治める街の一つとなります。どうでしょう。そこでひとつ、あなた方と私とで『 裁定遊戯(トライアル) 』などでも」

「…… 裁定遊戯(トライアル) ……? サレンツァの慣習の……?」

「よくご存知で。おっしゃる通り、我々の土地では古来より、争い事が起きた時に『 遊戯(ゲーム) 』を用いて解決するという風習があります。公平なルールを用いて競い、より高い知恵を示した者に優位性を与えることで争いを調停する……という仕組みです。古い習わしですが、現代のサレンツァの法でも認められています」

「……それはつまり、賭け事のようなことで決める、ということでしょうか?」

「娯楽的要素を含んだ、暴力を用いない決闘────と考えて頂くとわかりやすいかと。よろしければ、それに付き合って頂ければ」

「……私達がそれにお付き合いする利点は?」

「あなた方が私共に勝った場合、この地に課されるはずの税を当面の間、免除する……ということで如何でしょうか。わたしもその程度の権限は持ち合わせておりますので」

「もし私達が負けたら?」

「ひとつ、簡単なお願いを聞いて頂きたく存じます。法律上、こちらが免除する税と 同等(・・) の価値のあるお願い事を聞いていただく必要がありますが」

自信ありげに提案をする青年だったが、リーンは迷っている様子だった。

「……私には、どうしてもそれが私達に分がある賭けとは思えません」

「先程も申し上げましたように、これはあくまでご提案です。互いに暴力を用いないようにする為の、ね。それを受け入れるか否かはあなた方次第です……結果の責は、こちらでは負いかねますが」

リーンと俺たちは周囲を見回した。

獣人達は弓を握りしめ、険しい表情でゴーレム達と向き合っている。

どうやら子供達も戦うつもりのようだったが、何人かは弓を持つ手が震えている。

「……ノール先生」

「いいんじゃないか? あっちもこれ以上乱暴なことをするつもりはないと言っているし。俺たちが行けば済むというなら、それで」

「……そうですね」

リーンは少し考えると、シレーヌとロロの顔を見て、互いにうなずくとまた青年に向き合った。

「……わかりました。『時忘れの都』に参りましょう。でも今は移動手段がありませんので、明日、明るくなってからになりますが」

「構いません。それでは待ち合わせは明日の正午、ということでよろしいですか。お互い問題の解決は早ければ早いほど良いでしょう。時は黄金に勝る価値がありますので」

「……問題ありません」

「では一同、歓迎の準備をしてお待ちしております。父からもクレイス王国からのお客人が見えたら丁重にもてなせ、と仰せつかっておりますので」

「父から、と言いますと……?」

「詳しい自己紹介が遅れてしまいましたが、 私(わたくし) 、サレンツァ家の長男ラシードと申します。税の免除という特例も普段ならあり得ない話ですが、異国からの客人をもてなす『 遊戯(ゲーム) 』の景品には丁度いい。父の理解も得られましょう」

「税が景品、ですか」

「はい。あくまでも『 遊戯(ゲーム) 』ですので、軽い余興ぐらいの気持ちで楽しんでいただければと」

「……とても、そんな気分にはなれませんが」

終始笑顔を崩さない青年だったが、リーンは相変わらず彼に対して警戒心を抱いている様子だった。

「では、夜分遅いので、これにて失礼いたします。再びお会いできるのを、心より楽しみにしております、リンネブルグ様。どうかお兄様にもよろしくお伝えください。ラシードが とても会いたが(・・・・・・・) っていた(・・・・) 、と」

ラシードと名乗った青年は笑顔のまま一方的にリーンに別れを告げると、大勢のゴーレム達を引き連れて、音もなく夜の砂漠に消えていった。