軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キューブの弱点

新スキル『キューブ』を手に入れた悠太の胸にはこれまでにない高揚感が渦巻いていた。

ダンジョンの薄暗い通路を歩く足取りは軽く、指先には魔素が心地よい熱を持って滞留している。

「次だ。もっと試したい!」

悠太は通路の先、岩影に潜む牙ネズミの気配を察知した。これまでの罠と決定的に違うのは、その自由度だった。

『キューブ』は地面に掘る必要も、置く必要もない。このスキルの真骨頂は空間の任意の座標――つまり空中にも設置できる点にあった。

しかしこのスキルにも、もちろん時間的制約がある。設置から発動までには一分という長い構築時間を要する。

(跳躍してから発動させたんじゃ間に合わないけど…)

牙ネズミが跳んでからでは遅すぎるものの、悠太にはネズミの移動ルートだけでなく、その癖を読み切る判断力がある。

ネズミが獲物を見つけ、威嚇し、地を蹴るまでの予備動作。そこから導き出される空中の一点をあらかじめ予測し、一分前から自分の前に透明な檻を編み上げておくのだ。

「よし、来い」

予測地点に座標を指定し、一分。牙ネズミが獲物を求めて跳躍する。これまでの悠太なら、着地点を予測して『スネア』を敷いて、捕獲してからすぐさま『落とし穴』を設置するしかなかったが、今は違う。

空中で無防備に身を晒したネズミの鼻先に、仕込んでおいた座標が重なる。

キン!

空中に突如として出現した曇りガラスの立方体が、跳ね上がったネズミをそのまま空中で収穫する。空中に固定された檻の中で、ネズミは重力を無視して閉じ込められる。着地点に限定されない利便性は戦術の幅を広げてくれた。

しかし、検証を繰り返すうちに、悠太は新スキルの別の限界にも気づいてしまった。

「壊れた?!」

三匹目への捕食を開始した直後だった。

収縮を始めたキューブの中で、ネズミが必死に壁を蹴った瞬間、ガラスが砕けるような鋭い音が響いたのだ。

立方体は粉々に霧散し、中から這い出したネズミは自由を奪われていた怒りそのままに悠太へと襲いかかってきた。

「意外と、脆いのね……」

一度閉じ込めれば抗う術などない無敵の捕食者だと思っていたが、現実はそう甘くなかった。このスキルはまだレベル1。同時発動数は2つまでに制限されており、何より耐久値が思った以上に低かった。

その後も検証を繰り返した結果、ある明確な数字が見えてきた。

十回設置したうち、完遂できたのは五匹。

残りの五匹は収縮が完了する前に内側からキューブを破壊し、逃げ出してしまう。二回に一回は失敗する――これが今の『キューブ』の現状だった。

「万能じゃない。けど、この消費魔素量の低さは捨てがたい」

消費魔素はわずか「7」。失敗しても痛手は少ないが、一分かけて設置したものが無に帰すのは手痛い。悠太は顎に手を当て、即座に設計図の修正に入った。

(捕食しきれないなら、壊された後の『保険』を作ればいい)

悠太は次に現れた牙ネズミに対し、新たな複合戦術を試す。

まず、ネズミが跳躍する、あるいは通過するであろう位置に『キューブ』を設置。そしてその真下の地面に、『落とし穴』を重ねて構築しておく。

牙ネズミが座標に触れ、キューブが起動する。

パリン! と甲高い音を立ててネズミがキューブを破壊したその瞬間、空中にいたネズミの足元にはすでに『落とし穴』の闇が口を開けて待っていた。

「結局、二段構えか」

悠太は苦笑した。

新スキルを得ても、自分の根底にある慎重さと泥臭さは変わらない。一分かけて用意した『キューブ』が壊されることを前提に、その下に『落とし穴』を敷いておく。それが今の自分に最も適した戦い方だ。

設置した罠は回収も可能なので、キューブが成功したら罠をキャンセルすればいい。発動しなければ魔素が減ることもない。

『スネア』の代わりに『キューブ』を置く。

捕食に成功すれば消費魔素「7」で終わり。

失敗して壊されても、落下した先で落とし穴が捕食する。

結果として、今まで20近く消費していた魔素を節約しつつ、以前と同等以上の確実性を担保できるようになった。

「一歩ずつだけど前進はしてる。むしろ、これが俺の戦い方だ」

悠太はお守りをそっと撫で、再び暗闇の奥へと視線を向けた。

一分先の座標を読み切り、壊れやすいガラスの檻を『絶対の檻』へと昇華させる。

(スキルレベルが上がれば、この弱点はきっと修正される)

新たな課題を見つけた罠使いの目は、特訓の疲れを感じさせないほどに鋭く冴え渡っていた。