軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21

いきなり冷たい風に吹かれて、ロレンスは身をすくめ目をつぶった。外だ。足元は土。もう一度開いた視界には、立つ木と、白い斜面。まだ雪が残っている。

そして斜め上、遠方だが、塔らしきものが見えた。

「ク、レイトス……っどこですか、ここは。北の砦に転移予定だったでしょう……!」

『ご、ごごごめんなさいフェイリスぅ、ちょっとはずれちゃった……だ、だって竜の王がいるなんて、びっくりしてぇ!』

「竜の王ともなると、女神の魔力も焼けるんですね。失念してました」

女神の声が聞こえることはこの際無視して、ロレンスは周囲を見渡す。周囲にある木には、クレイトス特有の種類があった。ここは間違いなくクレイトス側だ。上着から出した磁石はぐるぐるまわって役に立たない。つまり、ラキア山脈の山頂近く。女神の言うとおり、予定からちょっとはずれただけならば、ここから見えているのはサーヴェル領の北にある、国境防衛の監視塔か。

とすれば、目的だった北の砦も徒歩圏内にあるはずだ。

『か、可愛かった~~あんな小さい姿は初めて見た! あっひょっとして、お兄様も昔はあんなだった、り…………………………?』

「想像がつかないならやめておきなさい。あとものすごくにらまれてましたよ竜の王に」

『な、なんで!?』

「議論はあとで。早く北の砦に移動しましょう」

『あっクレイトス、まだ転移できるよ! フェイリスもそんなに疲れてないよね?』

「は、はい」

「駄目です、近いですから歩きます」

念のため倒されている木の年輪を見て、方角を確認する。太陽の位置も合わせればそうズレはないだろう。しげみをかきわけると、踏みならされた道らしきものも見つかった。

「作戦を早めることにします。あなたはベイルブルグに転移してもらいますから、今は体力温存してください」

「ど、どうしたのですか、いきなり。何かあったのですか」

「竜の王は俺たちを足止めするあっちの切り札だったはずです。それを切ってきたのはあっちの準備が整ったってことですよ。運良く移転できた時間を無駄にしたくありません。他にも想定外のことが起こってる気がして……」

「あ、あなたが想定外……?」

「俺だって万能じゃありませんよ。竜の王がいると思ってませんでしたし」

どこかから爆音が聞こえた。斜面の上のほうを見あげて、ロレンスは舌打ちする。まだ国境を越えていないとは思うが、行動が早い。ひょっとして朝のうちに手を打たれたか。

音のした方向を見ているフェイリスの前に背を向けてしゃがむ。

「乗ってください」

「えっ」

「時間がないんです、早く!」

「はっ……ははははは、はいっ」

細い腕を引っ張るようにして背負い、急な斜面を駆け下りていく。聖槍が先行して飛び、木や茂み、行き先の障害を切り捨ててくれた。そのおかげで、北の砦までまっすぐ進める。

北の砦の門に辿り着くまで、そう時間はかからなかった。

「女王陛下、ロレンスさん!」

門を開けると同時に出てきたのは、サーヴェル家の次男坊リックと三男坊アンディだ。彼らは今、サーヴェル家の所有であるこの砦の責任者に近い立場にある。

「国境に竜帝とジル姉――竜妃が現れたって聞いた?」

「聞いてます。逃亡したアルカの追跡部隊はどうしました?」

「さっき回収しました。竜妃にやられたそうです。手当て受けてます」

眼鏡を曇らせたまま、アンディがすらすらと説明する。

「やられた先遣隊も一部こっちが回収してるんで、竜帝がきてるのは間違いないです。怪我はしてますが全員死んでないのも、ジル姉らしい甘さっていうか」

「死んでないのはここに負担をかけるためだよ」

アンディが口を閉ざした。フェイリスをおろしながら、ロレンスは指示を飛ばす。

「ここまで攻めてくるつもりでしょう。今いる負傷者と非戦闘員は転移装置で王都に転移させてください。そのあとすぐに援軍を出します。転移先はベイルブルグ。当然、フェイリス様も一緒にベイルブルグへ送ってください。俺はここで指揮をとります」

「あ、あなたは一緒にこないのですか?」

言ったあとで、フェイリスが小さくくしゃみをした。

「少しでも竜帝の戦力を削っておきますよ。できれば竜妃を潰したい」

気の利いていない自分の余裕のなさに苦笑しながら、ロレンスは上着を脱いでフェイリスに着せた。フェイリスが固まったが、そこは我慢してもらう。

「でもあなたを絶対に、竜帝に勝たせますから」

両肩に手を置いて、それだけは約束する。フェイリスは目を見開いたまま、ぎこちなく頷き返し――ロレンスとフェイリスを交互に見ている聖槍をがしっとつかむ。

「何か言ったら折ります……!」

『いっ言ってない、何も言ってないよぅフェイリスぅ!』

「リック君、俺にわかってるだけの情報と戦力と配置を教えてください。アンディ君はフェイリス様をお願いします。――いってください」

小さな背中を押すと、フェイリスは一度だけ振り向いたが、聖槍を握り直し、毅然と歩き出した。あんな小さな女の子に世界の行き先が託されているなんて、残酷だ。

でも、その残酷さに加担しているのは自分だ。その責任は取らねばならない。