軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アンサス戦争【若者よ、英雄となれ①】

「なんだこの請求額はーーーーーーーーーーーーーーー!」

「フェアラート自慢の最新鋭軍艦入ってますからねえ。お高いのは当然です」

三日後にはこのベイルブルグ港にお届け予定、とモーガンが請求書をひらひらさせて、アーベルに見せつける。

「これでもお安くしたほうですよ、他にも色々まとめてお買い上げいただいたので。いや~戦争って儲かりますねえ」

「もう少し下げられるだろう、このあたりの格落ちは」

「お、値切ります?」

「値切るに決まっている、こんな額!」

ばん、とアーベルが机を叩き、迎え撃つようにモーガンが笑う。

「ベイルブルグにはお金があると思ってましたが……?」

「挑発にはのらん、だいたいこのあたりゴミだろうが! ゴミに値段をつけるな!」

「ははは、次期ベイル侯爵ともあろう御方がこの価値をおわかりでない。これはフェアラートの技術を渡すようなものなんですよ? 本来ならお渡しできない品です」

「今すぐ使えんだろうが! 今から戦争するというのに、技術も何もあるか」

「とは言われてもね、これ実はレールザッツ公からの注文でもあって」

「ならレールザッツ公につけろ。ベイル家は関係ない」

「って言われてもね、三公に気取られないようにとなるとあなたに請求するのが一番ですから」

「それにかこつけて余分な請求もしているだろう、お前!」

やりあうアーベルとモーガンの声にもすっかり慣れてしまったゲオルグは、ふたりの間で詰まれている商品の目録に目を通す。

フェアラート製の最新鋭の軍艦は一隻。他は格落ちの船が何隻か。これに帝国軍の軍艦――ベイルブルグに停泊しても不自然でない数が加わる。あとは、ベイルブルグが自衛のためにもっている軍艦もどきの船が何隻か。

(奇襲とはいえクレイトスと戦うには、とてもたりない。イゴールもわかっているだろうに)

帝国軍は動かせる、兄は何も言わない――そう報告したゲオルグにイゴールはただ了承を返した。誰がどうこう、責任を追及している場合ではない。そもそもイゴールも父であるレールザッツ公の不手際がある。モーガンも同じだ。

上世代が見逃そうとしている過ちを正そうとしている、奇妙な連帯感があった。

ゲオルグは今回の件に利害がなさそうなノイトラール公に連絡を取ろうとしたが、それはイゴールの反対で止まっている。いわく、ノイトラール公は暗躍に向かないらしい。クレイトス相手ならば、単純に助けがほしいとき助けてくれと連絡をとるのが最善だそうだ。そこで名誉挽回させればいい。

クレイトスの介入を見逃したと公表すれば、三公――特にレールザッツ公とフェアラート公に恥をかかせる。一方でこのふたりは、その介入がラーヴェ皇帝メルオニスによるものだとも勘付いている。

どこにも恥をかかせず、クレイトスが悪いという筋道と結果を作らねばならない、とイゴールは言った。それが政治だと。ゲオルグも賛成せざるを得なかった。

問題はどうやってそうするか、だ。

いちばん簡単なのは、クレイトスを出し抜いたという筋道だ。三公も皇帝もクレイトスの介入と分断工作に気づいたが、その策にのっているとみせかけて、クレイトスに反撃した。いくらあの文書があろうが、交渉不可能な状況にしてしまえばいい。

だが、これが難しい。まず、勝たなければ話にならない。そして、実際は三公も皇帝もクレイトスの策にのって利を得ようとしているので、協力を仰げない。そもそも説得している間にクレイトスに勘付かれれば、先手をとられてしまう。

結果、自分たちでクレイトスに勝たなければならないというとんでもない無茶振りが降りかかってしまった。

目の前ではアーベルが請求書の額を書き換えようとし、モーガンがそれを止めている。ふたりとも優秀だ。このぎりぎりの状況下で三公からたくらみを隠す偽装も、物質を調達する力もある。だが、地上であれ海上であれ、国境を越えれば待ち構えているのは竜殺しの一族・サーヴェル家。その防衛線を突破したうえ、クレイトスに致命的な一撃を与えねばならない。

クレイトスに戦争で勝つなど、千年の歴史の中で竜帝しか成し遂げていない偉業だ。だが、できないとは思いたくない。

ただゲオルグたちは圧倒的に兵が、戦力がたりないのも事実で――

「お悩みですか、ゲオルグ様」

ひょいと飛びこんできた美術品のような顔に、つい身を引いてしまった。ラースだ。お茶を運んできたらしい。そういえば帝城から遅れて今朝、戻ってきたのだった。

「いや――お前、戻ったばかりだろう。休まなくていいのか」

「それどころではないでしょう。メルオニス様のことならご安心ください」

「……わかっている」

ゲオルグたちの動きに三公もクレイトスも気づいた様子がない。兄が黙っているからだ。

だが、それは――兄がもう、何もかもを見限ってしまったからなのではないだろうか。確かめる時間も勇気も、今のゲオルグにはない。

「信じてらっしゃるんですよ」

ゲオルグの不安を見透かしたように、ラースが答えた。にこりと笑うと、この男はとたんに人なつっこくなる。

「自分が情けない、とおっしゃっていました。弟に頼ってばかりだと」

「そんなことを、兄上が?」

「すべてうまくいったら、もう一度会って話がしたいと言っておられましたよ。アーベル様とも、もう一度やり直す機会があるならと」

目をあげたゲオルグに、ラースが微笑んで頷く。気づけば、アーベルもモーガンもこちらを見ている。

目頭を押さえるようにして、ゲオルグは深く息を吐き出す。

「――助かった、ラース」

本心だった。あのときラースが兄をなだめてくれなければ、もっとこじれていたかもしれない。いえいえ、と笑ったあとで、ラースが眉尻をさげる。

「でも、問題はこれからですよね。僕は、ここにいる方々ならきっとなんとかなるとは思うんですけれど……そういえば、イゴール様は?」

ばあんと扉が派手な音を立てて開き、何かが部屋に放りこまれた。人――まだ幼い顔立ちの残る少年だ。執務机の前面で後頭部を打ったのか、イタタタ、と声があがる。

「何すんだよ、クソ兄貴!」

「この期に及んで逃げようとするからだ、クソガキが!」

「ちょっとベイルブルグ見てこようとしただけだって」

「そう言ってもう二度と戻らんだろうが」

「……イゴール殿。その子どもは?」

子どもの襟首をつかみ、イゴールがゲオルグに一礼してから答える。

「愚弟です。ロルフ・デ・レールザッツ。これでも十八です、子ども扱いしなくてよろしい」

「三男坊ですか。あの、出来損ないと有名な――」

目を丸くしてつぶやいたモーガンに、そうそうと頷いたのは当の本人だった。

「完璧なレールザッツ公爵家の唯一の汚点、出来損ないってのはこの俺のことだよ、そういうわけでさよーな……離せよ兄貴!」

「天才です。こいつならクレイトスを落とせます」

全員が、イゴールに襟首をつかまれてばたばたしている少年を見た。