軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「ジル、つかまって!」

ヴィッセルが振り返るのとほぼ同時に、地上ぎりぎりに飛行したハディスが手を伸ばした。

思わずジルはハディスの手を取ってしまう。

ソテーが浮いたジルの足にしがみつき、一緒にぐんとそのまま持ち上げられた。

「……っハディス、お前!」

「僕をだまそうとした兄上が悪いんだよ! 大丈夫、ジルを送ったら帰ってくるから!」

ジルを鞍の上に乗せて、ハディスが得意げに笑う。地上でこちらを見あげているヴィッセルは、嘆息したようだった。

鞍に引き上げられたジルは、呆然とハディスを見あげる。

「陛下、どうして……」

「だって、ヴィッセル兄上がジルの送別会を企画しても、止めないんだよ? 出立日はまだ決まってないからいくらでも豪勢にすればいいとか言って。あとこいつ」

「ぎゅ」

ハディスがうしろから腕を回したせいで、間にはさまったローがつぶれた声をあげた。

「ジルがいなくなったらお前もさみしいだろって言ったら、にやにやしてるんだよ。これはもう、僕に黙って絶対何かあるでしょ。で、ラーヴェに君を見張ってもらってた」

「まあ、見送りくらいはしたいからな、俺も」

ぽん、と音を立てて目の前にラーヴェが現れた。

「あとローがライカ大公国に行って本当に大丈夫かって、レアから確認がきた」

「ぎゅ!?」

「竜神様を騙そうなんて百年早いんだよ。嫁さんからの信用ないなーお前」

ジルとハディスの間から抜け出したローがすねた顔で、鞍の前を陣取っているソテーと並んで座る。まだ何かネタがあるのか、ラーヴェはローをからかって笑っていた。

ぽかんとしたあとで、ジルはなんだかおかしくなってきた。

「すごいです、陛下。わたし、用意が早くてびっくりしてただけでした」

「でも僕もこんなに早いとは思ってなかったから、ちょっと焦って執務室のテラスから飛び降りて竜に乗っちゃった。リステアード兄上が泡吹いてたよ。帰ったらお説教かも」

「その前にヴィッセル殿下とリステアード殿下が喧嘩してそうです。陛下をだましたのと逃がしたのとどっちが悪いかって」

「姉上が止めてくれるでしょ。あ、でも僕も帰ったら殴られるかな。姉上、そういうところ大雑把だからなぁ……」

「でも、よかった。嬉しいです」

少し体の向きを変えて、ハディスにすり寄る。もう帝城は見えなくなっていた。

「自分で決めたことですけど。でもやっぱり陛下には、見送ってほしかったので」

「……僕はそもそも見送りたくないんだけどな」

「不思議ですよね。この先お別れするってもう決まってるのに、あと一分でも、一秒でも、長くそばにいたいだなんて」

不合理さを訴えたつもりだったが、ハディスの何かに刺さったらしい。ふらりとよろけかけた体を、ジルは黙って支える。

「見送りでしょう。ちゃんと送ってください、陛下」

「わかっ……わかってるけど……っ一昨日といい、最近の君は攻撃力が高い!」

「陛下は三ヶ月の間、防御力を高めたほうがいいかもしれませんね。魔力だってその頃にはだいぶ戻ってるんじゃないですか」

「お、いいなそれ」

戻ってきたラーヴェが頷く。ローは完全にすねてしまったらしく、丸まっていた。その前でなぜかソテーは立派な胸羽で風を受け止め続けている。

「防御力を高めるって、どうやってだ」

「わかんねーけど、目標があるほうが、お互い張り合いも出るってもんだろ」

「雑すぎる……僕は三ヶ月の間、ジルの身長が少しでも伸びることを考えただけで息が止まりそうになるのに、どうしろって言うんだ」

「そういうとこをどうにかしろって言ってんだよ。まあいいや、邪魔しないでやる」

片眼をつぶって、ラーヴェが姿を消した。

顔を見合わせたジルとハディスは、なんだかおかしくなってふたりで噴き出した。