軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ローが突然、耳をふさいだと思ったら竜たちが豹変して人間に襲いかかり始めた。ラーヴェ帝国軍の、ルティーヤの仕業だという。わけがわからない。

だが、こんな馬鹿な話があるか。ジルは拳を振るいながら周囲を見回す。

(対抗戦が終わって、これからってときになんだ!)

幸いなのは、一部とはいえ、生徒たちが動いてくれたことだ。特にノイン――金竜学級の級長が協力してくれているのは有り難い。迷っている生徒が、流されてついてくる。

だが、襲撃の手際がよすぎる。前々から仕組まれていたと考えたほうがいい。となると、長期戦は不利だ。

「ジル先生、観客席下の控えの間、あきました!」

「敵の気配、ありません!」

「よし、いったんそこに避難しろ! 負傷者からだ、戦える者は布陣を崩すな!」

目の前の恐怖から逃げるためだろう、前に出てしまう生徒たちが多い。初めての実践で気が昂ぶっているのだ。こちらに滑空してきた竜を一頭投げ飛ばし、ジルは叫ぶ。

「いいか、わたしより前に出るな! 防衛に専念しろ!」

「で、でも、案外、楽勝っぽくない? 竜も、なんか、統率とれてないし」

興奮で声をうわずらせながら、蒼竜学級の生徒が進言する。

確かに、竜の動きは手当たり次第暴れているという感じだ。だが、そもそもローがいるのにこちらを攻撃してくるという異常事態だ。ローも、ジルが背負った鞄の中から出てこない。

それに、最初の爆発が起こる一瞬前に感知した、あの巨大な魔力の気配。

「油断するな。大物がいる。感じなかったか? ものすごい魔力」

「――っで、でも、ジル先生なら」

「あれは、わたしでも勝てるか自信がない」

ぎょっと生徒たちが顔色を変えた。ジルは静かに言い聞かす。

「今はなりを潜めているみたいだが、お前たちは絶対に手を出すなよ」

「そ、そりゃもちろん……! で、でもジル先生がかなわないなんて……」

「ほんとに……? そ、そいつ、人間なのか……?」

「失礼だな。案外いるぞ、わたしより強い人間は。世界は広いんだ」

そういえば、ハディスはどうしているだろう。この混乱、正体がばれたら大事だ。ラーヴェがついているし、逃げ足は速いから大丈夫だと思うが、それでも不安はある。今のローに連絡を頼むわけにもいかないのが、もどかしい。

生徒たちの安全を早々に確保したら、すぐさがしに行かねばならない。ハディスの判断が必要だ。敵はルティーヤに濡れ衣を着せ、ライカ大公国を蜂起させようとしている。

要は、反乱をたくらんでいるのだ。

グンターの叫びをいったいどれだけの人間が信じるかはわからない。だが、ラーヴェ帝国に対する不満の火種がくすぶっている現状だ。竜に襲われ学生が犠牲になったという状況だけで、一気に爆発してもおかしくない。

それだけではない。いったい竜はどうなっているのか。件の笛の効果だとしたら、誰がどれくらいの規模でやったことなのか。グンターの近くにはマイナードもいたはずだ。彼もどうなったのか――情報がたりない。

だが今は、生徒たちを守るのが最優先だ。特にルティーヤは、絶対に敵の手に渡すわけにはいかない。ラーヴェ皇族が殺されれば、ハディスはライカを攻める判断を迫られる。

「先生、敵が引き始めた!」

「罠の可能性がある、深追いするな! まずは撤退――!」

生徒たちの浮かれ具合を、一閃が吹き飛ばした。

竜の攻撃も何も、比較にならない勢いだ。線引きをするように地面が一直線にえぐれ、土煙があがる。衝撃波を結界でふせいだジルは、煙の中にあるひとつの影に息を呑んだ。

(こいつだ)

兵士たちがさがったのは、こいつの攻撃に巻きこまれないためだ。

「な、なん、なんだ、今の……っ魔力……!?」

「じ、地面が、われて」

脅えた生徒たちが声をあげる。腰を抜かしている者もいた。今ので一気に士気を挫かれたのだ。ジルは舌打ちする。

「わたしが相手をする! その間に全員、避難しろ!」

「へえ? 僕の相手をね」

その声に、ジルの背が凍り付いた。

あがった煙が少しずつ晴れていく。竜が上空からおりてこない。暴走が止まったからではない。おそらく本能的な恐怖からだ。かなわない、逆らってはいけないという本能。

それは正しい。

「ここは僕が引き受けるよ。――全員、さがっていい」

何か肩書きを持っているわけでもなかろうに、当然のように命令する。そして敵でさえ、これ幸いとばかりに逃げていく、その強さ。

とんでもない大物がいると警戒していた。その答えが、大きく吹いた風であらわになる。

「驚きで声も出ないかな? でも僕には予感があったよ。解放軍に入ると決めたときから。敵同士になるかもって……こんな悲しい再会はしたくなかったな」

艶やかな黒髪をゆらし、金の瞳を長い睫でけぶらせる。物憂げな様が大変美しく様になっていた。すらりと引き抜かれた剣先が、青空にきらめく。

「さあ、お相手願おう。紫水晶の目をした先生」

二ヶ月ぶりに再会した夫が、無駄にかっこよく笑う。ぶちっと血管が切れる音がした。

「お前かあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

世界は広い。だが、世間は狭かった。