作品タイトル不明
25.悪役令嬢は地下牢を通り抜ける
シルヴェスターが説明する。
「最近壊れやすいと言われていた石壁があっただろう?」
二層目にあるカーテン・ウォールの一部だ。
少年たちが石材を運んでいるところに遭遇し、現場を見学させてもらった。
「同様の場所は直線上にあった。コスタスが気にした素振りを見せていたのも含めて、もしやと思ったのだ」
坑道はカーテン・ウォールの真下を通り、真っ直ぐ城塞へと続いていた。
「近年の噴水工事による振動で坑道上の地盤が脆くなり、地上で積まれている石壁に影響が出たのではないかとな。坑道戦では石壁の真下に細工し、石壁を人為的に崩すこともある」
初日、船着き場に着いて早々、シルヴェスターとトリスタンは坑道戦について話していた。それが活きることになるとは。
「では、トリスタン様は反対側の入り口を発見されたのですか?」
「いえ、探したんですが入り口はありませんでした。ダメ元で崩落した石壁近くを掘ったところ、坑道に行き着いたんです」
反対側は石壁ではなく土があるだけなので、掘ろうと思えば掘れるらしい。
「よく掘削の許可が下りましたわね?」
この質問にはシルヴェスターが答える。
「人命がかかっていると説いた。でなければ自慢の城塞都市に、大きな穴を空けるなど許されなかっただろう」
散策は許可できても、壊すのはまた別の話である。
「リーウェイ殿下のおっしゃるとおり、財宝が出たときにはケントロン国に一任するとも伝えたがな。今の我々は被害者を見付けるのが最優先だ」
「か、家宝だけは、こっちに頂戴や?」
チクリと釘を刺され、リーウェイが眉尻を落とす。
事実、不当に奪われたファンロン王国の家宝があるなら、ケントロン国も譲歩する。何かしら条件は付けられるかもしれないが。
坑道を見ていた騎士が問う。
「城塞を攻めるための坑道でしょうか?」
「というよりも築城時、ものの運搬に利用されていたのではないか。城塞が完成した折に、出口は塞がれた。坑道の存在を知ったナイジェルが石壁のほうを開け、再利用したのだと考えている」
埋められずに残っていたのは、いざというときの脱出口だった可能性もある。
けれど騎士が存在を知らないとおり、城塞の地図には載っていない。
「コスタスとマリタの共通点には、家が築城に関わっていたことがある。この二人には口伝で坑道のことが伝わっていたのかもしれぬ」
「なるほどっ、だから坑道の存在を思いだして発見されると危惧した人間が、二人を攫ったんか! んで、口伝を地図に残したりしてないかマリタの部屋を探したと」
コスタスは二十三年ぶりに城塞都市へ戻った。ずっと地図を持ち歩いているとは考えにくいし、手荷物の少なさから、荒らす前に探し終えてしまったのかもしれない。
説に納得したリーウェイは、トリスタンの働きにも感心する。
「それにしても危ない橋を渡ったんやなぁ。一歩間違えたら生き埋めになってたかもしれんのやろ?」
地盤が脆くなっていたのなら、地上の土が坑道に向かって落ちてくる危険性は十分にあった。
「あっ、言われてみれば! 坑道を発見した興奮で失念していました。だから土木業の人たちにも止められたんですね……」
土を掘るので、話を通し、手伝ってもらったという。
「無事で何よりですわ」
「金貨も見付けましたしね。半分埋まってましたけど」
入れ物からこぼれてしまったのだろう。
「財宝は動かされたあとっちゅーことやね」
坑道にあったのは、ナイジェルの遺産が隠されていた形跡だった。
シルヴェスターが地面を注視しながら口を開く。
「もしかしたら移動させたのは、最近かもしれぬぞ」
目を凝らすと、土がこぼれていた。
地上から地下四階に下りるには距離があり、仮に靴に土が付いていても途中で落ちるはずだ。
土は、上ではなく下へ向かっていた。
「これは、この先へ行くのが楽しみやなぁ!」
ようやく財宝とご対面かと、リーウェイは目を輝かせる。
坑道の存在が発覚し、拍子抜けしていたとは思えないほどだ。
彼は忘れているが、クラウディアたちはコスタスたちの行方に注視する。
財宝は既になく、隠されていた彼らが移動させられた可能性があった。
◆◆◆◆◆◆
地下四階には地下牢が設けられていた。
両端にある坂と平行になるよう、中央に広い廊下が通っている。
そこを抜けないと反対側にある坂へは行けず、必然的に牢屋の前を通ることになった。
気分が落ち込みますね、とトリスタンが肩を落とす。合流後は、彼がしんがりを務めた。
滅入るのも無理はない。
普段使われてないからと、ここには明かりがなかった。
夜の海のように暗い。
ゆらり、と騎士の持つランタンが揺れる。
「見回りでは廊下を通るだけです」
「だが、今はそうはいかぬ」
犯人がここを通った以上、コスタスやマリタを牢に入れたかもしれない。
一つ一つ人影がないか確認する必要があった。
牢屋は廊下に面しており、石壁に囲まれた正面には鉄格子がはめられている。
施錠に使う鍵は、地下一階にある鍵付きの棚にあった。鍵やドアが壊れていない限りは中に入りようがないので、ドアを入念に調べる。
ガチャン、ガチャン。
騎士が鉄格子のドアを揺する。
ガチャン、ガチャン。
一つ進んでは、同じことの繰り返しだ。
必然と歩みは遅くなる。
揺れるランタンの明かりを目印に、そろそろと前進していく。
気付けばクラウディアはシルヴェスターに触れ、ヘレンがクラウディアに触れていた。
距離感が掴めず、団子状態になってしまうのだ。
「ここが最後の牢屋です」
ガチャン、ガチャン。
開いている牢屋は一つもなかった。
何事もなく検分が終わったことで、一同胸をなで下ろす。
廊下の突き当たりを曲がり、海側へ。
ゆるやかな坂を下り、地下五階を目指す。
窓から入る光に、誰ともなく、ほっと息をついた。重苦しい空間から解放されたのを実感したのだ。
癒やしを得ながら地下五階へ到達する。
坂を下りきり、地下五階にある船着き場へ続く廊下に入ったときだった。
うわっ、という小さな声と共に、先頭を歩いていた騎士がつんのめる。
何かに足を引っかけたようだ。