作品タイトル不明
即席パーティー結成
第四階層の重厚な鉄扉が閉まり、静寂が戻る。
進入試験を突破した悠太はその場に膝をつきたい衝動を必死に抑えていた。最大魔素量の大半を使い切り、精神的な疲労も大きい。
「今日は、ここまでにしよう」
これ以上の継続は自殺行為だ。悠太はふらつく足取りで第四階層の転送装置へと向かい、一気に地上へと戻った。
ダンジョンの外に出ると、十月の西日が目に眩しい。
身体は重いが、心はどこか浮き立っていた。
あの試験を完封したという自信に加え、この一ヶ月半ほどのオーク狩りで懐はだいぶ温まっている。明日からの第五階層探索に備え、悠太はふと思い立ち、例の場所へ足を向けた。
向かった先はダン研内部にある瀬戸の担当ショップだ。
大きなアーチ型の入口を通り抜け、様々な商品が並ぶ巨大ショッピングモールのような通路を奥へと進む。
瀬戸のショップに近づくと、いつもは暇そうに商品を眺めている瀬戸が、珍しく先客と話し込んでいた。
「……なので、そのお値段では私としてもお出しするのが難しいのですよ」
「そこをなんとかお願い。これからの探索にはどうしても必要なの」
聞き覚えのある、凛としていながらもどこか切実な声。
見ると、そこに立っていたのは如月だった。
彼女たち大輝パーティーは、最近ついに第五階層を踏破し、第六階層へと足を踏み入れたという。しかし、その階層に立ちはだかる「フロアキーパー」は初見殺しで悪名高い難敵。多くの探索者が初めは撤退を余儀なくされる。
万が一の事態に備え、発動させるだけでダンジョン外へ強制脱出できる『帰還石』がパーティー全員分、必須とされていた。
だが、帰還石は一つ50万円もする超高額アイテムだ。
一人一つ、四人分で200万円。流石に高校生探索者が即金で用意するにはあまりに重すぎる金額。瀬戸と面識のあった如月は、少しでも安くならないかの相談と、装備の新調を兼ねて訪れていたようだった。
「おや? 甘露寺さんではないですか。ちょうど良いところにいらっしゃいましたね」
瀬戸が悠太の姿を見つけ、ふわりと微笑んだ。
如月も振り返り、悠太の姿を認めると、少しだけ驚いたように目を丸くする。
「あ、甘露寺くん……あなたもここへ?」
「うん、明日から第五階層に行こうと思って何か役に立つアイテムがないか見に来たんだ」
「第五階層? ということは試験に合格したの?!」
如月は立ち上がり、悠太をじっと見つめた。
その瞳には明らかな興味の色が混じっている。あの苛烈な試験をソロで突破した事実は、彼女の目から見ても驚嘆に値するものだった。
「試験合格おめでとうございます。素晴らしいですね!」
瀬戸が丁寧にお辞儀をしながら、唐突に人差し指を立てた。
「如月さん、先ほどの件ですが、私から一つ提案をさせていただいてもよいでしょうか?」
「提案?」
「はい。明日、私を第五階層の探索に付き合わせてくださるなら、帰還石を原価ギリギリまでお値引きいたします。甘露寺さんも一緒にいかがですか?」
「瀬戸さんが探索に? それに、甘露寺くんも」
如月が不思議そうに首を傾げると、瀬戸はニヤリと意味深な表情で穏やかな空気のまま続けた。
「ええ。私、こう見えて『アイテムドロップ率アップ(大)』というレアスキルを持っておるのです。私が同行すれば、魔石以外のドロップアイテムが驚くほど手に入ります。もう、ガッポガッポです。魔石はすべてお二人のもの。その代わり、ドロップアイテムはすべて私に譲っていただく……これで、お互いに損はないはずですよ」
両手を上に向けガッポガッポのジェスチャーを交えながら話す瀬戸を横目に、如月は少し考え込んだ。
瀬戸のような非戦闘員を護衛するリスクはあるが、帰還石の破格の値引きは魅力的だ。ついでに魔石も手に入る。
「……分かった。でも、大輝くんたちは明日、別の用事で動けないの。私一人で護衛するのは少し不安だけれど」
「ですから、甘露寺さんにもお声がけしたのです。彼のスキルは詳しく存じ上げませんが、如月さんの機動力と、甘露寺さんの試験を突破した実力。それに私のスキル……うふふ、なんだかワクワクしてしまいますね」
瀬戸は悠太に向かって「いかがですか?」と問いかける。
如月もまた、拒絶する素振りもなく、涼し気な眼差しで悠太の返答を待っていた。
「甘露寺くん。もし迷惑でなければ、力を貸してほしい。あなたの戦い方、もう少し近くで見てみたいと思っていたから」
如月の言葉には、嫌味のない純粋な好意が混じっていた。
如月の言葉にまんざらでもない悠太は、少し照れくさそうに頭を掻く。
「俺で役に立つなら、協力するよ」
「決まりですね。ありがとうございます」
瀬戸が嬉しそうに手を合わせた。
「では明日の土曜日、朝九時にゲート前でお待ちしておりますね。楽しい遠足になりそうです」
こうして、異色の三人パーティーが突如として結成された。
ソロ探索者として歩み始めた悠太にとって、それは初めての仲間との探索であった。