軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10

ジルは背後からハディスを蹴った人物に叫ぶ。

「陛下にいきなり何するんだ、リック!」

「いやだって、よけられると思って……あれっ?」

蹴飛ばした本人が首を傾げているのだから世話はない。

ふわふわした猫のような金髪の頭を傾け、弟のリックが両腕を組んで眉をよせる。ジルよりまだ目線は低い。

「だって竜帝だろ? なんで蹴られてんだよ、どっか体わりぃのか。それとも実は弱い?」

「偽者、という可能性もなくはない」

リックのうしろから出てきたのは、双子の弟アンディだ。

リックそっくりの顔立ちだが、髪の分け目が逆で、眼鏡をかけている。声色もそっくりだが、口調は落ち着いたものだ。

「大体おかしいと思わないか、ジル姉が人質じゃなく、彼氏を連れて帰ってくるなんて」

「やっぱりそうか! いやーだまされるところだった。慌てて帰ってきて損した」

「何がやっぱりだ! そもそも人をいきなり蹴るな! 陛下、大丈夫ですか」

野菜の入った木箱を守って倒れているハディスの所へ駆けよると、ハディスはのろのろ起き上がった。

「う、うん。大丈夫だけど……リックって」

「はい。わたしの双子の弟です。前髪が右わけのがリックで、左わけで伊達眼鏡をかけてるのがアンディ。ふたりとも、挨拶しろ!」

えー、と唇を尖らせつつ、先に向き直ったのは陽気なリックのほうだ。

「リック・サーヴェルでーっす。次男ってことになんのかな。こいつとは双子」

「アンディです。三男。姉がお世話になってます」

「あ、どうも……」

礼儀正しいアンディの態度につられてハディスが頭をさげている。だがジルは忘れない。

「あと謝罪! リックも、アンディもだ」

「なんで俺まで? 蹴ったのはリックだよ、ジル姉」

「お前は止めなかったんだろう。なんならけしかけたんじゃないのか」

「せいかーい」

笑うリックをアンディがにらんだが、もう遅い。計算のできるアンディは、率先して頭をさげる。

「大変失礼しました。姉がつれてきた男性がどんな人物かつい、確認したくて」

「ごめんなー思いっきりやっちゃったけど、兄さん大丈夫?」

人なつっこいリックはハディスに手を差し伸べている。九歳の子どもの手をおずおず握り返して、ハディスは立ちあがった。リックは立ちあがったハディスの回りをぐるりと回る。

「すっげーイケメンだな、兄さん。なぁ、どうやってあのジル姉を黙らせたんだ?」

「あなた、ジル姉にだまされてませんか。大丈夫ですか。相談のりますよ。無料で」

「え、ええと……ジルあの、僕、どうすれば」

「おっと、ジル姉呼ぶのはなしだぜー? 男同士の話ってやつだよ」

「そうですよ、せっかくですから」

物怖じしない少年に囲まれて、ハディスが困惑している。なぜだか脅迫か詐欺で金を巻き上げられる構図に見えて、ジルは弟たちを追い払う仕草をした。

「陛下に近寄るな。遊ぶんじゃない」

「うっわひっでー。ま、いいや。竜帝ってこんなやつなんだ、ふーん」

「百聞は一見にしかずと言うしね。参考になったよ。野菜運んでるの? 手伝うよ、リックが」

「俺かよ」

言いながらも笑ったリックが、野菜の入った木箱をひょいと持ち上げる。魔力を使っているので軽々だ。ハディスが慌てた。

「い、いいよ。僕が持つよ、大人だし、その、君達のお姉さんの彼氏だし! それにまだ自己紹介してない――」

「え、面倒だからいらね」

「同じく。どうせあとからやるんでしょうし、そのときでいいのでは?」

ふたりに拒まれたハディスがあからさまに傷ついた顔をする。だが、リックはすぐにハディスに手を出した。

「それになんか兄さん、あぶなっかしいし、俺が荷物持ったほうがまし。次、どこだよ?」

「え……お肉が、ほしいんだけど」

「じゃあこっちだな。ほらいくぞ、ついてこいよ。俺がいれば変なのにもからまれねーから」

戸惑っているハディスの手をつかんで、リックが歩き出す。悪戯好きだが面倒見のいい兄貴分なのだ。手を引きずられながらうしろを振り向いたハディスに、ジルは声をあげた。

「手伝ってもらいましょう、陛下」

「い、いいの?」

「俺がいいっつってんだからさー。それとも嫌なのかよ、うわ傷つく」

「そ、そんなことはないけど!」

「なあ、あんた料理うまいってマジ? ジル姉の献立手紙、めっちゃ羨ましかったんだよなー俺。カレーって聞いたけど、どんなやつ?」

笑いかけられてようやく緊張がとけたのか、ハディスがカレーについて説明を始めている。

あれなら放っておいても大丈夫だろう。

「アンディはどうする?」

「仕事の報告しないといけないんだけど……リックはああ言い出したらきかないし、つきあってからにするよ。それにしても意外だった」

「お前も何か言い足りないのか、わたしと陛下に」

拳を開いたり握ったりしながら笑顔で尋ねると、白けた視線を返される。

「こんなところに護衛も何もなしに、よく竜帝をつれてきたね」

「別にいいだろう。まだ開戦したわけじゃない」

「相変わらず考えなしすぎるよ、ジル姉。いいの、リックを止めなくて。洗いざらい、ラーヴェ帝国の機密を吐かされてもおかしくないよ」

アンディの忠告に、ジルは苦笑いした。

「心配してくれてるのか」

「そりゃ、姉さんが色ぼけてる可能性があるとなればね」

先を進むハディスはリックと楽しそうに話している。リックも相づちを返したりからかったりと、言葉巧みに会話を誘導していた。それを警告してくれるアンディは、ある意味ジルに水面下での交渉にかかっているのかもしれない。

なぜなら、リックとアンディのふたりは、既にこの年齢で諜報めいた仕事をまかされているのである。

「じゃあ、確かめてみればいい。わたしが色ぼけているだけかどうか」

「……自信があるんだ?」

「もちろん。きっとお前たちは陛下に平伏すぞ」

計算高いアンディはそのまま会話を打ち切ってしまった。

だが、ジルの宣言はその日のうちに実現する。

初めてのカレーをひとくち食べたリックもアンディもあまりのおいしさに感動してむせび泣いたからである。