作品タイトル不明
着実な進歩
新学期が始まってから早いもので一ヶ月が過ぎた。
季節は秋の気配を帯び始めているが、悠太の日常は変わらず学校とダンジョンを往復する日々が続いている。
悠太は今も第四階層の草原にいた。
大輝たちが夏休みの間に疾風怒濤の勢いで駆け抜けたこの階層を、悠太はゆっくりと、しかし確実に一歩一歩踏みしめるように攻略し続けていた。
「よし、設置完了」
悠太は草原の起伏に身を隠しながら、獲物の通り道に罠を仕掛ける。
この一ヶ月で悠太の主軸スキルである『キューブ』はレベル3へと到達していた。
前までは最大2個までしか設置できなかったキューブも、今では最大3個まで同時設置が可能だ。設置時間も他の罠と同じ30秒まで短縮され、複数同時に仕掛けるなど戦術の幅が広がっていた。
さらに、レベルアップに伴う追加効果『クラック減少(中)』の恩恵も地味ながら効いていた。かつては40%ほどの確率で粉砕されていたキューブだが、今ではその失敗確率が3分の1ほどまで低下している。劇的な変化とまでは言えないが、この数パーセントの違いがソロ探索者には生死を分ける安心感に繋がる。
悠太は草むらで息を潜め、オークが罠の座標に到達するのを待つ。
設置ポイントに敵が足を踏み入れた瞬間、自動的に起動する地雷。
キン!
オークが座標を踏み抜いた瞬間、半透明の立方体が出現し、その巨体を閉じ込める。
「捕食完了。次はあっちか」
魔素消費の激しい『落とし穴』は現在、封印し、最近はもっぱらキューブ一本での討伐がメインだ。
学校が始まったことで、夏休みのように一日中ダンジョンに籠もることはできなくなった。
しかし、最大魔素量は780まで増加し、スキルの消費量も軽減されている。一回の探索で狩れる数は一ヶ月前と比べて格段に伸び、悠太の懐もだいぶ潤ってきた。
第四階層の広大な草原は、隠れる場所こそ少ないが、それは敵にとっても同じだ。
のっしのっしと歩くオークの巨体は遠くからでも目立ち、索敵に苦労することはない。悠太はネズミシューズを活かして風下から忍び寄り、無慈悲にキューブの檻でオークを刈り取っていく。
第四階層に来た時に初めて討伐したオークは興奮していたからか、簡単に『キューブ』を破壊されたが、存在を悟られることなく罠にかけると意外とすんなり成功してくれる。
大輝たちはすでに、この先にある進入試験を突破し、第五階層の奥へと足を踏み入れている。
第五階層からは各階層ごとに本物のフロアキーパーが待ち構えていて、探索者の行く手を阻む。
悠太にとってはまずその模擬試験ともいうべき、第四階層に建造されたダン研製作のテストロボット。
それは新人探索者にとって最初の難関だ。
特にパーティーでの連携を前提としないソロ探索者や直接的な破壊力を持たない支援系・特殊系の探索者にとっては絶望的なハードルとして立ちはだかる。
(万全の状態で挑まないと、あそこは越えられない……)
悠太はメニュー画面を開き、ステータスを確認した。
現在保有しているスキルポイントは『280』
次に取得すべきスキルはすでに決めている。その取得に必要なポイントまで、あと『120』
「あともう一息だ」
空にはダンジョン素材が放つ幻想的な青白い光。
悠太は再びジャージの裾をたくし上げ、草原の先に見えるオークの影へと狙いを定めた。
誰に急かされることもない。ただ、自分だけのロードマップを完成させるために。