軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

久しぶりの団欒

三日ぶりに踏む地元の駅のホームは芦ノ湖の張り詰めた空気とは打って変わり、湿り気を帯びた夏の夕暮れの匂いがした。

改札を出る直前、悠太は駅ビルの中にあるケーキ屋の前で足を止めた。ショーケースの中には、色とりどりの果実が載ったタルトや、濃厚そうなチョコレートケーキが並んでいる。

牙ネズミの魔石を売った報酬はまだ少し残っている。

プロの講師に認められたという確かな手応え。そんな自分への祝いと留守を守ってくれた家族への感謝を形にしたかった。

(結衣は生クリームが好きだったな。母さんはあんまり甘すぎない方がいいか)

慣れない手つきで指を差し、三つのケーキを注文する。包んでもらうのを待つ間、悠太はガラス越しに映る自分の顔を見た。キャンプへ行く前よりもどこか目つきが鋭くなり、探索者としての自覚が顔つきに現れ始めている気がした。

「お待たせいたしました。保冷剤はお付けしますか?」

「あ、はい。お願いします」

少し重くなった紙袋を大切に抱え、悠太は足早に家路を急いだ。

「ただいま」

玄関を開けると、パタパタと廊下を走る足音が聞こえ、母と妹の結衣が顔を出した。

「お帰り、悠太! 怪我はない?」

「お兄ちゃん、お疲れさま〜」

二人の屈託のない笑顔に、ダンジョンで張り詰めていた神経がようやく解けるのを感じた。悠太が「これ、お土産」とケーキの箱を差し出すと、二人は一瞬、顔を見合わせて妙な沈黙を作った。

「……あら」

「実はね、お兄ちゃん。私たちも、お疲れ様会にってケーキ作っちゃってたのよ」

テーブルの上には、すでに『お兄ちゃんお疲れ様』と手書きで書かれたケーキが置かれていた。母と結衣もまた、三日間過酷な場所にいた悠太を労おうと同じことを考えていたのだ。少しだけ気まずい空気になりかけたところで、結衣が無邪気に声を上げた。

「やったぁ! これでケーキいっぱい食べられるね!」

その一言でリビングに笑い声が弾けた。

三人は食卓を囲み、贅沢なケーキ二個食いを敢行する。

「結衣、俺の分も食べていいぞ! でも、俺はこっちのケーキ全部貰うからな!」

二人が作ったケーキを抱え込むような素振りをして悠太が結衣を見る。

そんな悠太を尻目に結衣は『どうぞ、ご自由に』と悠太が買ってきたケーキを抱え込んだ。

母は楽しそうに微笑みながら、悠太のキャンプ報告に耳を傾けた。スキルツリーの本質、圧倒的な魔素を持つベテラン探索者の実力、そして「常に慎重であれ」という教え。

普段は口数の少ない悠太が、今日ばかりは興奮気味に身振り手振りを交えて語り続けた。

母と結衣はそんな悠太の姿をどこか眩しそうに、そして慈しむように見つめていた。悠太が覚醒してからというもの、その背中に背負っていた悲壮感が確かな自信へと書き換えられていくのを二人は感じ取っていた。

ふと視線を落とすと、ソファーの隅に綺麗に洗濯され、丁寧に折りたたまれた悠太の制服が置かれていた。キャンプ前にボロボロだった綻びは、一針一針、細かく丁寧に繕われている。母が悠太のいない間に直しておいてくれたのだ。

「ありがとう。助かるよ」

「いいのよ。あなたは外で頑張ってるんだから、これくらいしかできないわ」

母の言葉が胸に温かく沁みた。

ケーキを食べ終えると、悠太はすぐに装備を確認し始めた。これから一ヶ月以上続く夏休み。それは、学生という身分を最大限に利用して自分を追い込める、またとない特訓の期間だ。

「えっ、もう行くの?」

玄関へ向かう悠太の袖を、結衣が寂しそうに掴んだ。久々に帰ってきた兄ともう少しゆっくり過ごしたかったのだろう。

「ごめんな、結衣。でも、今やらないといけないことがあるんだ。なるべく早く帰るから」

悠太が妹の頭を撫でると、結衣は一度だけ深く頷き、ポケットから小さな袋を取り出して悠太の手の平に載せた。

「これ、持ってって。お守り、作ったの」

手作りの、不器用な刺繍が施されたお守り。中には何を詰めたのか、少しゴツゴツとした感触がある。

「ありがとう。絶対、無茶はしないよ」

お守りをポーチにしまい込み、悠太は陽の傾いてきた街へと飛び出した。

向かうは、いつものダンジョン。

これから始まる夏休みの猛特訓。その第一歩として、悠太には確かめたいことがあった。

佐藤講師に教わった対象による魔素の変動。

より効率的に、より確実に強くなるための方法を彼は脳内で模索する。

妹から贈られたお守りを握りしめながら、悠太は通い慣れたダンジョンへと迷いなく足を踏み入れた。