作品タイトル不明
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見知った街を歩く足取りで、ロレンスはレールザッツ中央街の大きなカフェに入った。ぐるりと店内を見回したカミラは、明るいテラスの席ではなく少し奥まった席を選んで、ロレンスを壁際に座らせ、ジークと並んで腰かける。
「おい、肉がないぞ」
「ローストビーフサンドで有名ですよ、ここは」
「じゃあそれみっつ」
メニューを渡されたので、ジークはひとりで三人分食べるつもりなのだろう。カミラが適当にパフェを選ぶと、意外にも同じものをロレンスも注文する。「糖分がほしいので」と何も言ってないのに説明された。なぜかジークまで「俺も」と言い出す。
花柄の可愛い茶器が並べられ、上品にナプキンまで用意される。周囲は女性か、カップルばかりだ。男三人が膝を突き合わせて囲むテーブルは、けっこう小さい。どうしてこうなった。
「アルカと接触して行方不明らしいですね、竜妃殿下」
肘をついて注文品を待っていたら、ロレンスがそう切り出した。ジークが短く「さあ」とだけ答える。
「伏せるように命令したのは、竜帝陛下ですよね。どうしてなんだろう」
「ちょっとぉ、聞きなさいよこっちの話」
「だって誤魔化すでしょ。うーん、竜妃殿下の行方不明を伏せる意味なんて……いや、行方不明を伏せたいんじゃなくて……あの皇妃候補って何者なんです?」
いきなり話が飛んだ。ちょっとロレンスの出す答えに期待していたカミラは苦い気持ちを押し殺し、笑顔を作る。
「残念ながらアタシも詳しくは知らないわ。レールザッツに着いたらもう決まってたの」
「……ってことはやっぱり、竜妃殿下はご存じないんですね?」
沈黙で肯定してしまった。いや大丈夫だ、ここはハディスにも何も命じられていない。
「……レールザッツから撤退したほうがいいかな……」
「ちょっおま、不吉なこと言うな!」
「アンタも絶対巻きこんでやるからね!」
「俺、正直もっともめるかと思ったんですよね。捜索隊。女王と聖槍の捜索のために軍を入れるなんて、絶対に竜帝が許さないだろうと思って」
確かに、ハディスの女神嫌いを考えるとあり得る展開ではあった。からからとレモン水の入ったグラスの氷を鳴らし、ロレンスがぼやく。
「そこに時間をとられなかったのはありがたいんですけど……引っかかるなあ。本当に、竜帝はなんのために皇妃候補なんてものをいきなり立てたのか……」
「ただ隊長を怒らせたいだけだろ」
ジークの断言に、ロレンスが両肘を突いて長い溜め息を吐く。
「本当にあり得るもんなぁ、それだけの可能性……」
「悩みなさいよぉ、狸少年」
ローストビーフサンドが、三人の前それぞれに置かれた。カミラはジークのほうに皿を押しやりつつも、ひときれだけ奪って笑う。ロレンスも同じことをした。
「マイナード殿下はどうしてるの」
「報告どおり、お元気ですよ。優雅に滞在中です。早く引き取って頂きたいですね」
「そんときゃマイナード殿下が前に乗ってきた竜もつけてくれよ」
「そこは俺の裁量で決められることではないので」
顔色一つ変えず答えるロレンスから情報を引き出すのは無理だろう。期待はしていなかったが、カミラは鼻白む。
「誘っておいて何も教えない男はモテないわよぉ」
「ご忠告どうも。――でも、新しい情報源は提供できそうですよ」
あっという間にローストビーフサンドをたいらげたジークが顔をあげた。
「なんだ、気づいてたのか」
「状況的にそうかなと思っただけですよ。おふたりともテラス席に行こうとした僕を止めたので。……何かご存じなら詳細を聞いても?」
「公爵邸を出たあたりからだ。見張ってたんだろうな、出てくる奴を」
「交替でつけてるわ。複数みたいね。ちょっと素人とは思えない動きよ」
「……俺ですかね、狙い」
断言はできないが、カミラたちを襲う理由はない。価値があるとすれば、使節団を率いて捜索隊の交渉をするロレンスだけだ。
「アンタ、ジルちゃんのお父さんなしに外にひょいひょい出ちゃだめよ」
「俺がサーヴェル伯つけずに外出したら何か起こるかと思ったんですけど、まさかこうもうまくいくとは」
運ばれてきたパフェを食べながらぬけぬけと言われた。パフェをかきこみながら、ジークが顔をしかめる。
「確信犯かよ。――どうする、捕まえるか?」
「いけます? サーヴェル伯を呼ぶ方法もありますが」
「呼べば逃げると思うわ。お相手はアタシたちで我慢してもらいましょ」
「やっぱりまだまだ無名なんですね、竜妃の騎士って」
「「殴るぞ」」
ジークと一緒に凄むと、ロレンスが笑いながら謝罪した。そしてもなんでもない顔でパフェを食べ終えた。狙われているのは自分かもしれないのに、肝が据わっている。
軽く打ち合わせをして、店を出た。もちろん会計はロレンス持ちである。
「肉がたりねーし仕切り直しもありだぞ。酒はどうだ、お前。いけるのか」
「好きではないので、遠慮しておきます」
「いつかつきあいなさいよ。絶対につぶしてやるから」
肩を組んで笑うと、ふとロレンスが笑顔を引っこめた。
「――いつか、なんでしょうか」