軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33

トランプのカードを一枚めくって、ビリーが言った。

「いくらなんでも、静かすぎますなあ」

「日付変わる前に見回りにきてそれきり、もう五時間くらいたったか?」

窓の外はまだ青暗い。カンテラひとつを頼りに床に座って行う三人の神経衰弱は、何かの儀式のようで傍目からは怖い光景だろう。

「いくら魔術で監視できるとはいえ、見回りがきてもいいはずですが。どうぞ」

数字をそろえられなかったビリーにうながされ、ジークもカードをめくる。

「睡眠の邪魔をしない気遣いってことにしとくか?」

実際、窓際の長ソファではハディスが、奧の寝室ではイゴールが、出入り口にいちばん近い椅子ではカミラが横になっている。安眠はできないだろうが、休息は必要だ。

「あちらに動きがあったのかもしれませんね。皇妃候補がクレイトスに向けて出発したなら、街が解放されるのは順当な流れです。でも、出発は日が昇ったあとになると思うんですけどね……アルカは竜を使った夜戦なんてできないですから」

「となると、まだ動くには早計ですかな。儂としては、娘に助けられるような情けない展開はごめんなのですが――あちらにおられる竜帝と違って!」

「気持ちはわかるからでっけー声だすな、おっさん」

「お前もお前だ、ジルの部下だというのに情けなくないのか」

「隊長が俺らより強いのは事実だろ。追いつけるとも思えん。大事なのは、足引っ張らねぇことと、隊長を助けることだよ。今は陛下に無茶させねえことだ」

当てずっぽうでめくったカードがそろう。さっさと次に手を伸ばした。

「あとは、お前らの見張りだよ。敵だからな――チッはずれだ。おい、お前、次」

ロレンスがカードをめくろうとした指を止めた。扉の向こうに気配を感じて、ジークも床に置いた大剣に手を伸ばす。毛布にくるまれて扉の横の椅子で寝ているカミラも、片目をあけていた。ビリーだけがのんびりと、顎に手を当てた。

「大した相手ではありませんな。――おや」

扉の隙間から、紙片が差し込まれる。それだけで扉は叩かれも開かれもしなかった。

ロレンスがその場のすべてのカードをすべてそろえてめくり、立ち上がった。げえ、とジークは自分のカードを投げ出す。ロレンスの勝ちだ。

「手ェ抜いて遊んでやがったな、お前」

「すぐ決着がついたら楽しくないじゃないですか」

「金蒼の竜翼団からよ」

紙片を拾ったカミラが、こちらに見えるよう紙片をひっくり返した。

「街からアルカ撤退確認済、竜帝陛下に勝利を。ですって」

「女王の件といい、何者なんですかこの集団は? 信じられますかな」

「少なくとも今、そんな偽情報を俺たちに吹きこんで、得をする奴はいないと思いますが」

紙片を確認したロレンスに言われ、ビリーも膝を打って立った。

「ではこのあたり一帯、ひとまず吹き飛ばしておきますかな」

「ふざけるな!」

柔軟運動を始めたビリーに怒鳴ったのは、寝室のカーテンを開いたイゴールだ。

「どこにうちの使用人やら竜騎士団が捕らえられとるのかわからんのだぞ! いっしょくたに吹き飛ばす気か、これだから脳筋一族は! まず扉の魔術だけを壊して状況確認じゃろう!」

「ええい、いちいち細かいことを。これだからレールザッツは――」

カーテンの隙間から、いきなり強烈な光が差し込んだ。同時にがばりとハディスが起きあがる。光は一瞬で止んだが、ジークは大剣を持ったままカーテンを横に開いた。

外は白み始めていたが、まだ暗い。

「ジルの魔力ですなあ。少し遠いようですが」

「となると、クレイトス侵攻は失敗しましたかね。このアルカ撤退情報とも一致します。さて、これからどう動くか――」

「身構えろ」

静かに立ち上がったハディスが、警告した。瞬間、ぐらりと屋敷全体が傾く。

屋敷全体を揺るがすそれは、地震に似ていた。転げそうになったイゴールをカミラが支え、しゃがみ込む。どうにか立っていられるだけのゆれをものともせず、ビリーが突然、すぐそばの壁に拳を叩き込んだ。

上空に向けて放たれたその一撃は、天井も壁も突き抜けて空をつれてきた。ばらばらと天井から降ってくる瓦礫の欠片を見て、イゴールが悲鳴をあげる。

「おま、おまあぁぁぁぁ!」

「止まらんか」

ビリーの険しい声と視線の先に、皆がそろって視線をあげる。

ハディスも空を見あげた。

朝日と見まごうかのような光を放つ、槍があった。ばちばちと音を立てて屋敷を包んでいた結界を吸収し、小刻みに振動している。ビリーの攻撃も吸収してしまったようだ。

「聖槍が……まさか、女神が出てくんのか」

「あれは聖槍じゃない。女神の気配がない」

ロレンスが呆れ顔になる。

「じゃあ、アルカが作った聖槍の偽物ですか。よくもまあ次々やらかすものです」

「でもあれ、絶対、普通の槍じゃないわよ……めちゃくちゃ光ってるし、動きそうだし!」

「聖槍を奪われた理由があれならば、女神の魔力で動く、聖槍を模した槍といったところでしょうかな」

「それはもはや女神だろ」

「……ぎゅ」

小さな小さな竜の声に、皆が口を閉ざした。だが声はそれきり、ローは固く身を丸めてしまう。そんなローをハディスが片腕で抱き締めた。

「――大丈夫、もう少しだ。ジルがきてくれるから、頑張れ」

「陛下、竜の王は我々がお守りします」

進み出たイゴールが、ソファに置きっぱなしのクッションを両手で掲げた。そのうしろには竜妃の騎士たちがついている。

「あとは我々にお任せください。ご武運を」

ローをつれていくわけにはいかない。小さなクッションに小さな竜を乗せ、ハディスはビリーがあけた壁の穴に足をかける。

すると、横にビリーが並んだ。ぎろりと横目でハディスはにらむ。

「邪魔する気か?」

「なぁに、仕事ですよ。会談前に、クレイトスが街を襲ったなどと難癖をつけられてはたまりません。ですな、ロレンス殿」

「はい。俺たちは、女王をさがします。あれが女神の魔力で動いているなら、女王が目覚めれば何か打てる手があるかもしれません」

「勝手にしろ。足手まといにならなければいい」

はっはっはと笑いながら、ビリーが薄く笑う。

「まさか、娘が折れたものが、父親の私に折れないとでもお思いか?」

「僕に負けたくせに。しかも魔力が戻りきってない、役立たずじゃないか」

「お前はどうあっても義父を敬う言い方ができないのか!?」

会話を遮るように、かっと上空が光った。

振動していた槍がゆっくりと、光をまとう赤と青の、二本に分かれる。黒だとばかり思っていたが、そう見えただけでもとは紫の槍だったのかもしれない。

どちらも聖槍と遜色ない魔力を放っている。魔力量にすれば、ひょっとして聖槍二本分か。

(ラーヴェ、いけるか。魔力はどれくらい残ってる)

(半分あるかないかってとこだ。さすがに長時間相手にするのはきついぞ)

だが、愛も理もない。

黄金の光を撒き散らし、交互に混ざり合いながら槍が二本、ハディス目がけて飛んでくる。

右手に現れた天剣を握り締め、ハディスは壁を蹴った。