軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13

逃げた敵兵の落とし物や痕跡を雪の中から漁っているロルフを置いて、ジルたちは雪壁に偽装された天幕をくぐり、野営地に入った。

洞窟のようになっている中は、部隊が常駐するために作ったのか、防寒対策もされている。三人で休むには十分な広さで、ハディスが立って作業できるだけの高さもあった。

ハディスが夕食の用意を始めるかたわら、ジルは片づけを担当する。奇襲で慌てたために散らばっているカップなどを適当な場所にまとめる。危険物は取り除く。毛足の長いふかふかの絨毯を見つけたので、それを何枚か敷かれた平べったい板の上に敷いて、寝床にした。ロルフ用は離れた場所に作ってねとハディスに念押しされたので、それも木箱を並べて作った。

真ん中の縦長の缶に入った焚き火が上がり、中が暖かくなる。出入り口を赤竜がふさぐ形なっているせいか、暖かくなるのが早い。防寒具の前をあけたジルは手を止めた。

見張りは必要だが、やっぱり赤竜は目立ちすぎないだろうか。

「敵が援軍を連れて引き返してきたらどうします?」

今回、ハディスは敵兵を負傷させているが、すべて見逃している。目立つには、目撃者がいなくては話にならないからだ。

「奇襲ってこと? この簡易コンロ、便利だな」

魔術を起動させれば動く携帯コンロは、クレイトスでは旅の必需品だ。逃げ出した兵が忘れていった鍋を火にかけてるハディスの呑気さに、ジルは少々むくれる。

「そうです。陛下はちゃんと寝なきゃ駄目でしょう。今日はいっぱい戦ったし」

「君がいれば平気でしょ」

「もちろんです! ――じゃなくて、赤竜には休んでもらって、わたしが見張りしたほうがいいんじゃないですか。わたし、今日、陛下についてただけだし……」

木箱に座って材料を切り始めたハディスが顔をあげる。ぷいっとジルは顔をそらした。

小さく笑う声がした。ジルは赤くなって、怒るふりをする。

「笑いごとじゃないですよ! リステアード殿下だって戦ってるんです」

「竜から報告受けてるよ。兄上は無事。相手の数は少ないけど、南国王の対空魔術が手強いみたいで落としきれずにいる。進軍は止めたけど、追い返せてはいない。要は拮抗状態」

陸に近づくほど陸側から攻めてくる北方師団からの攻撃が激しくなる。ならば、南国王は体勢を整えためにも二、三日は補給などに務める可能性が高い――定石では、だが。

「……せめてわたしだけでもベイルブルグに行くとか……」

「僕のこと置いてくの?」

「なら陛下はわたしの背中についてきたらいいじゃないですか!」

ジルはどすんと音を立ててハディスの横に腰をおろす。ハディスが苦笑い気味に、足元の籠から取ったじゃがいもの皮を剥いている。

「僕だって、君においしいご飯作って待ってたいよ。そうできるならね」

「……だめですね、わたし。こらえ性がなくって。むやみやたらに突っ込んでいっても解決できないってわかってるんですけど――」

「おいこいぴよぴよども、引っかかったぞ!」

出入り口からロルフの叫ぶ声が聞こえた。

ジルとハディスは顔を見合わせて防寒具を着直して、入り口の真っ白い布を開く。フリーデンの大きな体躯をよけると、もう暗くなってしまった空に一筋、頼りない白い煙と丸い光が上がって、音を立てて散った。救援要請ではない、ただの照明弾だ。だが続いて断続的に、ちかちかと火花のような光が散っている――魔力だ。

誰か戦っている。

「行くぞ! フリーデン、三人乗せて飛べるな」

「でも、あっちってもうクレイトス国内じゃないですか?」

戦闘は国境よりかなり向こう側で起こっているように見える。ロルフが笑う。

「つまり敵の敵っちゅうことじゃろ。竜帝がいると聞いて賭けに出たのかもしれん。助けて損はない。言い訳なら救難信号かと思って駆けつけたら違ったでいいじゃろ!」

「わかりました。あ、でもごはんは!?」

「あとにせい!」

そんな、と絶望するジルの口にハディスがひょいと飴を投げ込んでくれた。目をぱちぱちさせている間に抱き上げられ、フリーデンに飛び乗った。

空を進んですぐに、国境らしきものが見えた――植物だ。クレイトス王国側は、ラキア山脈の山頂付近ですら木が育つ。低木が生える上空はもうクレイトス王国内とみればいい。

国境付近に人影はなかった。ハディスの報告も兼ねて後退したのだろう。

あっとジルは声をあげる。

「国境を越えるなら、対空魔術が――っ」

言う前にきた。魔力が、雪を反射して目をくらませる。だがそこから飛んできたいくつもの魔力の直線を、見事にフリーデンはよけてみせた。

しかし、次々に木々の根元、白い地面から魔法陣が浮き上がり始める。まだ牽制レベルのはずだ。国境内に深く入りこんでいくほど、威力もあがる。クレイトスの魔術士も対応に出てきてしまう。

「陛下、これ以上はフリーデンが危険です! わたしたちはおりて――」

ぐん、とフリーデンがいきなり速度をあげた。おそらく対空魔術が狙いをさだめるよりも早く、飛んでいく。魔力が断続的にあがる空が近づいてくる。

「ははっ、さすが帝国軍にこのひとありと言われた将軍の騎竜――おい、なんじゃ」

ハディスがロルフの首根っこをつかんだ。

「ここまででいい、戻れ」

ありがとな、とラーヴェの声もどこかから聞こえた。

「おいちょ、まさか――転移しろ、転移いぃぃぃぃ!」

ジルを片腕に抱いて、ロルフの首根っこをつかんだまま、ハディスが飛び降りる。ロルフの叫びが尾を引く空をフリーデンが横切り、対空魔術をかいくぐって遠ざかっていった。

「ありがとう!」

叫んだあとで、ジルは目下を素早く確認する。武装したクレイトス兵からの攻撃を、前に出た者が魔術を重ねて結界で守っている。そのうしろに固まって、老人や子どもたちが身を寄せ合っていた。

(難民か!?)

解せないが、非戦闘員が終われているのは明らかだ。ジルは叫ぶ。

「陛下、ここはわたしがいきます! ロルフと彼らの保護をお願いします!」

「わかった、気をつけて」

上、と誰かが地上から叫んだ。

ハディスに目がいかないよう、暗くなった夜空にジルは竜妃の神器を輝かせる。クレイトス兵が顔をあげ、あとずさった。

この攻撃の軌道も読まず逃げようとするのは、サーヴェル家の人間ではない。

一撃、黄金の剣を誰もいない雪面へ目がけて、振り下ろした。地響きに似た音が鳴り、雪が舞い上がって視界が白くなる。その中から飛び出て、とりあえず近場にいるものから殴り飛ばしていく。背後からの剣は同じ剣で受け止めて、そのまま踊るように回し蹴りをした。

左手で落ちた剣を拾い、右手で竜妃の剣を構えて、ジルは笑う。

「さて、竜妃がお相手する時間だ」