作品タイトル不明
12.悪役令嬢はお守りを得る
自室へ戻り、クラウディアは貰ったプレゼントを開ける。
エリザベスとリリスからは冬用の手袋が贈られた。
手触りから最高品質のものが用意されたのだと知る。
青と黒を基調にしながら、アクセントには金色が用いられていた。
クラウディアに似合うよう、見た目は正反対なエリザベスとリリスが、顔を突き合わせながらデザインを考えたのかと思うと胸がほっこりする。
「すぐに活用できますね」
「ええ、次に出かけるときは、この手袋に合わせた装いにしてくれる?」
「かしこまりました」
次いでヴァージルからの包みを開封する。
「まぁ、ブレスレットだわ」
「綺麗ですね。使われている宝石はサファイアでしょうか」
蜜を垂らしたかのような細いシルバーチェーンの先には、クロッシングスターの土台があつらえられ、青い輝きが一等星となって存在感を示していた。
サファイアは小指の先にのるぐらいの大きさだったが、繊細にカットされ、夜空を宿している。
その青の濃さにハッとして、クラウディアはブレスレットを持ち上げた。
「しかもリンジーブルーよ」
「あのリンジーブルーですか!?」
家の名前を冠した色名に覚えがあったヘレンも驚きに声を上げた。
リンジー公爵家領地の最北端にそびえ、北風を防いでくれている山脈。そこにサファイアの採れる鉱山があった。
多くは、青色の中に緑色が閉じ込められているような、冬の海を連想させる色合いなのだが、稀に、混じりけのない青一色のものが採掘された。
見る角度によって色が濃くなる部分は、時に黒くも映る。
鮮やかな青と黒を宿す様が、リンジー公爵家に受け継がれている黒髪と青い瞳を想起させることから、その名が付いた。命名は一瞬で決まったという。
主人の色を宿したサファイアを前に、ヘレンは溜息を漏らしながら感嘆する。
「ヴァージル様だから用意できたものですね。さすが気合いの入れようが違います」
「補佐役の重みを感じるわね」
エリザベスから聞いた話が蘇る。
元は聖女に与えられていた称号だったことを。
聖女祭では、聖女の滞在後、補佐役が人々の心の拠り所になるのだ。
厳しいものではないとはいえ、期間中は生活に制限が設けられる。
制約について異論はなかった。むしろあって当然だとすら思う。
心に引っかかりを覚えるのは、本当に自分でいいのか、というところだ。
前世、それこそ逆行する前までは、神の存在について疑念を抱いていた。
今でこそ疑いようがないけれど、不信心だった過去がある。
母親が望んだ通り、完璧な淑女であるよう心がけてはいる。とはいえ、それはあくまでハーランド王国内においてのことであり、一面に過ぎないとクラウディアはわかっていた。
どんな正義も裏を返せば悪なのだ。そして、その悪を自分は認めている。
聖人であるとは到底思えなかった。
視線が下がったことに気付いたのか、ヘレンがそっと手を重ねてくる。
「わたしにはクラウディア様以外でお役目を全うできる方が思い浮かびません。わたしにとっては既にアプリオリであらせられますから」
教会からの任命に関係なく、心の拠り所であると語られる。
ヘレンの温かい笑みにつられ、クラウディアも頬が緩んだ。
改めて贈り物を一つずつ眺める。
ヴァージルからのブレスレットに限らず、エリザベスとリリスからの手袋も、傍で応援しているというメッセージが込められていた。
二つを手にし、そっと胸に抱く。
たとえこの先、困難が待ち受けていても、これがあれば必ず乗り越えられると。