軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「アルノルト・テオス・ラーヴェ。竜と人間が互いを尊重できるよう、竜との意思疎通を図る研究を提案したお人だよ。十年も前の話だけどな。できた皇子でなあ。知ってるか?」

「……名前は、知ってる」

ハディスと目を合わさず、ロジャーは笑った。

「なら話が早い。人間が信じなくても竜が証明してくれれば、竜帝を迎えられるんじゃないかって政治的意図もあったんだ。でも不都合な奴らもいたんだろう。ラーヴェでは結局研究できず、巡り巡って、今、こんな形になっちまった。あんまりじゃないか」

そう言ってロジャーは迷いのない足取りで部屋を出ていった。ひとりで市庁舎に行くつもりのようだ。取り残されたハディスに、ラーヴェが慎重な声をかける。

『どうする。ラーヴェ帝国に戻ってお前が動かないと、そろそろ手遅れになるぞ』

「でも竜が使える状況じゃない。手遅れというならもう手遅れだ。ここで終わらせる努力をしたほうがいい。それに……」

――止めたいんだよ。

諦めたように、でも希望を捨てようとしない横顔が妙に引っかかる。しかもアルノルトという名前を出すとは。

大股歩きでロジャーの背中を追おうと廊下に出て、耳を覆った。笛の音だ、とわかったのはラーヴェが叫んだからだ。

『止めたんじゃなかったのか、どこからだよ!? さっきとは段違い――っ!』

答えるように校舎の壁が竜の羽ばたきで吹き飛ばされた。少し先にいたロジャーが驚いて見つめているのは、赤竜を先頭とした複数の竜。その目はあきらかにロジャーを見ている。

ロジャーは身構えたが、緑竜くらいならともかく、赤竜を含め複数をこんな狭い足場で相手にするのは無茶だ。事実、咄嗟にロジャーが放った魔力込みの一閃は竜の炎に霧散して、足場を崩しにかかられていた。

廊下を蹴ったハディスは、ロジャーの腕を取って隅まで逃げた。かすった竜の爪が、服の裾を破る。ロジャーが目を見開いた。

「くるな! 俺は大丈夫だ、お前は――」

「黙れ」

この竜たちは正気ではない。ハディスを竜帝だと認識しない。命令はきかない。

だが、わかるはずだ――どちらが強者なのかくらいは、本能で。

「引け」

金色の瞳に見定められ、竜たちがたじろぐ。それで少し気を抜いたからだろう。糸のように正確に向かってくる、並の結界ではふせげない魔力の感知が遅れた。

(狙撃!? まさかこの竜の襲撃は囮――)

だが、よけられない速度ではない。どこかしら、かするだけですむはずだった。

ロジャーが、飛び出してきたりしなければ。

ハディスの頬を、赤い粒がかすめていく。魔力が混じった銃声音に、竜たちが驚いて羽ばたき逃げていった。

「……無事、だな」

ただ驚いて見開いているハディスの瞳に、ロジャーが所在なさそうに笑う。崩れ落ちた体を抱いて、ハディスは舌打ちした。ロジャーを肩に背負い、崩れた壁から校舎の外ヘと一気に飛び降りる。限界ぎりぎりまでハディスに気づかせなかったような狙撃手だ。まだ狙っていないとも限らない。

「お前、馬鹿か。僕ならよけられた!」

「……だろうなあ……はは……でも、かばっちゃった……」

ロジャーの声が弱々しいことに焦りが浮かぶ。

地面に着地したところで周囲を見回したが、狙撃がくる気配はない。居場所が見破られるのを警戒してだろう。とりあえず茂みにロジャーの体を突っ込んで、傷口を見る。脇腹のあたりだ。綺麗に弾は貫通しているようだが、魔力の込められた弾丸だった。ロジャーなら内臓を攻撃されないよう自分の魔力で防げるはずだが、その分体力が削られる。血も失い続けている。

「おい、しっかりしろ。お前、僕の正体に気づいてるんだろう!」

「……ああ、うん……途中から、そうかなあ、とは……」

「どうしてだ。アルノルトやマイナードと、お前はどういう関係なんだ。ちゃんと説明もせずに戦線離脱とか、ふざけるな!」

血を塞ぐため、ロジャーの上着を取りあげた。呼吸が浅い。

「もし、グンターとマイナードが、手を、組んでたら……このまま、ラーヴェに攻めこんでもおかしく、ない……お前に、気づかれたのかもなぁ……」

あり得る。さっきの狙撃手は、あきらかにハディスを狙っていた。

「……マイナードには、黙ってたんだが……中途半端で疑われたかな、俺は……」

自嘲気味につぶやいたあとで、ロジャーがハディスの肩を握った。

「ハディス……いいか、よく聞け。もし……もしマイナードが手遅れだったら……止められそうにないとなったら……俺の首を持っていけ。反乱の証拠くらいには、なる」

上着を包帯代わりに傷口を縛っていたハディスは、つい手を止めた。

「エリンツィアあたりが……きっと覚えてる……ヴィッセルや、リステアードは……はは、どうかなあ……七年は、長いからなぁ……」

「お前……」

「……大きくなったな、ハディス」

両目を見開いたハディスに微笑んで、ロジャーが目を閉じる。ラーヴェが慌てだした。

『ハディス! こいつ、大丈夫なのか』

「心臓は動いてるよ。気絶しただけだ……けど……」

唇を噛んだハディスの頭上を、また竜たちが並んで羽ばたいていった。校舎を見張るようにぐるぐる回っている。見つかればまた攻撃してくるだろう。

ライカ大公国の反乱をつぶすのは簡単だ。だが、竜の研究を出回らせるわけにはいかない。

一歩間違えれば、理をまげる研究だ。それがクレイトスの手に渡りでもしたら。

(そうなれば、ラーヴェがどうなるか)

気分を落ち着かせるために額に手を置いて、深呼吸をする。

(穏健派のマイナードまで反ラーヴェに転じるから蜂起に説得力が増す。そのきっかけに士官学校の犠牲は最適だ。だとすれば、マイナードが尻尾を出すのは士官学校の学生が全滅してからの可能性が高い……どうする)

ロジャーを放置するわけにもいかない。ああもう、と八つ当たりしたくなった。

「やっぱり生徒たちなんて全滅させておけばよかった……ジルはすぐ僕以外の人間を守ろうとするから……妻帯者ってつらい……」

『またそれか』

ラーヴェの突っこみを無視して、ハディスは気絶したロジャーを背負って立ち上がる。

重い。めんどくさい。うんざりだ。いっそ更地にするほうが楽だ。けれど、幸せ家族計画を遂行しないとお嫁さんが怒るから、しかたない。

ハディスは妻には跪くと決めているのだ。