軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三次ラキア聖戦【南国王の動乱②】

アルカは、その矜持にかけて南国王の後宮を、街を燃やし尽くした。ロレンスの報告でやってきた王太子軍の仕事は、もはや後宮に攻め込むよりも救助活動が主になっていた。

ジェラルドはロレンスを処分しなかった。南国王討伐にあたって後宮はいずれ押さえなければならなかった拠点であり、命令違反はいち早い状況把握と救出活動で帳消しにしてくれたようだ。ジルが何か頼んでくれたのかもしれない。

ジルたちからはこっぴどく怒られた。だがそれだけで、普段と変わりなかった。姉を助けられなかったことについてお悔やみこそあったが、腫れ物のように扱われなかったのはありがたかった。犠牲はつきものだ。たとえ、身内であっても変わらない。そういうことだろう。

あるいは南国王討伐という、国を変える大きな戦いの最中で皆、酩酊していた。

最後まで南国王の思惑は判然としないまま、それでも熱狂的な支持を受け、王太子軍は快進撃を続け、悪役らしく南国王は討たれた。その骸はクレイトス王家の墓地にはおさめられず、エーゲル半島の岬にうち捨てられてた。ジェラルドが父母を一緒に眠らせることを許さなかったのだ。

――けれど。

「……お父様、お母様、仇は取りました」

ジルがひとりで、サーヴェル伯夫妻が埋葬された墓石の前に立っていた。

国境の守人といえば聞こえがいいが、地理的に戦禍に巻きこまれることの多いサーヴェル家は、当主であっても遺体が残らないことが多い。だが、ジルの両親の遺体は上下に分かれただけで、他にほとんど損傷のないまま綺麗に残されていた。まるで、敵に敬意を払われたように。

でも誰も口にしない。南国王を討ったことへの是非を問うに等しいからだ――時間がたてば変わるだろうが、それは歴史をあとから知った者が賢者ぶりたいだけの愚行だろう。

(どうせ、今後次第だ)

ジェラルドが見事クレイトスの平和を守れば、南国王を討ったことは正しくなり、守れなければ間違いになるだけ。

「サーヴェル家は大丈夫ですよ。ちょっとクリスお兄様はあぶなっかしいけれど、お姉様たちが支えますし、わたしも……わたしも……」

か細くなった声が、しゃくりあげに変わる。細い細い雨のような、泣き声。ここまで泣き言ひとつ言わず、両親を「誇りに思う」と南国王討伐の先陣を走ってきた、彼女の。

木陰に同じように隠れているカミラが洟をすする。ジークがしかめ面で、長い長い溜め息を吐く。

ロレンスは空を見あげた。雨のひとつでも降っていればいいのに、こんなときに限って空はすがすがしい青色だ。

「……これで、終わるといいわね、戦争」

カミラがつぶやく。

「お前も泣いていいんだぞ、姉貴死んじまったんだろ」

ジークが怖い顔で優しいことを言う。

「そうですね、考えときます」

「アンタねえ、そういう狸っぷりは直らないわけ?」

「……まぁ泣かれても困るけどな」

「でしょう。……俺には泣く資格、ないですしね……」

「何、命令違反を気にしてるの? らしくなぁい」

「反省したなら、もう危ない連中とはつきあうなよ」

なんのことと聞き返そうとして、察した。アルカのことだ。命令違反のことは部下も取り調べられたし、どこからか漏れたのだろう。実際にカニスから接触があったのは事実だ。否定せずに「ありがとうございます」とだけ答える。

木陰からもう一度ジルを見た。最初は戸惑い気味だった泣き声はもはや大音量に変わり、地面にへたり込んだジルは子どものようにぎゃんぎゃんと泣いている。

「迎えにいきましょうか、そろそろ」

「住民の皆さんに譲るのもあれだし、せっかくの狸軍師の策もあるしね?」

うし、と気合いを入れ直したジークが彼女の好物たっぷりの籠を持って立ち上がる。声をかけるのはカミラだ。そういう役割分担は、自然にできている。

ロレンスたちの姿に気づいたジルがぎょっとして、慌てて涙を擦った。ジークが無造作にタオルを投げ、カミラがあんまり擦っちゃ駄目よと注意する。

「喪が明けて、ラーヴェ帝国と和平を結んで戦争が終われば、ジルちゃんは王太子妃になるんだから」

少し苦い顔でそう告げるカミラは優しい。先に食うぞ、と墓場で籠をあけようとするジークもジルを大事にしている。

(俺は)

――戦争はきっと終わらない。南国王との騒ぎでラーヴェ帝国の情報収集がおざなりになっていたが、竜帝は和平に応じない。

でなければ、アルカ総帥――あの少女が着ていた紫の外套は総帥の証だ――が自らを犠牲に、あんなふうに特攻してはこない。

南国王の奇行も、ひょっとして竜帝にかなわぬと悟った故のものではないか。

何せ、護剣はジェラルドの手に入らなかったのだから。

きっと自分たちはどこかで、あるいは最初から、間違ったのだ。

(それでも君は――君たちだけは)

お前もこい、と言われて足を動かす。いつもどおり、取り繕って。

フェアラート公爵領から出ていたクレイトス王国への亡命船を乗っ取った竜帝が、エーゲル半島で虐殺を繰り広げたのはそのすぐあとのことだった。