軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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アルカの拠点が壊滅したようです、という報告をイゴールが知らせにきたのは、本を片手に日当たりのいいテラスでうたた寝をしているときだった。

「――今、なんて?」

「アルカの拠点がひとつ、壊滅しているのが確認されました」

壊滅。しばらく考えて、ハディスは空を仰ぎ直す。ジルだ。

(そうくるかぁ……ひょっとしてめちゃくちゃ怒ってる?)

(なんで怒られないと思ったんだよ。怒られると思ってやったんだろ)

それはそうだけれど、現実に迫ってくるとちょっと怖くなる。そういうものだ。どうやって誤魔化すか、そろそろ考えないといけない。

「教団員は縛りあげられて転がされておりました。今、リステアード殿下が詳しく聴取しているところですが、悪魔の姿をした子どもたちが舞い降りたと震えて話にならないとか」

「つまりジルってことで……ん? 子どもたち?」

ハディスは起き上がり、まばたいた。裡にいるラーヴェも、珍しくローまで膝の上で寝ぼけ眼をぱちぱちさせている。今後を考えての体力温存だ。そういえば、お守り役の鶏がいつの間にか消えていた。断崖絶壁にでも修業にいったのか。

「はい。そう報告がきております。肝心の竜妃殿下は以前、行方知れずのままです」

アルカは何世代と続いているので、子どもの教団員もいる。生まれながらにしてアルカの教えを叩き込まれる、生粋の教団員だ。しかしラーヴェとクレイトスがアルカ撲滅のため協定を結んでから、確実に規模も勢力も弱まっている。さすがに世代交代が難しくなってきて、若者の反乱でもおきたのだろうか。

「新しい派閥でもできたのかな、アルカは。他に情報は?」

「一応、名乗りの落書きが残っておりましたが」

「陛下! いる!?」

なんだか騒がしくなってきた。部屋に飛びこんできた竜妃の騎士ふたりに、ハディスは氷がとけかけた果実水を飲む手を止める。イゴールは顔をしかめているが、今更、礼節がどうこう言うつもりはないようだ。

「次から次に、今度は何」

「女王が見つかったのよ!」

イゴールは顔色を変えたし、さすがにハディスも驚いた。

「ここまで俺が連れてきて、クレイトス側に引き渡した。怪我はないが、意識もない。魔力が枯渇してるだけだって話だが……いつ目を覚ますかわからんそうだ」

「医師を手配しますぞ、竜帝陛下。よろしいですな?」

「向こうに確認とってからね。毒殺とか難癖はごめんだ。それで、女神――聖槍は?」

「わかんないわ。街中で変な集団が現れて、なぜか女王を置いてったのよ。アタシたちはそれを回収しただけ。――『金蒼の竜翼団』とか名乗ってたんだけど、陛下、知ってる?」

ぱちりとまばたいたハディスの前で、ジークが訂正を入れる。

「蒼金の、だろ。最初はそう名乗ってた」

「『蒼金の竜翼団』じゃと!? そやつら、捕まえられたのか!?」

突然叫んだイゴールが、カミラに詰め寄った。

「ソ、ソテーがきてくれたんだけど、逃げられちゃって……どうしたの。何かあった?」

「アルカの拠点の潰した輩どもがそう名乗っている」

「ええ!? こ、こっちに現れたのはまだ子どもだったわよ? 訓練されてたみたいだけど」

「武装してるはずだろ、アルカだって。子どもに壊滅させられるとか、何の冗談だ?」

そのあたりでやっとハディスの頭も回り出した。

ジルかと思った拠点の壊滅をやってのける子どもたち。金に、蒼――内偵が得意な兄は、あの子たちを率いて今秋開校予定の士官学校の校長になるのだったか。

カミラたちのうしろから素知らぬ顔で戻ってきた鶏を見やる。何故か立派な手羽先をぐっと親指を立てたような形にして向けられた。器用な鶏だ。

「今までそんな集団など、聞いたことはない。金蒼か蒼金か知らないが――」

「金蒼だよ」

どっちが先かもめているのが想像できて笑い出しそうになりながら、ハディスは訂正を入れる。公式にはそっちでいいだろう。世の中そういうものだ。

ほんのひととき、ジルのついでで関わっただけの子どもたち。ハディスが主に関わったのは金竜学級の子どもたちのほうだ。天剣を見せてやったら目を輝かせていた。目に見えない竜神を疑わず、どんな姿か理解しようと、ラーヴェの姿絵を描いてくれた。

「他に情報は? なんでもいいよ」

「……なんか陛下に、次はお前だって伝言されたけど」

「陛下に対して脅迫か。しかし女王を返す意図がわかりませんな」

気まずそうなカミラと真面目に考えているイゴールには申し訳ないが、ハディスは噴き出してしまった。

「――陛下。何か知ってるわね?」

「なんにも。僕だって初めて聞く名前だ。わかるとすれば……」

ジルは、子どもたちを率いて本格的にアルカを潰しにかかっているのだろう。まぶたを伏せるだけでその凜々しい姿が浮かぶ。

――次ハ オ前 ダ

「……ジ、ジルがものすごく怒ってるってことくらいかな……どうしよう……!?」

「そこ無策だったの!?」

「竜妃殿下がお戻りになった暁には、今回のことにまったくレールザッツは関与していないと釈明する場を設けさせていただきますぞ」

「だ、大丈夫、ジルはちゃんとわかってくれっ……不安で吐きそう……!」

「洗面器もってこい! おい、水だ、飲め」

ジークに背中をさすってもらいながら呼吸を整えていると、ふとひらめいた。

「ひょっとして寝込めば手加減してもらえるんじゃ……?」

「おう、やってみろ。隊長のお手製滋養強壮飯を食う覚悟があるならな」

「そういうのよくないよね! やめよう」

一瞬で決断して、ハディスは背筋を伸ばした。ジルにとって大事なのは『かっこいいわたしの陛下』と『おいしいわたしのごはん』だ。大丈夫、今から準備すればなんとかなる。

よし、と起き上がり、ペンを取った。

「今から書く食材用意して。あと厨房借りるよ。エプロンどこに入れたっけ……」

「この状況下で出すご命令がそれですか」

「レールザッツが滅んでもいいのか」

「誰が原因だとお思いか!? 陛下、そもそもなぜ皇妃候補なんてものを――……そういえば、皇妃候補はどこへ?」

「レールザッツ竜騎士団の竜が見たいって厩舎に向かったけど、ロー曰くきてないみたい。どこにいるんだろうね」

三人がそれぞれ反応を見せた。優秀な臣下というものは有り難い。ペンを置いて、食材を書き終えたメモをイゴールに向けて渡す。

「これお願い。あとはそうだな、『金蒼の竜翼団』のこともきちんと評価してあげて。僕も竜妃も関係ない以上、公的にはできないけど」

イゴールは渋い顔で嘆息し、メモを受け取った。

「……民衆ウケがいいのは義賊ですかな。使い方は承知いたしました」

こういう狡猾な大人に利用されるのも、いい経験になるだろう。でも、あの子たちにしたら、大人を利用しているのかもしれない。そのくらい強くあってほしい。

「あとは時間勝負だ。焦ったアルカが何かを仕掛けてくるか、その前に潰せるか」

全員が表情を引き締め、慌ただしく動き出した。

「何かしら情報を持っている女王を狙うやもですな。女王の周囲の警護を強化しましょう。私の屋敷で何か間違いが起こってはさすがに面倒です」

「アタシ、狸坊やに話つけてくるわ」

「陛下、お前も例外じゃないぞ。俺は部屋の外で待機しとくからな、なんかあったら呼べよ」

「僕、今から厨房にいくけど」

エプロンを探しながら言うハディスに、はっと三人が顔色を変える。

「邪魔が入らないよう俺が護衛してやる」

「頑張ってね! 頑張ってね、陛下……!」

「食材はすぐに用意し運ばせます。厨房の者には何より最優先でと申し伝えておきます」

「ありがとう、僕、頑張るよ……!」

「そこで全員団結すんのかよ。まあいいけど……どうしてんだかな、嬢ちゃん」

うるさい育て親が飛んできて、肩に止まってつぶやく。

「元気にしてるといいけどなぁ」

「僕はできるだけアルカにはジルの体力を削ってほしいよ」

そうすればおなかがすくから。

発見したいつものエプロンを装着し腕まくりをして、ハディスは厨房に向かった。