作品タイトル不明
11.悪役令嬢は提案する
手慣れた動きに驚いていると、少年たちと言葉を交わしたルキが視線を送ってくる。
事情があるのを察し、クラウディアも路地へ向かった。
「この方が、おれのご主人様だ」
ルキが少年たちにクラウディアを紹介する。
微笑むと、揃って口ごもった。
すかさずルキが一番近くにいた少年の頭を叩く。
「一丁前に照れてんじゃねぇよ。ここじゃろくに話もできねぇ。どっかいいところはないか?」
大人三人と子ども四人が路地で集まっていたら悪目立ちする。
標的だった商人に気付かれないうちに移動したほうが無難だ。
少年たちに案内され、クラウディアたちは地元民しか知らないという空き地へ着いた。
「倉庫に入りきらなかったものを置いとく場所なんだ」
船で輸送されてきた物資の一時置き場らしい。倉庫街から少し離れているため空いてるときのほうが多く、子どもたちの遊び場になっていた。
「おれたち、父さんを守りたいんだ。えっと、おれはセル。こっちが妹のミチ」
あとの二人は友だちのようで、それぞれ自己紹介してくれた。
「あの商人を狙った理由は、みんな一緒だよ」
「あたしが言ったの! このままじゃ、お父さんたち倒れちゃうって」
勇ましいことに、今日の商人襲撃は一番年下のミチの提案だった。
「お父さんたちがどういう状況なのか、詳しく教えてもらえるかしら? 大変そうだって、思うようになったのはいつから?」
質問の焦点を絞り、優しく問いかける。
話が長くなると悟ったルキが、近くに転がっていた木箱を椅子として差し出してきた。クラウディア用には、汚れないようハンカチまで敷かれている。
少年たちも慣れた様子で、木箱に腰掛けた。
ミチが考えながら答える。
「うんとね、ちょうど一年前ぐらいかな? あの商人の船で、お父さんたちが働くようになったの」
商人は商船会社を運営し、父親たちは船を動かす乗組員として雇われたという。
提示された金額に惹かれたのだが、それは過密労働と引き換えだった。
ミチの言葉を兄のセルが引き継ぐ。
「前は、家に帰ったら休みがあったんだ。けど、あいつに雇われてから、すぐまた仕事に出るようになって……」
「あたしたちは止めたの。働き過ぎは体に良くないでしょ?」
実際、倒れた人もいるという。
心配になり、家族で必死に止めたものの、聞く耳を持ってもらえなかった。
「父さん、家にいる間はずっと上の空で。話しかけても会話にならないっていうか……だいぶ疲れてるんだ」
「このままじゃ、お父さんも倒れちゃうよ」
涙目になるミチを、セルが慰める。
友人たちの父親も同様だった。
「話はできるんだけど……なんか別人になったみたい」
「おれたち、お金に困ってるわけじゃないのに、すぐに仕事仕事ってさ」
父親たちの過労死を防ぐため案を出し合い、行き着いたのが商人を町から追い出すことだった。
襲撃し、大きなケガを負わすことで、ここにいるのが怖くなって出ていくと考えたらしい。
商人さえいなくなれば無理な仕事もなくなり、父親たちも家にいられると、少年たちの頭の中では、完璧な計画だった。
「侍従さんに失敗するからやめろって止められたけど」
「そうね、商人には護衛もいるし、騒ぎになれば警ら隊も駆け付けてくるわ。第一、成功するしないにかかわらず、人を襲うのはいけないことよ」
セルは唇をとがらせ、ミチも他に方法がないと主張する。
「お母さんたちは知っているの?」
「ううん、知らない。お母さんは説得してダメなら、どうしようもないって」
夫は仕事に行き、給料を持って帰る。
体が心配であるものの、おかげで家の財布にゆとりができているのも確かだ。
将来のことを考えて、消極的になるのも頷けた。
(もしかしたら情勢不安も手伝っているのかしら)
港町ブレナークでは、選り好みしなければ仕事にあぶれることはない。
ただ最近の難民問題が影を落とし、難民に仕事を奪われるかもしれないと危機感を持っている可能性はあった。
「警ら隊にも相談したんだけど、父さんが決めたことだからって、取り合ってもらえなかったんだ」
少年たちも頼れるものがなく、切羽詰まった上での行動だった。
放っておけば、また何をするかわからない。
「そうね、わたしたちのほうで一度調べてみましょうか」
「調べる……?」
「あなたたちのお父さんが仕事場でどういう状況か確認するの。商人が本当に悪い人かどうか。悪い人なら、わたしが法に訴えるわ」
「本当!?」
クラウディアの提案に、少年たちは顔を輝かせた。
自分たちより身なりの整った大人に任せたほうが良いと判断したのだ。
加えてルキが強いのは、身に沁みてわかっている。
「ただ、このことは、わたしたちだけの秘密よ」
目立ちたくはないため、クラウディアはぱちん、とウィンクを送る。
またもや大人しくなった少年たちの頭を、ルキが叩いた。
「だから照れるなって」
「照れてないし……!」
「おーおー、顔が真っ赤だがなぁ」
「ちーがーうー!」
じゃれるルキは心底楽しそうだ。護衛のハーマンも一緒に笑っている。
仕事をしていない普段の顔に触れられた気がして、胸が温かくなった。
――この笑顔を守りたい。
改めて自分の行動原理に触れる。
まだ件の商人が「悪」と決まったわけではないが、最終的には少年たちにとって未来ある形で決着をつけたかった。
セルとミチの兄妹、その友人たちと分かれて、改めて馬車の停留所へ向かう。
「先に首を突っ込んだおれが言うのもあれですけど、請け負って良かったんですか?」
「ヒースの返事をただ待つよりはいいわ。見過ごせないしね」
解決より早く連絡が来れば、構成員たちに引き継ぐだけだ。
「それに問題の本質をとらえておきたいの」
何が原因で事態が起きているのか。
書類上では感じ取れない現場の機微を含めて、自分たちを取り巻く状況を確認しておきたかった。
リンジー公爵領での反省もある。
人は万能ではない。そんな当たり前のことを見過ごした結果、一人の修道者が命を絶とうとした。
(わたくしには行動できる力がある)
手足となって動いてくれる人たちがいる。
ならば立ち止まる理由はない。
問題に取り組むべく、クラウディアは顔をあげ、次の行動を示した。
「高級宿を取りましょう」