作品タイトル不明
遭遇
第四階層での連戦を終えた四人の身体には、心地よい疲労と、それ以上に重い魔素の枯渇が押し寄せていた。
「今日はこの辺にしとくか。魔素も残り少ないしな」
リーダーである大輝の言葉に、剛田と佐々木が深く同意の溜息を漏らす。一番近い転送装置からかなり離れてしまったため、彼らは一度第三階層まで戻り、そこから地上へ帰還するルートを選んだ。
慣れ親しんだはずの第三階層。
しかし、疲弊した身体には緩やかな勾配や剥き出しの岩肌さえも足取りを重くさせる要因になる。
「はぁ、早く帰ってシャワー浴びてぇ」
「だな。……おっと、止まれ」
剛田が短く制止の声を上げた。通路の角から重厚な金属音を響かせて一体の魔物が姿を現したのだ。
「リビングアーマーか。もう俺たちにとっちゃ雑魚だけど、正直、こんな時に相手するのは最高に面倒くせえな」
大輝が忌々しげに剣を抜き、身構える。魔力で動く空っぽの鎧——リビングアーマー。四人の実力からすれば脅威ではないが、物理防御が高く、今の消耗した状態では一撃で粉砕とはいかない。今の彼らにとって手間な相手だった。
剛田が盾を構え、大輝が溜息混じりに踏み込もうとした、その瞬間だった。
キン!
冷徹な音が通路に響き渡り、リビングアーマーの巨体が突如として、曇りがかった立方体に閉じ込められた。
「なっ、なんだ、これ!?」
大輝が驚愕の声を上げ、足を止める。四人が呆然と見守る中、その立方体——『キューブ』は、中のリビングアーマーの質量を無視するように、徐々に、しかし確実に小さくなっていく。
金属が軋み、圧縮される凄まじい音が周囲に反響するが、逃げ場はない。数十秒後、立方体は極小の点へと収縮し、プツンと弾けるように消失した。
後に残されたのは、地面に静かに転がる魔石一つだけだった。
「おい、今の見たか! リビングアーマーが消えたぞ」
「新種のマジックアイテムかよ。それとも、探索者のスキルか?」
剛田が警戒を露わに周囲を見渡すが、そこには静まり返った岩壁があるだけ。大輝は剣を構えたまま舌打ちをする。
「姿を見せないところをみると、干渉されたくないタイプだな。まあいい、誰だか知らねえが、手間が省けた。今の俺たちに構ってる暇はねえしな」
大輝と剛田、佐々木の三人は、不審がりながらも珍しいスキルの持ち主が近くにいたのだろう程度に納得し、足早に転送装置の方へと向かっていった。
しかし、如月だけは違った。
彼女はキューブが消失した後に残った微かな魔素の残り香に意識を集中させていた。
その緻密で、どこか懐かしい正確な術式の構築。そして、あの独特な捕食の感覚。
(……これって、やっぱり)
凛の脳裏に、キャンプで見た甘露寺のスキルが思い浮かぶ。確信に近い予感があった。
(あの時には見せなかったスキル。佐藤さんの教え通り、きっと新しいスキルを手に入れたんだ!)
彼は、こんな短期間で、これほどまでに強力な能力を身につけていた。
「如月! 何してんだ、いくぞ!」
前を行く大輝の声に、凛は「すぐ行く」と短く返した。
その顔には、先ほどまでの疲れを微塵も感じさせない春の陽光のような明るい微笑みが浮かんでいた。
「如月のやつ、急に機嫌良くなってないか?」
「さっきの不思議な現象見て、テンション上がったんじゃない? 女子ってのはそういうもんなのよ」
「そうかあ? まぁ、確かに凄いもん見せてもらったけど。如月の空間系スキルにも似てたな」
不思議そうに顔を見合わせる三人の後ろを、凛はどこか楽しげな足取りでついていく。
「それにしても、あんなの、自分が食らったらと思うとゾッとするな。リビングアーマーがちょっと可哀想に見えたぜ」
「俺らだって切り刻んでんだから同じだろ。やらなきゃやられるだけだ」
「そりゃそうだけど」
一方、通路から少し離れた巨大な岩の亀裂の奥。
悠太は壁に背を預け、胸の鼓動を鎮めていた。
(気づかれなかったみたいだな)
隠れる必要はないが、姿を現す理由もない。
疲れた体で大輝の相手をするのも億劫だったので、迷っているうちに三人の姿は遠ざかっていた。
(如月さんだけ、こっちを向いた気がしたけど……。まあ、気のせいだろ)
悠太はポーチの中の魔石を確かめ、そっと息を吐いた。
「キューブがリビングアーマーにも有効なことは分かった。消費魔素22ってのが予想以上だったけど、落とし穴に比べればマシか」
自分の編み上げた罠『キューブ』が、彼らが面倒だと言った敵を瞬時に喰らい尽くしたという事実は、悠太の心に静かで確かな熱を与えていた。
「さて、あと数体仕留めておこうかな」
悠太は気配を消したまま、四人とは別のルートを通って、次の獲物を物色する。
(リビングアーマーの行動パターンをもっと把握しないと)
より安全に、より確実に。
孤独な罠使いの設計図は、誰にも知られることなく、より洗練されたものへと書き換えられていく。