作品タイトル不明
瀬戸のダメ出し
初撮影からニ週間が経過した。
静岡ダンジョンでのソロ生活は順調そのものだったが、並行して始めたダンチューバー活動の方は順調とは言い難い惨状だった。
悠太が開設した『KYチャンネル』の同時視聴者数は、いつ見ても安定の「0」。
動画の再生回数も10回前後を推移しているが、自分のチェック用も含めれば、他に誰か一人でも見ている人間がいるのかすら怪しいレベルだ。
(まあ、この世界はそんなに甘くないよな。地道に攻略を進めるのが本分だし……)
すでに撮影していることさえ忘れかけていた悠太だったが、その日の深夜、第六階層でいつものように罠を仕掛けていた時、モニターの端に劇的な変化が起きた。
【同時接続者数:1】
「!?」
悠太の心臓が跳ね上がった。ついに、ついに「0」の壁を突破したのだ。
見知らぬ誰かが、自分の地味な罠使いの配信を見に来てくれた。その事実だけで、これまでの苦労が報われたような気がした。
悠太は柄にもなく舞い上がり、ドローンに向かって大袈裟に手を振る。
「あ、ありがとうございます! 見てくれてる方がいるなんて…。えっと、これからロンリータートルを、ちょっと変わった方法で倒そうと思うので、見ていてください!」
画面の向こうの「名無しさん」に向けて気合十分にアピールする悠太。
しかし、ドローンのスピーカーから返ってきたのは、期待していた初見リスナーの反応ではなく、聞き覚えのある女性の声だった。
『お久しぶりです、甘露寺さん。その後、ドローンの調子はいかがでしょうか?』
「……えっ、瀬戸さん?」
悠太はガックリと肩を落とし、膝から崩れ落ちそうになった。唯一の視聴者は機体の性能を確認しにきた貸し主である瀬戸だった。
「なんだ、瀬戸さんか。もう、めちゃくちゃ緊張しちゃったよ」
『ふふ、それは失礼しました。ちょうど通知が来たので覗いてみたのですが。ダンチューバー活動の方は、いかがですか?』
「……機体は最高。でも、中身の方は全然。誰も見てくれないし、才能ないのかもって思ってるところだよ」
悠太が弱音を吐くと、瀬戸は少しの間を置いてから言った。
『……誰も見ないというのは、この最新機種の宣伝としても少々困りますね。少しお待ちください。これまでにアップロードされた動画を数本、拝見させていただきます』
それから数分間、ドローンの向こう側で瀬戸が過去のアーカイブを精査する沈黙の時間が流れた。悠太はなんだか、テストの採点結果を待つ学生のような気分で所在なく地面を蹴り、瀬戸の報告を待つ。
やがて、再び瀬戸の通話が繋がった。普段の接客時は終始丁寧な敬語を崩さない瀬戸だが、スピーカーから漏れてきた第一声は驚くほど冷徹で容赦のない罵声に近い批評だった。
『甘露寺さん。率直に申し上げますが……ゴミですね』
「えっ、ちょっ、瀬戸さん?」
『まず、カメラが引きすぎです。風景を撮りに来たんですか? あなたが何をしているのか、豆粒のように小さくて全く分かりません。視聴者が求めているのは「罠使いの戦い」であって、「静岡ののどかな風景」ではありません』
瀬戸のダメ出しは止まらない。言葉遣いこそ丁寧だが、その内容は一ミリの情けもなかった。
『罠発動時に、なぜあなたの顔のアップなんですか? 最大の見どころでしょう。ネズミ男のアップなど必要ありません。しかも、カメラが寄ったと思ったら、すでにそこには穴も何もない。タイミングが致命的にズレています。罠の設置、誘い出し、発動がメイン。仮面をかぶったあなたのキメ顔など不要です。この流れが一つも成立していません。正直、あげだしたらキリがないほど酷い。カメラの性能を完全に殺しています』
「ううっ、そこまで言わなくても……」
『いいですか。最新AIを積んでいると言っても、指示を出す主人がこれでは宝の持ち腐れです。あなたが「かっこいい」と思っているシーンと、視聴者が「見たい」シーンは根本的に違うのです』
深夜の静かなダンジョンで、悠太は五百万から流れてくる怒涛のダメ出しを浴び続け、かつてないほど小さく縮こまっていた。
罠の腕前は上がったかもしれないが、「魅せ方」という高い壁に、悠太は早くも打ち砕かれようとしていた。