軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初日終了

キャンプ初日の全プログラムが終了した。

特殊系の講習は他班よりも一足早く切り上げられ、悠太と凛は帰りのバスの最前列に近い、二人掛けの席に並んで座っていた。

窓の外に広がる芦ノ湖の夕景はダンジョン出現後の物々しさを夕闇の中に溶かし、かつての穏やかな観光地の姿を彷彿とさせている。

車内を包む心地よい沈黙の中で、二人の胸には今日学んだことへの確かな高揚感が残っていた。

スキルツリーの本質、ベテランが見せた魔素の奔流、そして「常に慎重であれ。臆病者こそが生き残る」という締めの言葉は、二人の信条とまさに合致した教えだった。

「凄かったね、佐藤さん」

凛が先に口を開いた。普段の冷静な彼女にしては珍しく、言葉に熱がこもっている。

「ああ。正直、自分が今までやってきたことが恥ずかしく思えたよ。でも、同時に進むべき道が少しだけはっきりと見えた気がする」

悠太が答えると、凛は「そうね」と深く頷き、少し視線を落とす。

「……今日は座学がメインだったから、甘露寺くんのスキルを実際に見られなかったのが、少し残念だったな」

「え?」

「だから、明日の実地訓練は本当に楽しみ。あなたがどんなふうに戦場を組み立てるのか、ずっと前から気になってたの」

凛の真っ直ぐな言葉に悠太は戸惑い、気まずそうに窓の外へ視線を逸らしながら、日々の戦いを思い出す。

暗い路地裏でネズミを相手に、冷徹に罠を設置して穴に落とす。そこには凛や大輝が体現するような煌びやかな探索者のイメージなど微塵もなかった。

「そんな期待するほどのもんじゃないよ。俺の戦い方は地味で、陰気で、決して格好いいもんじゃないし」

自嘲気味に呟いた悠太の言葉を、凛は即座に、しかし優しく遮った。

「そんなことない。私はあなたのそのひたむきな努力を尊敬しているの。甘露寺くんは誰よりも自分の弱さを知っていて、それを補うために努力してる。罠スキルにだって、きっと無限の可能性が秘められてる。……正直に言うと、私、あなたみたいなスキルが良かったって本気で思ってるの」

真剣な眼差しで凛は悠太の横顔を見つめた。

学校中の憧れの的であり、圧倒的な才能を持つ彼女が、自分のハズレスキルを肯定し、あまつさえ羨む。その言葉は悠太の心に巣食っていた劣等感を温かい勇気へと変えていった。

「如月さんにそう言ってもらえると、少し自信が出るよ。ありがとう」

二人がそんな穏やかな時間を共有しているうちに、バスは他の班が待機する合流地点に到着した。

扉が開き物理系と魔法系の班が乗り込んでくると、車内の静寂は一気に騒がしさに塗り替えられた。

「チッ! 何だよあいつら。こんな前の方でカップルみたいに」

通路を通る松坂大輝が真っ先に目に入る位置に座る悠太と凛に気づき、あからさまに不快感をあらわにした。顔を真っ赤にして拳を握りしめるが、引率の教師がすぐ後ろから乗ってきたため、その場では舌打ちをするにとどめて自分の席へと向かった。

やがてバスがホテルに到着し、生徒たちが次々と降りていく。

悠太が自分の荷物を持ってロビーを歩き出したその時、背後から荒々しい足音が迫り、大輝が悠太の肩を強く掴んだ。

「おい、悠太」

「……何だよ」

大輝は、燃えるような瞳で悠太を睨みつけた。そこにはいつもの小馬鹿にしたような笑みはなく、剥き出しの敵意と対抗心が宿っていた。

「お前に如月は相応しくねえ。……明日の実地訓練、そこで証明してやる。俺の力がどれだけ優れているか。おまえにだけは絶対に負けん」

それだけを言い捨てると、大輝は乱暴な足取りでエレベーターへと消えていった。

残された悠太は、ぽかんとした表情でその背中を見送る。

(負けないどころか……スキルも魔素量も、あいつの方がすでに上なんだけどな。一体何を競ってるんだ?)

大輝の執着の理由が全く理解できず、悠太は不思議そうな顔で首を傾げた。今の彼には大輝の怒りの矛先が何かなど知る由もなかった。

「甘露寺くん、行こう?」

少し離れた場所を歩いていた凛が悠太に声をかける。

それぞれの部屋があるフロアへ一緒に向かい廊下で別れると、凛は悠太の方を振り返り、年相応の少女のような笑顔で軽く手を振った。

「また明日ね、甘露寺くん。おやすみなさい」

「……ああ、おやすみ」

悠太も軽く手を上げて応え、自室のドアを開けた。

窓の外には芦ノ湖の静かな夜が広がっている。

(まぁいいや。俺は、俺のやり方で、できることをコツコツと積み上げていくだけだ)

悠太は暗い部屋の中で、自分の中に宿る魔素の胎動を確かめた。

大輝が何を言おうと関係ない。明日は、自分のすべてを他人の前で初めて披露する日。

(恥じることなんてないんだ。これが俺の現実なんだから)

静かな決意を胸に、悠太は深い眠りへと落ちていった。