作品タイトル不明
13.悪役令嬢は見学する
予定通り――途中、予定外の人間は増えたが――クラウディアたちは馬車で、浅い洞窟のあった二層目へ向かった。
二層目は、城塞のある岩山をぐるりと囲むように広がっている。
侵攻されにくいよう、各層の城門は真っ直ぐには繋がっていない。
一層目から二層目に入る城門と、二層目から城塞に入る城門は、二層目の端と端にあった。
前回は城塞に入る城門近くで降りたため、今回は二層目に入る城門近くを散策する。
こちら側は一層目に面しているからか、壁となるカーテン・ウォールが二重につくられていた。
トリスタンが、うきうきしながら検分する。
「カーテン・ウォールの厚さは二メートルほどですね。全て石でつくられているんですか?」
「いえ、外側のみ石を積み、内側には土を詰めてあります」
近衛のコスタスがつくりを教えてくれるのが、大いに役立った。
(こうして考えると、人材の流出は痛手だわ)
築城における知見が、敵国にわたることもあるのだ。
現在は平和だからこそ、コスタスも国を出られたのだろうけど。
「近くで見ると凄い厚さやなぁ」
「薄いとすぐに壊されてしまいますからね。トンネルも掘りやすいですし」
トリスタンの補足に、坑道戦という言葉が頭を過る。
壁が薄ければ、地下を掘る距離も短くて済んだ。
「二メートルは薄いほうで、特に基部は三メートルから四メートルでつくられることもありますよ」
攻守どちら側になるとしても、拠点の防衛力を計るには、建材や技術にも精通しておく必要がある。
トリスタンは自分に必要なことをしっかり学んでいた。
(この光景を、ルーに見せたいわね)
物理的な防衛に関することを、クラウディアやルイーゼが学ぶことはない。
貴族令嬢に求められるのは、間接的な交際や交渉での取り組みだからだ。
専門分野で輝くトリスタンを見れば、きっと惚れ直す。
(早く正式に婚約が認められれば良いのだけれど)
自分を含め、トントン拍子に結婚、とはいかなかった。
ゴロゴロと重いものを運ぶ音が聞こえ、視線を巡らす。
十代前半ぐらいの少年たちが、二人で大きな石が積まれた手押し車を押していた。
「これは何に使うものですの?」
「えっ!?」
気になって声をかけたものの、突然過ぎたのか少年たちが固まってしまう。
状況を察した近衛のコスタスが間に入ってくれた。
「現場に高貴な方が来られることはありませんから、城塞都市の島民といえど、慣れていないんです。これは今から修繕に使うのか?」
前半はクラウディアへ、後半は少年たちに向かって話かける。
コスタスは石材の形から、用途がわかっていた。
コスタスが島の出身で、採鉱師の生まれだと知り、少年たちの緊張が解れる。
「うん。最近になってカーテン・ウォールの一部が崩れやすいんだ……この石は修繕用だよ」
「親方は経年劣化だろうって言ってた」
話を聞き、シルヴェスターが崩れた壁に興味を持つ。
「見学させてもらえぬか?」
「自分たちも一緒に行かせてくれ。親方には話をつける」
シルヴェスターは問うたが、コスタスは訊ねなかった。
現場は、一国の王太子の見学を断る立場にないからだ。前もって自由に散策していいことは、ケントロン国の王太子から許されてもいた。
場所はクラウディアたちがいる内側の壁らしく、そう遠くないという。
少年たちが前を歩き、クラウディアたちはあとに続いた。
先ほどのやり取りから学びを得て、質問はコスタスにする。
「石を手押し車に積んだのも彼らかしら?」
少年たちのタンクトップから伸びる腕には筋肉があり、日に焼けて健康そうではあるものの、石材を扱うには力が足りないように見えた。
コスタスが質問を繰り返し、少年たちが答える。
「そうだよ。これぐらい慣れっこ」
「てこを使ったら簡単だし」
重いものは、てこの原理で持ち上げて動かすとのこと。
移動には丸太を使う方法もあり、臨機応変に使い分けていた。
崩落現場は、近付くとすぐにわかった。
壁面上部の石壁が崩れ、中の土が露出している。
頂部には滑車があり、足場も組まれてあった。
現場に到着した大きな石は、その場で割られ、石材へと変えられる。
過程をコスタスが説明してくれた。
「職人はどこに力を加えれば、綺麗に石が割れるか『読む』ことができます。位置がわかれば直角にくさびを打ち込み、間を空けて、もう一つ。もう一つと打ち込むうちに石が割れます」
運ばれた石の大きさぐらいなら、一つ打ち込んでいけば十分とのこと。
視界の端で、カタカタと音を鳴らしながら滑車が石材を持ち上げていく。
「これ以上の接近は危険です。確認したいものがあれば、自分が確認します」
また崩落があるかもしれない。
コスタスの注意に従い、クラウディアたちは少し離れた場所から見学した。
少年たちは手際良く石材を運び、現場の作業員を手伝っている。
「カーテン・ウォールの中に隠すのもありかと思ったのだが、難しそうだ」
「あ、隠し財産のことですよね? 僕も考えました」
壁は中の土を取り除けば空間ができた。
表面の石材を動かせるようにしておけば、良い隠し場所になりそうなものだけれど。
案として成立するとコスタスは答える。
「木材で枠組みをつくっておけば、空間は確保できます」
「ああ、可能ではあるだろう。だが、経年劣化が最大の敵だな」
いつどこが崩れるかは、誰にもわからない。
定期的に検査していても、自然が相手だ。嵐などが来れば、どうなることか。
「修繕の際に、運悪く見付かってしまうリスクは背負えぬ」
「せやねぇ。石材一つ分ぐらいの小金なら、見付かっても誰かのへそくりぐらいに思われるやろうけど」
ナイジェル枢機卿がそんなみみっちいマネはせんやろ、とリーウェイはシルヴェスターの肩に手を置く。
すぐさま振り払われるのを見て、クラウディアは苦笑が漏れた。
(リーウェイ殿下はパーソナルスペースが狭いのかしら。胆力だけは認めましょう)
同行を申し出たのもそうだが、シルヴェスターの怒気をあれだけ浴びて、よく傍にいられるものだ。
クラウディアと目が合うと、笑顔を送るのも忘れない。
「崩れやすいと言っていたが、他にも崩れたところがあるのか?」
念のため、シルヴェスターが場所を聞き出す。
指し示されたのは、直線上にある外側のカーテン・ウォールだった。
二重になっているカーテン・ウォールは、間に乗馬の練習ができる馬場が設けられいる。外側は、その馬場を挟んだ向かい側の壁を指した。
コスタスは視線を巡らせて考え込む。
「どうかしたのか?」
「いえ、気にしないでください」
発言するほどのことではなかったようで、最後には軽く左右に頭を振っていた。
「よければ、もう少しお話を窺えないかしら?」
クラウディアは折角だからと、コスタスを通して少年たちに頼む。
子どもの視点で、何か気になっていることはないか知りたかったのだ。
「面白い話はないけど……あ、お前、あれは? 泣きべそかいてたやつ」
「泣いてねーし!」
少年の一人が、井戸から化け物の声を聞いていた。