軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

電子書籍発売記念SS①『侍女から見た氷たち』

長男のハブリエルが父の爵位を継ぎ、次男のルーカスがランヴェルト様の仕事を引き継ぐようになったある日のこと。

王城から戻られたランヴェルト様がニコニコとしながら、長期休暇をもぎ取ってきたと言われました。

「……長期?」

「二週間だ。二人でどこかに出掛けないか?」

子どもたちも大きくなりましたし、二人だけというのも楽しそうではあります。

ランヴェルト様がソワソワとした様子でこちらを見られているのがとても可愛らしいです。

「いいですね、参りましょう」

「ん!」

凍った湖面のように青く透き通った瞳を柔らかく細め、とても嬉しそうに微笑むランヴェルト様を見て、私も自然と笑みが溢れました――――が、それを見ていた侍女いわく、二人とも真顔で淡々と話を進めていて恐ろしかったそうです。

✱✱✱✱✱

旦那様とテレシア奥様は、あまり使用人を付けたがりません。お出かけなどにも最低限の人数でになります。ただ仕事量が増えるわけではなく、それぞれでご自身のことを済まされるので、逆に手持ち無沙汰になることもあります。

「ルイーズ、よろしくね」

「はい、何かございましたらお申し付けください」

急遽、お二人が旅行に出かけられるとのことで、私と従僕のミックがお供をすることになりました。

期間は一週間ほど。向かうのは王族の所有する温泉地の別荘とのことです。馬車は二台で一台目に旦那様と奥様と多少の荷物。二台目に私とミックと荷物。

普通はご主人様たちの乗る馬車に荷物など乗せないのですが、お二人はどうしてかそういった貴族らしいことがよく抜け落ちられます。

「良いのかねぇ、俺たち。こんな楽して」

初めての同行だったミックは、少し戸惑っていました。

「私たちも楽しんでいいらしいわ」

奥様の提案なのです。どこから聞いたのか、私がミックと付き合い始めたのなら、ランヴェルト様の担当はミックがいいわね、と。真顔で言われるので心底恐ろしいのですが、奥様の完全なる優しさだということは仕えていれば分かることではあります。……ただ、本当に真顔なので…………怖いのですが。

温泉地の別荘に着き、馭者とともに荷物を運びました。私たちの前をトランクを持った旦那様と奥様が無言で歩いているのは気にしてはいけません。

旦那様がソワソワしつつ奥様の手を握ろうとして、手を近付けては指先をくねくねと動かし、引っ込めてを繰り返していますが、気にしてはいけません。

ミックが何か言いたそうにこっちを見ています。肘でドスッと腕を突いて黙るように目配せをしました。

「いてぇ」

「ん? どうかした?」

「いえ、なんでもございません」

奥様がこちらを振り向いて確認したときに、旦那様の手がふにょふにょと動いているのに気づいたのでしょう。奥様が旦那様のお顔をジッと見て、スッと手を繋ががれました。

旦那様の耳がちょっとだけ桃色になっています。

――――よしっ!

声を出したミックに軽くイラッとしましたが、怪我の功名です。いい仕事でした。

荷解きをしていると、旦那様が早速とばかりに温泉に入る準備をしましたが、奥様は窓の外に見える湖に行きたいと言われました。

旦那様が真顔でしょんぼりとしています。

旦那様の良いところは、それでも奥様の希望を優先されるところです。

お二人が手を繋いで出掛けられるのを見送りました。

近いのでお供は不要とのことでした。

「おい、見てみろ」

ミックが窓の外を指さしました。

夕日に照らされる湖の側の木に、二人の姿がありました。どうやら奥様の膝で旦那様が眠られているようです。こうやって見ると、本当にラブラブなんですよね。表情からは一切分かりませんが。

無表情を極めたお二人ですが、時々お互いに微笑まれあっていますし、先程のように旦那様からは奥様大好きオーラが出ますし、奥様も奥様で旦那様のことを愛されています。

とてもすてきな御夫婦にお仕えできて、私は幸せです。