作品タイトル不明
林の攻防
先に飛び出した一頭のグレーウルフのわき腹を、木の幹に出現した『瞳』から放たれた魔素の銃弾が貫いた。
衝撃に耐えきれず、狼が横転する。
しかし、そこには爆音も火薬の匂いもない。ただ、空気をかすかに震わせる魔素の波導があるだけだった。
それを合図に、林のあちこちに配置された複数の目が木から木へと目まぐるしく移動を開始した。悠太を視認し、その喉笛を狙おうとするグレーウルフたちを逃さず次々と狙い撃っていく。
悠太はじっとその光景を観察していた。
(……やっぱり、一発一発のダメージはそれほど大きくない。それに、次が発射されるまでの間隔も思ったより長い)
進入試験の時は初起動の意外性が勝ったが、継戦能力という点ではまだ課題が多い。倒れたグレーウルフはすぐに起き上がり、自分を撃った「何か」を探して周囲をキョロキョロと見渡す。
しかし、無音で放たれる攻撃の正体がつかめず、そこには木々に浮かぶ不気味な瞳があるだけだった。
再び悠太へと意識を向け、獲物をロックオンした瞬間にまた撃たれる――。
そんな不可解な現象が繰り返されるうちに、狼たちは次第にパニックに陥っていった。本来の標的である悠太をそっちのけで、不規則に動く『目』を狂ったように追い回し始める。
悠太はその隙を逃さなかった。
あえてウルフたちの視界に入るように移動し、注意を引きつけながら林の中を縦横無尽に駆け巡る。スーパーネズミシューズの驚異的なグリップ力が、複雑な地形での急旋回を可能にし、手負いの狼たちの追撃を嘲笑うかのようにかわしていく。
そうこうしているうちに、最初の三分が経過した。
林に張り付いていた不気味な瞳たちが霧のように消え、断続的だった銃撃がピタリと止む。
視界に残ったのは、四頭いたうちの二頭。残りの二頭は蓄積したダメージに耐えきれず、光の粒子となって消えていた。
「よし、二回目だ」
悠太はすぐに再構築を開始する。しかし、見えない重圧から解放された生き残りの二頭が、血走った眼で再び悠太へと襲いかかってきた。
だが、その動きは精彩を欠いている。
所々に銃弾を受けた傷跡があり、出血と痛みで自慢の俊敏さが損なわれていた。
「この程度なら、今の俺の足で十分捌ききれる」
悠太は木々を背負い、最小限の動きでウルフの牙を回避し続けた。時にはあえて狭い木の間に誘い込み、強引な方向転換を強いて敵のスタミナを削る。
再構築までの三分間。
それはかつての悠太なら死を覚悟する時間だったが、今の一秒一秒を噛みしめるように時計の針が進むのをひたすら待っていた。
そして、二度目の『ウッルの目』が発動。
再び開かれた魔素の瞳が、至近距離まで迫っていた狼の眉間を無音で撃ち抜いた。崩れ落ちる巨体。最後の一頭も、逃げ場のない視線の弾幕に晒され、ほどなくして息絶えた。
悠太は周囲の安全を確認すると、結局一度も作動することのなかった予備のキューブを静かに回収し、魔素の回復を確認する。
「出番がなくて良かった」
その後も林の中を移動しながら、同じ手順で作戦を繰り返した。
敵を発見し、構築し、逃げ回りながら削り、仕留める。
効率はあまり良くない。魔素の消費も激しい。だが、一戦ごとに『ウッルの目』の術式が自分の中に馴染んでいく確かな感覚があった。
結局、魔素が完全に底をついたところで、悠太は第五階層を後にした。
今回の戦果、グレーウルフ十八頭。
それは、彼がこの階層に足を踏み入れて以来の最高討伐記録となった。
ゲートを出て冷たい外気を感じながら、悠太がステータスウィンドウを確認すると、そこには待ち望んでいた通知が浮かんでいた。
『ウッルの目』Lv2
構築時間:180秒 → 150秒
発動時間:180秒 → 210秒
特殊効果:目の数 +2
「きた!」
構築時間の短縮は生存率に直結する。さらに発動時間が延び、瞳の数が増えたことで、殲滅力も確実に強化されたはずだ。
黙々としたレベル上げの先に、確かな力が宿り始めている。財布の重み以上に、その手応えが悠太の心を熱くさせていた。