軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35

ハディス・テオス・ラーヴェは強い。それをジルは疑ったことはない。かつての未来で十分に思い知ったことだ。何度、戦場でからかうように弄ばれたことか。

だがまさか、今世でも思い知るとは思わなかった。

上から落ちてきた一撃を受け止めきれず、そのまま地面まで落ちて着地で衝撃を流す。すぐさま顔をあげたが、そのときには横からの一閃がとんできた。ぎりぎり長剣でふせぐのは間に合ったが、そのまま横に吹っ飛ばされてしまった。

(くそ、天剣でもないのにこの威力! 微妙に手加減されてるのにも腹が立つ!)

「ジ……っジル先生!」

「ま、魔術部隊、照準合わせろ! 足止めだけでもするんだ!」

「駄目だ、手を出すな!」

ハディスが生徒たちを一瞥したのを見て、叫ぶ。ハディスが片頬をゆがませた。

「慕われてるね、ジル先生」

含みのある声と一緒に落ちてきた一撃は、受け止められた。やっぱり手加減されている。

「なんの、つもりですか、陛下……! っ説明、してください!」

打ち返したジルの剣を軽く受け流して、ハディスがわざとらしく目を大きく見開いた。

「説明? どうして? 僕は君なんか知らないよ」

「はあ!? 妻の顔を知らないなんて、それでも夫か!」

「妻? 妹といったいどうやって結婚するのかな?」

ひややかに言われ、意味を考え、はっとした。いつだったか、ハディスを兄扱いしたような覚えがある。

「――いやまさかそれが原因!? 馬鹿ですか!?」

「ああそう、開き直るんだ。じゃあやっぱり他人じゃないかな?」

しまったと思ったら、もう一度上からの一撃がきていた。両手で長剣を支え、魔力を全開まであげる。足場が円形に沈み、周囲に魔力が奔った。片手で剣を振り下ろしたまま、ハディスがなんでもなさげに言う。

「強いね、さすがジル先生」

いちいち勘に障る言い方だ。おとなしく待ってくれていると思っていたが、ずっとすねていたというわけか。だから、お弁当を渡しにもこなかった。そして妻の知らぬ間にあやしげな連中と付き合うようになったわけだ。なるほど、理解したくない。

「しっ……嫉妬も、ここまでくると、可愛くないですよ……!」

ふんとハディスが鼻を鳴らす音が聞こえた。両足を踏ん張って、怒鳴り返す。

「また踏まれたいか、馬鹿夫! わたしは絶対、お前と離婚なんかしないからな!」

「――君たちが逃げた控えの間の下に、隠し通路がある。片づけはすんでるよ」

む、と視線をあげたが、ばちばち奔る魔力の火花に照らされてハディスの表情はよく見えなかった。

「通路は校舎までつながってる。籠城か隠れるかはまかせるよ。僕は竜をおかしくしてる原因をさぐる。さすがに学生が全員殺されると寝覚めも悪いしね。というわけでせいぜい、僕じゃなく生徒たちを守ってあげれば?」

「まだ言うか、ほんと、嫉妬すると可愛くない男だな……っ!」

「知ってた? 僕は意外とできる男なんだよ」

ふっと両手にかかる重さがなくなったと思ったら、魔力の衝撃波がきた。

「僕の心配はいらないからね、ジル先生」

上空に吹っ飛ばされたジルとは真逆の方向に、ハディスが踵を返す。空中で回転して地面に着地したときには、もう目の前には誰もいなかった。おそらくハディスの攻撃に巻きこまれないために、敵も自主撤退したのだ。

一時的にだが助かったということになる。少しも、嬉しくないし安心もできないが。

「ジル先生! よかった、なんだったんだよ、あいつ……」

「どこも怪我してない!? 大丈夫!?」

「……ああ、大丈夫だ。今のうちにわたしたちも撤退しよう……」

「先生? どうしたの、なんか様子がいつもと違うんだけど……」

「……その部屋の下に、校舎につながる隠し通路があるらしい。さがしてくれ」

えっと生徒たちが顔を見合わせる。すぐさまノインが中に入り、皆で床を調べてみれば、すぐに見つかった。魔力に反応する隠し扉だ。

そして地下に続いている階段には、気絶した兵士たちが縛りあげられていた。

「な、なんだこれ。こいつら、さっきの奴らの仲間だよな? 仲間割れでもしたのか?」

「ジル先生じゃないよな? なんかさっきから様子があやしいんだけど」

疑り深いルティーヤの眼差しに、ジルは力ない笑みを浮かべた。

「……お前は素直でいい子だよ、ルティーヤ……」

「はあ? なんだよ、いったい僕のどこを見れば素直でいい子になるわけ?」

「本当にひねくれてる奴は、自分は素直ないい子だって顔で好き放題する。そして結果の帳尻だけ合わせて、勝ち誇って鼻で笑うんだ……!」

思い出したら殴りたくなってきた。だが今はハディスの誘導にのるしかない。

「全員、今のうちに校舎に移動する! 何をするにも体勢を整えてからだ」

「でも先生。追っ手とか、この先だって待ち伏せとか……」

「いや、ない。あってもわたしが対処できる範囲だ」

できる男とやらの仕事ぶりをみせてもらおうじゃないか。

できてなかったらまた力一杯踏んでやると、ジルは足を踏み出した。