軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ジルの名乗りに対する反応はすこぶる早かった。

「竜妃!?」

「援軍を呼べ! すぐに伝令――」

指示を出そうとした兵の鳩尾に膝を叩き込んで沈める。怖じ気づく気はないが、両親を筆頭に、長兄も長姉もひとりで相手にするには面倒だ。弟妹くらいなら沈めてみせるが、いずれにせよハディスを無駄に消耗させるわけにはいかない。

となれば必要なのは、最速でこの連中を倒し、難民をつれて引き上げることである。

(しかし、やっぱり国境の真ん中は狙い目なんだな)

背後にまわった敵を裏拳で殴り飛ばし、逆手に持った剣を振り払い雪ごと吹き飛ばした。向けられた銃口はそのままつかんでへし折る。

(本邸の転送装置から、北でも南でもすぐに報告はいく。お父様なら、もう国境越えはしてるはずだから誰がきてもおかしくな――あれ? それでも誰もこない? サーヴェル家が?)

兵を数人、まとめて拳で吹っ飛ばしてから、ジルは首をかしげた。

「陛下を目の前にして……?」

はっと瞠目した。

きっちり固められた国境。いつもならサーヴェル家が守っている国境――なのに今、戦闘民族と言われる住民の姿が見当たらない。足元に転がっている兵をつかみ、山積みになっている兵たちの上にぽいっと放り投げ、走った。

「陛下、陛下! おかしいです、サーヴェル家が出てこないなんて――」

「いやあさすが竜妃殿下、見事な戦いっぷりでしたね!」

カンテラを手に振り向いたその顔に、声に、ジルはその場で固まった。

「このカニス、竜妃の神器に守られる日がくるとは屈辱で憤死しそうです。でも、まんまと我々を助けてしまった竜妃殿下の屈辱にくらべれば、些細なことですよね。いやあ、うまく助けが届いてよかったですね、ミレー様」

「竜帝が本当にいるなら、わたしを助けにくるのは当然の帰結です」

林檎と蛇を剣と槍で貫く十字の飾りを握り、紫のフードの中から少女がハディスに勝ち誇ったように微笑む。ハディスは視線を泳がせながらそっと移動し、ジルの背後に隠れた。

フードの中から眉尻を吊り上げた少女とジルの視線がかち合う。

「……わたしは竜帝の皇妃候補だったのですよ」

「過去形ですか、健気なんですね意外に」

無理矢理作ったに違いない少女の笑顔に負けないよう、ジルも大人の笑顔で応じた。

「もう陛下は名前も覚えてないと思いますけどね!」

「う、うん! お、覚えてないよ、ミレーなん――ぃたっ!」

足を思い切り踏んづけて、ジルは背後の夫をにらむ。

「お前は黙ってろ」

震え上がった夫は両手で口をふさぎ、何度も小刻みに頷いた。

「そういえばアルカは討伐されてるんでしたね、クレイトスで」

今、ここでクレイトス国境を出ようとする難民。気づいてしかるべきだった。舌打ちしたくなりながらも、意地で笑顔は崩さない。

「ラーヴェ帝国に亡命するつもりですか? 竜神にも女神にも与しない方舟教団アルカが、竜神ラーヴェの保護を求めて! まさか土下座でも見られるんです?」

「我々は竜神ラーヴェを救いにきたのです。女神より弱ったと噂の竜神を」

「女神クレイトスは私がばきばきに折るのでお引き取りください、っていうかわかりやすく言ってやる、ここでくたばれ」

「まあまあまあ、おふたりとも。お互いの認識のすりあわせはあとにして先に移動しましょうよ。追っ手がきたら厄介ですから」

間に入ってこようとしたカニスに向けて、ジルは拳を鳴らす。

「問題ない、援軍を呼ぶ前に全員沈めた。そしてお前らもここで沈めて帰れば問題な――」

小さな泣き声が上がった。ミレーがすぐさま駆け出す。大丈夫です、と背後で固まっている女性と女性が抱いている赤ん坊に話しかけていた。

意気を削がれたジルは、拳を下ろし、じろりとカニスを見あげた。おそらくこういうのも、彼らの手口だ。カニスは笑って、親指と人差し指で丸を作る。

「竜妃殿下の良心を満たす以外にも、それなりの代金をお支払いしますよ。マイナード殿下の居場所とかどうです?」

「それよりも、もっといいもんあるじゃろう。クレイトス国内では今、アルカ討伐を建前に何が起こっておる?」

ひょいと出てきたロルフが、驚くカニスのかたわらから、にやりと笑う。

「この国境の警備、ラーヴェ帝国に攻め込むためっちゅうより、クレイトスの国内事情を隠すためのもんじゃないかと儂は見とるんじゃが」

だから防衛よりも情報を集めることに注力したのか。ハディスをつれてまで。

無表情になったあと、カニスはまた愛想笑いを浮かべた。

「アンサス戦争の英雄は、さすが鋭くていらっしゃいますねえ。ぼったくられそうです」

「だそうじゃ、ぴよぴよ。せっかく引っかかった獲物じゃ、煮ても焼いても損にはなるまい」

ちらと背後の夫を一応、見る。両手で口をふさいだまま、ジルをうかがうように見て、そろそろとミレーたちのほうへと視線を動かそうとした。考えるより先に口が動く。

「見るな」

今度はぎゅっと目までつぶって、ハディスは何度も頷いた。ジルは嘆息する。

いくら魔術で防寒しているとはいえ、魔力の磁場がおかしくなるラキア山脈の頂上付近。長くいたい場所ではない。ましてここはクレイトス国内である。

「――レールザッツ襲撃の件で連行してやる」

おお、とわざとらしくカニスが辞儀を返した。

「竜妃殿下の寛大なお心遣いに感謝します」

「あと、あの女を陛下に近づけるな」

笑おうとしたカニスを真下から覗きこむ。

「近づけたら全員、わたしが処分する。竜妃と戦って死ねるんだ、アルカ教団員なら名誉の戦死だろう」

「……肝に銘じておきます」

結構、と吐き捨てて、ジルは目を閉じ口を塞いだまま震えているハディスの腕をつかみ、国境に向けて引き返し始めた。