軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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場所こそ野営だが、いつもどおりハディスにぎゅうぎゅう抱きつかれながら寝て、いつもどおりハディスが作ってくれた朝ご飯を食べた。お昼ご飯だっていつもどおり。

ハディスは何も言わないし、ジルも何も言わない。すごいことだとジルは思う。

(陛下はたぶん、いつもどおりにするのがどれだけ大変なことか知ってる)

そしてそれを持続することがどれだけ困難か。

視界の悪い森を抜けると、いきなり木も何もない、土と石だらけのくぼんだ地面へ出た。ひらけた視界に戸惑っていると、先頭で案内をしていたロレンスが振り返って言う。

「ここは以前、大きな川だったらしいですよ。でも川上の方角に竜の巣ができてから、せき止められて干上がったそうです。川の水がどうなったのかは竜の巣に入らないとわからない。神秘ですよね」

観光案内のような説明をするロレンスに、リステアードが顔をしかめる。

「竜の巣はラーヴェ帝国にとって神聖な場所だ。勉強熱心なのは結構だが、観光気分で近づくのは感心しない」

「わかってますよ。今からこの乾いた川を竜の巣の方向へむかってのぼります。その先が合流地点になりますので、急ぎましょう。ここは遮るものが何もないので、できるだけ川岸にそって、木の陰に隠れるように移動してください」

ロレンスの案内で端によりながら、馬を進める。竜の巣はかなり高い場所にあるのか、乾いた川道は勾配になっていた。ジルはハディスに背中を預けてこっそり話しかける。

「陛下も竜の巣に行くのはだめって言われてましたもんね、ラーヴェ様に」

「本当は竜帝だから問題ないはずなんだけど……ラーヴェは過保護なんだよ。僕はちょっと新しい料理に挑戦したいだけなのに」

「わたしも挑戦してほしいですが、ラーヴェ様的にはだめでしょうね……」

「君も絶対だめだって言ってるぞ、ラーヴェが。おそろいだな」

ハディスはにこにこしている。ついジルも笑ってしまった。

「陛下とおそろいならしかたないです。竜の巣に乗りこんでの金目黒竜狩りは控えます」

「うん、ラーヴェが絶対入るなってさっきからうるさい――」

ふとハディスが空を見上げた。遅れて、森側の木々がいっせいに斜めに揺れ、木の葉と大きな影が舞う。

「竜……エリンツィア殿下!?」

声をあげたジルに、一行の足が止まる。ジルたちに気づいたらしいエリンツィアたち竜騎士団一行が合図のように一度旋回し、少し離れた川上に竜をおろそうとしている。

昨夜、ノイトラールに向かって竜が飛んでいった報告はジルも聞いている。何かあったのかもしれないという緊張はすぐに周囲にも伝わった。

「目立たないように竜は使わないんじゃなかったのかよ。小隊できてんじゃねーか」

「それを看過する何か急ぎのことがあったんでしょ。――この先と合流するな、とか」

低いカミラの声に、馬からおりたリステアードが言う。

「あれだけ竜がいると馬が脅える。ここに置いて近づくぞ」

「カミラとジーク、ロレンスは馬を見ててください。陛下はリステアード殿下たちと一緒にいてくださいね。わたし、先に行って話を聞いてきます」

遮蔽物はないが、ここからでは声も届かない。馬から飛び降りたジルは、斜面を駆け出す。

豆粒ほどの大きさだったエリンツィアがすぐ見える位置になった。その背後にずらりと竜が並んで川の横幅を塞いでいる。そこでいったん平らになるのか、背後は青い空が見えるだけだった。

懸念どおり、エリンツィアの険しい顔を前にして、ジルの背筋が伸びる。

「何かありましたか」

「ああ。……突然、すまない」

「いえ、昨日そちらへ竜が飛んでいったのは知ってます。ひょっとして――」

いきなり腕をつかんでエリンツィアに抱きあげられた。

瞠目している間に、首元に腕を回され、長剣の刃が押し当てられる。

「なっ――」

「ジル!?」

「動くな、ハディス、リステアード!」

人質にされたのだ、とはっきり自覚したのは、エリンツィアたちの竜がいるうしろから兵が、そして川岸側の木々の中からも兵が出てきたときだった。

――囲まれている。

エリンツィアの腕を手でつかみ、ジルは今できる力一杯の魔力をこめる。だがばちりと音を立てて、弾かれてしまった。エリンツィアはラーヴェ皇族だ、魔力を持っている。以前のように不意をつけなければ、振りほどけない。

「……エリンツィア殿下、どういうことですか!」

「すまない、ジル。……本当に、すまない。でもわたしは……」

「何を謝る、エリンツィア。お前は正しいことをしているのだ」

うしろから真横を通りすぎて歩く人物に、ジルは顔をしかめる。

(ゲオルグ・テオス・ラーヴェ! じゃあ……昨日の赤竜は、まさかこいつ!?)

深紅のマントを川上からくる風になびかせ、ゲオルグが白銀の剣を振りかざした。銀色の魔力が溢れる、本物と見間違うような、美しい偽物の天剣。

それを振り下ろし、叫ぶ。

「全軍、突撃。この国を病ませる偽帝を捕らえよ!」

「陛下!」

叫んだ瞬間に、兵たちが雄叫びをあげてたった数人の集団に向かっていく。手を伸ばそうとしたジルを抱きかかえて、エリンツィアが竜の鞍にまたがった。

「おとなしくしてくれ、無駄な血を流したくないんだ」

「――っあそこにいるのはあなたの弟ですよ! それなのに」

「リステアードは殺されない! 叔父上は説得すると言っていた!」

「じゃあ陛下は!? 陛下はどうなるんですか! それともこれは、何かの作戦なんですか!?」

叫んだジルに、エリンツィアが唇を噛む。

その目が答えを、裏切りを、雄弁なまでに物語っていた。

「すまない」