軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38.第六章、完

王都郊外にある修道院。

取り壊しが決まった古城近くの林にある墓地を、クラウディアは訪ねていた。

風が木の葉を揺らす音を聞きながら、目的の場所へ向かう。

王妃の話を聞く前から、クラウディアには気になっていることがあった。

一度パトリックに暴かれ、事件後、整頓された名前のない墓石の前に立つ。

木漏れ日が、クラウディアへ降り注いだ。

「あなたも逆行したの?」

予言の力を持った女性。

彼女が力を失ったのは、逆行前より生きながらえたからではないか。

墓石は何も答えない。

もしかしたら本物の予言者だった場合もある。

それでもクラウディアは、この特別な力を持った女性の人生が、他人事には思えなかった。

卒業した学園で企画した、学園祭を思いだす。

逆行前は、異母妹の案だったことを。

内容はクラウディアが自分で考案したものだが、過去の歴史を知っている。

クラウディアが逆行後に頼ったのは、娼婦時代に培った技能だったけれど、そこには知識も含まれた。

(選択を誤れば、わたくしもあなたと同じ末路を辿っていたかもしれないわ)

ふう、と息を吐き、背筋を伸ばす。

そして。

「過去に囚われないでください」

劇場で会った青年からの言葉を伝えた。

彼の言葉は、自分にも、司祭にも、パトリックにも通じるものだ。

もし予言者も逆行していたなら、と同じ言葉を届ける。

(これで全員に伝わったかしら)

たった一つの言葉。

この言葉を色んな人に届けたかったがために、青年はクラウディアの前に姿を現したのではないかと思う。

予言者の墓前を辞し、次なる墓石へ移動する。

墓石には、クリスティアン・サンセットと名前が刻まれていた。

劇場で会った青年を頭に浮かべる。

「どうしてかしら、日を追うごとに、あなたの記憶が薄れていくの」

確かに顔を合わせたはずなのに。

目鼻立ちはもちろん、これといった特徴ももう思いだせない。

残っているのは、クリスティアン・サンセットという青年貴族が存在したという事実だけ。

こうして人は死後、忘れ去られるのだと、体感させられているようだった。

「でもね、不思議と持って行くのは、このドライフラワーが良いと思ったのよ。枯れないからかしら?」

喜んでくれると嬉しいわ、とクラウディアは墓石に花束を供える。

やりたかったことを全て済まし、馬車へ足を向けた。

銀糸が日の光を跳ね返して煌めくのを見る。

シルヴェスターが馬車の前で待ってくれていた。

目が合い、二人揃って微笑みを浮かべる。

墓石の前では、花束から顔を出した花が涼やかな風に揺れていた。

白い小花が連なる姿は、雪が積もった木を連想させる。

他にも花束の中には、薄いピンク色のものもある。

添えられた花の名前は、アスチルベ。

花言葉は――自由。